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ガン患者に医師が伝える余命はどこまで正確なのか?#183

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん・ご家族の全ての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「医師の伝える余命はどこまで正確なのか?」です。

動画はこちらになります。

サムネイルの言葉に衝撃を受けて来てくださった方は多いと思います。実は皆さんが一般的にイメージしている余命の意味と、実際の余命の意味とは大きく異なっています。

今回はその衝撃的な事実を知ってもらうための記事です。


余命半年だと言われた…

もしあなたが余命宣告、たとえば余命半年だと医師から言われたらどう思うでしょうか?

多くの人は「もう後半年しか生きられないのか」と思うのではないでしょうか。しかし、医師の言う余命半年は実はこのような意味ではないんです。

なぜ私がこのような話をしているかというと、医師の言っている余命の意味を患者さん・ご家族が誤解してしまうと、数字に振り回され、不安に囚われてしまうからです。

そうなってしまうと、本当にしたいこと、やらなければいけなかったことに対して、正しく目が向けられなくなってしまいます。

宣告された余命が正しい、正しくないに関わらず、今のあなたの1日は本当に大切な1日なんです。

余命半年と聞いて「もう後半年しか生きられないのか」と思った人のために、この記事を作ったので、そういう方が今観てくださっていたら私はとても嬉しいです。今回お話しする余命の意味を正しく理解することは、余命に対して不安があるあなたを救うからです。

まだまだ余命なんて関係ないよと思われている方にも、事前に知っておくと転ばぬ先の杖になると思います。

今回のお話は私の診察の中でもよく行う話です。

医師から余命を告げられた方は、みんなとてもショックを受けます。それは当然のことです。しかし、私の話を通じて皆さん安心してくださいます。その皆さんの反応から、これは多くの方に役立つんだと思い、今回の記事を作りました。

診察の中で患者さん・ご家族から私も学ぶことが多く、いつも感謝しています。この内容を通して、あなたには今何が大切なのか考えるきっかけになったら本当に嬉しいです。

今回は「医師の伝える余命はどこまで正確なのか?」というテーマでお話しますが、noteでは、がんのこと、緩和ケアのこと、患者さん・ご家族にとって役に立つ内容を発信していきます。他では聞けないような内容もお話していきますので、見逃したくない方は、ぜひ今のうちにフォローしておいてもらえればと思います。


余命の本当の意味

皆さんは、余命と聞いてどんなイメージを持ちますか?

先ほども言いましたが、余命半年だと医師から言われたら、多くの人は「もうあと半年の命なのか」と衝撃を受けます。しかしそれは違います。

実は余命とは、医学的・科学的に根拠のある、「あなたの残された命の時間」ではありません。

余命とは、過去のデータに基づいた統計的な数字を言っているだけにすぎません。もっと言うと同じ病気の人の生存期間の「中央値」です。中央値については後で詳しく説明します。

実は余命は、個人差がとても大きく、余命半年と言われても何年も生きる方もおられますし、残念ながら余命より短くしか生きられない方もおられます。また、余命は治療の有無や効果によっても変わりますし、治療も日々進歩しているので、過去のデータに基づいた数値はあてにならない場合が多いのです。

つまり、医師には正確な「あなたの残された命の時間」を言い当てることはできないのです。まずはこの事実を知っていただきたいと思います。

余命の数字にとらわれてしまうと、その事ばかり考えてしまい、これからの治療のことや、人生において本当に大事なことに目を向けられなくなってしまう人がとても多いのです。

もう一度言いますが、余命は個人差が大きく、治療の経過によっても変動します。もし主治医から余命を聞いても、そのことにとらわれすぎないようにしましょう。


余命はどうやってわかるのか

では、余命とは一体何でしょうか?
そして余命について、私たちはどのように考えればいいのでしょうか?

