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【医】症状緩和に最適な「皮下投与」を在宅医の先生に知ってほしい #93

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「在宅における皮下投与」です。

動画はこちらになります。

今日は医療者、特に在宅ケアを担当している、医師、看護師、薬剤師の皆さんにお話します。

病院で治療していたがん患者さんが自宅に帰った際、内服が何らかの理由で困難になったとき、皆さんはどうしますか?

点滴、座薬、張り薬を選択する方もいると思います。けれども、それらにはデメリットも多いのです。そんな時に在宅でも安全で簡便で、とても効果的な方法があります。

それは、皮下投与です。

今日は、在宅で活躍する皮下投与についてお話します。

この記事を見ることで、在宅での患者さんの症状緩和に自信をもち、最期まで自宅で治療・ケアができる医療者が増えればうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


皮下投与は在宅での症状緩和に最適

結論から申し上げます。

薬が内服できなくなった患者さんの薬剤投与ルートは、皮下投与が最適です。

自宅に帰って最期まで自宅で過ごしたいと思う患者さんや、最期を自宅で看取りたいと思うご家族は増えています。ところが終末期には、痛み、呼吸困難、不眠などの身体症状や、せん妄などの精神症状が悪化してきます。

これらの症状をしっかり緩和することが、在宅ケアの継続には必須です。しかし、患者さんの病状が進行すると内服が困難になってきます。そうなると、口以外からの投与方法を考えなければいけません。

病院ですと点滴をまず考えますが、在宅では、医療者が常時患者さんについているわけにはいかず、また末梢静脈ルートの確保も難しい場合も多いのです。座薬を使うこともできますが、薬剤が限られますし、患者さんの不快感もあります。

医療用麻薬のフェンタニルパッチを使う方も多いようですが、効果は限られているうえに、用量調節が難しく、レスキューがありません。フェンタニルパッチについては別の記事で詳しく説明していますので参考にしてください。

結局、十分な症状緩和ができずに、患者さんが苦しみながら最期を迎えなければならなかったり、救急車で病院に運ばれて、そこで最期を迎えなければいけなくなったケースを私は多く見てきました。

そんな時、皮下投与のスキルがあれば、患者さんの苦痛をしっかり緩和でき、自宅で最期まで過ごすことができるのです。

そんなことを言っても、病院やホスピスならできるかもしれないけど、在宅で皮下投与はできるの?

皮下注射には、大きな持続ポンプが必要で、患者さんに負担をかけるのではないの?と思われる医療者もいるかもしれません。

実は最近では、持ち運びができる電動ポンプや、ディスポーザルポンプがあり、患者さんやご家族が家でも簡単に扱えるものが増えてきています。また皮下投与の手技は簡単で、在宅でも安全に扱えます。

皮下投与は、在宅ケア中の患者さんの症状緩和にとても有用です。ぜひ、皮下投与を先生方の治療法に取り入れて、患者さんの症状緩和に役立ててください。


2種類の皮下投与

皮下投与の方法については、皮下点滴と、持続皮下注射の2種類があります。

皮下点滴は、前世紀の時代には良く使われていた治療法でした。しかし、医療器具の発達とともに、経静脈的な輸液が多くなり、皮下点滴は次第に行われなくなってきました。

ところが最近では、皮下点滴は在宅、ホスピスを中心に有用性が見直されてきました。なぜなら、皮下点滴は経静脈ルートをとるよりも簡単で、安全なので在宅では使いやすいからです。

プラスチック留置針を用いて皮膚に穿刺し、輸液します。
投与量は個人差がありますが、20~100ml/時で吸収が可能です。
通常は500ml/日、最大1500ml/ 日くらいまで投与できます。

一方、持続皮下注射には、電動シリンジポンプ、ディスポーザルポンプを使います。色々種類がありますが、私はディスポーザルポンプであるク―ディック・シリンジェクターを使っています。

始めに紹介したYouTubeの動画で、ク―ディック・シリンジェクターの実物を用いて使い方を紹介しています。ぜひご覧ください。


皮下持続注射の実例

1. 疼痛、呼吸困難

医療用麻薬が内服できなくなったら、フェンタニルパッチを考える先生方は多いと思います。しかし、用量調節が難しく、レスキューがありません。呼吸抑制の危険性もあります。

