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大切な人が急性白血病になっても、あなたができることはたくさんあります #24

こんにちは、緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

今日のテーマは「治療が始まる前からのご家族への関わり」です。

胃がんや肺がんなどの場合、診断されてすぐに治療を開始しなければいけないわけではありません。なぜなら、がん細胞の増殖するスピードは、がんの種類、あるいは個人によって違いますが、早くても週単位、あるいは月単位程度だからです。

ところが、急性と名前のつく血液の病気、例えば急性白血病などは、ある日急に発症して、日ごとに悪化することもよくあります。診断された日に入院して、翌日から治療開始というケースも稀ではありません。

ですから、この病気を告げられた患者さんご本人、家族は考える間もなく治療に入らないといけないので、気持ちが付いていけないケースも非常に多いのです。

今回は、そうした急性白血病の患者さんのご家族のケースについてお話します。

前回は急性白血病で骨髄移植を行う患者さんのケースを書きました。お時間がある方はそちらもよろしくお願いいたします。

とある患者さんのお父さんから緩和ケアチームにこのようなご相談がありましたので始めにご紹介いたします。

私の14才の息子が急性白血病となり入院して治療予定です。一昨日、息子に病名が告げられた時は、息子はびっくりして落ち込んでいましたが、今は頑張って治療を受けると言っています。
ところが、その時、妻は貧血発作を起こしてしまいました。今も時々、胸がどきどきすると言って、眠れないようです。
緩和ケアチームというのがこの病院にあって、患者や家族の気持ちのケアをしてくれると聞いたので、息子と妻のことをお願いしたいと思いました。

それでは、緩和ケアチームがこのご家族にどのように介入したのかをお話ししたいと思います。

このお話を聞いた翌日、緩和ケアチームのメンバーが息子さんの病室を訪問しました。

息子さんは、「昨夜はあまり眠れませんでしたが、今は気持ちも落ち着いていて頑張ろうと思っています」と話されました。

緩和ケアチームは今後治療が終わるまで、息子さんに関わり、心身のケアをして、治療を達成させるためのサポートをすることをお伝えしました。そして、息子さんはそれを了承されました。

お父さんのご希望で、息子さんとは別室でお母さんと面談をしました。

「昨夜は心配で全く眠れませんでした。今もやや胸がドキドキしています。とにかく息子が心配で。代われるものなら、代わってやりたいと思っています」とお母さんは話されました。

実は、彼女は20代前半にパニック障害になり、心療内科クリニックに通っていたことがありましたが今は治療はしていない、ということも話されました。

「何故早く見つけてあげられなかったのか。1か月前から鼻血が止まりにくいことがあったんです。あの時に病院に連れていってあげれば・・・。自分はこれから何をしてあげたら良いのか。わかりません」とお母さんは涙されました。

息子さんにはもちろん、お母さんに対しても緩和ケアチームが定期的に診察することをお母さんに約束しました。

また、臨床心理士もお母さんに定期的にカウンセリングをすることにしました。臨床心理士は、しっかりとお母さんのお気持ちを受け止めたあと、「急性白血病は急に発症することが多いので、みなさんあなたのように気持ちが動転します。誰でも動転すると思います。また、この病気は早く見つけることが難しくて、この病気になったことは誰のせいでもありません。主治医の先生が言われたように、しっかり治療すれば十分完治が望めます。今後は私たちも定期的にお話をお聞きしたいと思います。一緒に息子さんをサポートしましょうね。」とお伝えしました。お母さんは安心したようにうなずかれました。

2週間後のことです。息子さんが抗がん剤の副作用で高熱をだされました。

すると、それをみたお母さんは、急に呼吸が苦しくなり、緩和ケア外来を受診されました。

点滴をして、やや気持ちが落ち着かれたところで、臨床心理士がお話を聞きました。

「息子が熱でうんうんうなっているところを見たら、急に胸が苦しくなって、息がしづらくなりました。でもここで点滴していただいたら楽になりました。」とお母さんは話されました。

緩和ケア医は以前患っていたパニック障害が悪化したと判断し、その治療をすることにしました。

その後、お母さんが「息子に何かしてやりたいが、やり方がわからない」と言っているのを、病棟の看護師から緩和ケアチームの看護師が聞いてきました。

そのことについて緩和ケアチーム内で相談しました。

息子さんが食べたいものを、お母さんに作ってもらったらいいのでは、ということになり栄養士が息子さんの食べたいものを聞きに病室を訪問しました。

息子さんは抗がん剤の副作用である吐き気はましになり、柔らかいものなら食べられる状態になっていました。

栄養士が息子さんに好きなものを聞くと、小さいころから食べていたお母さんが作ったプリンが好きだと答えたので、主治医の許可をもらって、お母さんにプリンを作ってきてもらいました。息子さんはプリンをおいしそうに食べ、「入院して初めておいしいものを食べた」と言われました。

アロマセラピストは、少し前から息子さんのケアに介入していたので、マッサージの方法をお母さんに教えて、息子さんにしてあげるようお伝えしました。それからお母さんは毎日アロママッサージを、息子さんにしてあげていたようです。

その後、息子さんの血液内からがん細胞が消えたので一旦退院となりました。

お母さんは「おかげさまで薬が効いて、いったん退院できることになりました。私のほうも緩和ケアチームの皆様がいなかったら、あの時どうなっていたかわかりません。息子は私の作ったプリンを食べてから、だんだん食欲が出るようになりました。栄養士さんのアドバイスのおかげです。アロママッサージをしてあげている時の息子は本当に気持ちよさそうです。退院してもしてあげるつもりです。今後も、入院して治療を続けると思いますが、その時はよろしくお願いします。」と言われました。

いかがだったでしょうか。ご家族に緩和ケアチームは以上のような対応をさせていただきました。

ご家族は、患者さんに何もしてあげられないと思いがちです。しかし、緩和ケアチームはご家族であるあなたのこころのケアと、あなたができることの提案をいたします。

あなたの大切な方ががんになった時、その方のケアだけでなく、われわれ緩和ケアチームは、あなたがつらくなったときに支えることのできる存在でありたいと思っています。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
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