先ほど私は、余命とは、過去のデータに基づいた統計的な数字であると述べました。その数字の一つに、生存期間の中央値というものがあります。

では、中央値とは何でしょうか。

同じタイプのがんで、ある治療を受けた人を5人集めたとします。そして、その人たちの生存期間の短い順番に横一列に並べます。その真ん中の人の値を中央値といいます。

例えば、1か月、2か月、半年、5年、10年だったとしましょう。その場合の中央値は半年です。

この例でわかるように、中央値と平均値は違うのです。「余命は半年」といわれたら、それはこのように生存期間の中央値を余命といっているわけです。

しかし、余命半年と言われても実際は1か月かもしれないし、10年かもしれないということです。つまり、自分がどこにあたるかはわからないわけです。

がんと診断され、医師から余命半年と言われても、それは非常にあやふやな数字でしかないのです。

がん治療は年々進歩しており、治療効果も年々向上してきています。

例えば肺がんです。10年前ステージⅣの肺がんは難治で、多くの方が診断されてから長くは生きられませんでした。しかし今では、多くの抗がん剤が開発され、たとえステージⅣであっても5年以上長く生きている人を私は数多く診ています。

また、治療前に言われた余命は、治療を行うとまったく変わってきます。抗がん剤が効いたら、余命は当然伸びるからです。

色々お話してきましたが、正確に残された命の時間を言うことは医師には困難だということは、わかっていただけたでしょうか。

今まで余命はあてにならないとお話してきましたが、唯一、がん患者さんの余命をある程度正確に言える時期があります。

それは終末期後期です。これはだいたい亡くなる1か月前ほどの頃からです。

この時期は治療を終了していますし、どのがん患者さんもほぼ同じような経過をたどるので、終末期のがん患者さんをよく診ている医師ならば、だいたいの残された命の予測がつきます。けれども慣れていない医師の場合、この時期でも余命が正しく言えないこともあるという事実も知っておいてください。

終末期後期、亡くなる1か月前ほどの経過についての記事も作っていますので、参考になさってください。


余命よりも大切なこと

それでは最後に、医師から余命を告げられた時、どう考えればよいのかをお話したいと思います。

まず今まで私が話してきたように、医師が告げる余命は、正確なものではなく、自分に当てはまるかどうかはわからないと思ってください。

医師の言う余命は中央値なので、実際には短いかもしれないし、もっと長いかもしれません。つまり、あなたが今どの位置にいるのかは全くわからないのです。

自分があとどれくらい生きられるのか、誰にもわかりません。私も心筋梗塞・くも膜下出血などの病気や、交通事故で明日死ぬかもしれません。

私たちは誰でもいずれ必ず死にます。残された命の時間は誰にも分からないのです。それなら数字に振り回されるのは、やめませんか?

大事なことは、かけがえのない日々を、前に向かって進むことではないでしょうか。

一日一生という言葉があります。

これは「今日、もし自分や自分の大事な人が死んでも悔いがないこと、そして、今日のこの瞬間を生きることが大事だという気持ちで一日を過ごすこと」という意味です。

朝起きて、今日命があるということに感謝し、夜寝る前に、今日一日生かされたことに感謝する。この気持ちで毎日を生きると、今ある命と向き合うことができ、あなたのかけがえのない時間を本当に大事に使うことができるのです。

あなたが今やるべきこと、やりたいことは何ですか。

今あなたが手掛けているプロジェクトを成功させることですか。

子どもたちが立派に独り立ちするまで、しっかりと育てることですか。

以前から考えていた田舎に移住して農業をすることでしょうか。

自分がしたかったこと、できることを先延ばしにせずに、今やりませんか。

一日一生、あなたにとっての意味をぜひ考えてみてください。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

『医師の伝える余命は正確ではありません。なぜならそれはあくまで中央値で、あなたに当てはまらないことの方が多いからです。数字にとらわれ不安に思わず、前を向いて生きることに目を向けましょう』

今回のお話で余命について多少は理解できたでしょうか?
余命で不安を感じていた人が少しでも安心できたなら嬉しいです。

今回お話した余命に関してだけではなく、がん患者さん・ご家族は不安を感じてしまうものです。それは当然のことです。

私はこの記事を通して皆さんの不安を少しでも和らげたい、緩和ケアをしたいと思っています。不安を感じたらいつでもこの記事に戻ってきてくださいね。

この記事があなたのお役に立ったと思っていただけたら、コメント欄に感想や意見、いいねをしてくだされば嬉しいです。

また次回お会いしましょう。お大事に。

ここまでお読み頂きありがとうございます。あなたのサポートが私と私をサポートしてくれる方々の励みになります。 ぜひ、よろしくお願いいたします。