医療用麻薬の注射薬を持続皮下注で使えば、量の調節ができ、患者さん・ご家族がPCAのボタンを押すことで、レスキューが可能です。また、呼吸困難の症状緩和には、フェンタニルは効きません。

疼痛の緩和にはモルヒネ、ヒドロもルフォン、オキシコドンが有効です。
これらは、保険適用になっています。

モルヒネを持続皮下注射で使えば、呼吸困難の症状にも対応できます。

2. せん妄、不眠

終末期には、せん妄を起したり、不眠に悩む患者さんも多いと思います。

コントミン、セレネースといった抗精神病薬、サイレース、ミタゾラムといったベンゾジアゼピン系の安定剤も、皮下投与ができます。2~3種類の薬剤を混注することもでき、夜と朝の量を変えたり、夜間のみ使用することもできます。

3. 鎮静

終末期の耐え難い苦痛に対して、在宅でも皮下投与により、鎮静を行うことができます。

一般的にはミタゾラムによる鎮静が行われます。夜間は皮下点滴を用い、夜間だけ寝て、昼間は会話ができる間欠的鎮静が可能です。

皮下注射により、24時間の持続的鎮静に持っていくことができます。また、フェノバルビタールを皮下投与することで、24時間持続鎮静が可能です。フェノバルビタールは混注ができず、水にも溶解しないので、原液で使用してください。

以上、皮下投与の具体例について話してきました。使ったことのない方は、ぜひとも使用してみてください。

皮下投与についてわかりやすい本を紹介します。タイトルは「症状緩和のためのできる!使える!皮下投与」です。ぜひ読んでみてください。


皮下注射未経験の開業医の話

ある開業医の先生が私に相談してきました。

「がん治療が終わった肺がんの患者さんが在宅に帰りたいということで、僕が往診に行くことになったんです。でもその患者さんは、呼吸困難の症状でモルヒネの持続投与をしているんです。

モルヒネを持続投与できないと家に帰るのは難しいと、主治医の先生が言われるんです。でも、僕は、在宅で医療用麻薬の持続投与をしたことがないんで、どうしたら良いのか分からないんです。」と言いました。

私は、少し考えて、

「先生のクリニックの近くに、A薬局がありますね。そこなら、ポンプに麻薬を詰めてくれますよ。また、皮下注射のやり方も良く知っているので、色々教えてくれます。ぜひ、そこにお願いしてみたらどうでしょう。」とお伝えしました。

その後しばらくして、その先生から連絡がありました。

「先生、ありがとうございました。先生が紹介してくれた薬剤師の方は良かったですよ。私が処方したモルヒネをポンプに詰めて、患者さんの家まで持っていってくれるんです。症状に応じた量の調整もアドバイスしてくれました。

また、訪問看護師も優秀でした。患者さんの状態を細かく私に報告してくれたので、助かりました。最期は少し鎮静させてもらったら、患者さんは穏やかに旅立たれました。

ご家族も、家で看取りたい、と言っていたので、感謝してくれました。在宅でも皮下注射を行うと、うまく症状緩和ができることがわかりました。これからも、これでやれそうです。有難うございました。」と言ってくれました。

この例のように、シリンジェクターへの薬剤の詰め替えは、在宅薬剤師がしてくれるところも増えてきています。

医師が薬剤の量や注入速度のオーダーをしたら、薬剤師が薬剤を詰めて、患者さんのところに届けてくれるところも多いです。在宅看取りに慣れた訪問看護ステーションなら、皮下注射の取り扱いにも詳しいです。

皮下投与に慣れていない先生方も、こうした在宅チームと組めば、皮下投与を患者さんにすることは十分に可能です。皮下投与に慣れていない先生方は、周りにこのような医療者がいないか、探してみてください。そして、一緒にチームとして、患者さんの症状緩和にあたってみてください。

また、在宅医の先生方だけではなく、在宅薬剤師、訪問看護師も、この皮下投与の方法を知って、ぜひ地域に広げることを実践してください。そのことで、最期まで自宅で過ごせる患者さんが増えるのです。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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