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初期のがん性疼痛の第一選択薬はアセトアミノフェンを考えましょう【医】#12

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「がん性疼痛の第一選択薬」です。今日は若いドクターにお話します。

動画はこちらになります。

がん患者さんが初めて「痛みが出てきた」と言った時、あなたは何を第一選択薬として使いますか?

私は医者になったばかりのころはロキソニンなどのNsaidsを第一選択薬にしていました。Nsaidsは確かに効果がありますが、がん患者さんに使ってしまうと、胃潰瘍や腎機能障害などの副作用が出てくることがあり、治療中などではあまりお勧めできません。

では、がん患者さんの疼痛緩和の第一選択薬には何を使えばいいのでしょうか?

これを聞いて意外に思う方もいるかもしれませんが、今私が最もお勧めできる疼痛緩和の第一選択薬はアセトアミノフェンです。

昔の私は、アセトアミノフェンはがん性疼痛に全く効かないと思っていました。しかし、今はその有効性と安全性がよくわかり、非常によく使う薬になっています。

ただ、がん性疼痛にアセトアミノフェンを使うにあたっては重要なポイントがあります。

この記事を見ていただくと、基本的緩和ケアで行うがん性疼痛のコントロールを自信をもってできるようになりますので、ぜひ最後までご覧ください。

今日もよろしくお願いします。


アセトアミノフェンは十分量を使う

先ほども申し上げましたが、ホスピス医になった頃、私はがん性疼痛にはアセトアミノフェンをほとんど使っていませんでした。なぜなら、がんの患者さんの痛みにはあまり効かなかったからです。

当時の教科書にも、がん性疼痛にアセトアミノフェンを使うように書いてあったのですが、なんであまり効かない薬を勧めているのだろう、と不思議に思っていました。

ところがある時、先輩の先生からその理由を教えてもらいました。

「日本ではアセトアミノフェンの使用量が少なすぎる、欧米では最低2000㎎/日は使っている、少ない量では効かないよ。」とその先生は言われました。

確かに私は1000㎎/日以下の量しか使っていませんでした。当時日本には200㎎錠の錠剤しかなく、2011年1月まで保険適応上500mg/回。そして1500mg/日 までという制限がありました。もともとアセトアミノフェンは子ども用の解熱鎮痛薬だったからです。

その後、緩和ケアの先生方の努力で、日本でも4000㎎/日まで使用できるようになり、500㎎錠も発売されるようになりました。そして2000㎎/日以上使用するようになると、がん性疼痛に効果を感じるようになりました。要するに、少量しか使っていなかったため、効果が出なかったのですね。

今では、がん性疼痛を訴えた患者さんの第一選択薬として、私はアセトアミノフェンを使います。

そして使う際にはコツがあります。それは十分量を使うことです。

1日2000㎎以上使ってください。また極量は4000㎎です。2000㎎~4000㎎/日使うと効果が出ると思ってください。

また、アセトアミノフェンには点滴もあります。作用発現を早めたいときや、内服ができない時にも使用できます。副作用も少ないです。ただし、大量・長期間使用で、肝臓の細胞壊死の可能性があるので、肝硬変や肝機能障害の患者さんには使用の際には注意が必要です。

しかし、Nsaidsのように、胃粘膜障害や、腎機能障害の副作用もないので、アセトアミノフェンはストレスなく使える鎮痛薬だと思います。

ただ1点だけ欠点があります。それは錠剤が大きいということです。

特に500㎎錠は大きくて、嚥下機能が低下している患者さんは、飲みにくいといわれることも多いです。そんな時は半分にして服用してもらうとか、細粒もあるのでそちらに変えるなどしてください。

アセトアミノフェンだけでは痛みが取れない時は、オピオイドやNsaidsを使用しますが、その際、アセトアミノフェンは中止せずに併用してください。なぜなら併用することで相乗効果が得られるからです。

次に、なぜアセトアミノフェンを中止せずに併用する方がいいのかについて説明したいと思います。


相乗効果のメカニズム

それでは、なぜアセトアミノフェンはNsaidsやオピオイドと併用すると相乗効果があるのでしょうか。

それは、それぞれの効果が発現するメカニズムが違うからです。

Nsaidsは、痛みが発生している部位で、プロスタグランジンの生成を阻害することで鎮痛効果が得られます。つまり、痛みがあるところに直接作用するのがNsaidsなのです。

一方、アセトアミノフェンは、まだ解明されていない点も多いのですが、現在考えられているメカニズムは、末梢ではなく中枢に働くと言われています。

最近の研究で、中脳や延髄のカプサイシン受容体やカンナビノイド受容体を活性化することが、その 鎮痛機序であると報告されています。つまり、アセトアミノフェンの効き方はNsaidsとは違うのです。

オピオイドは言うまでもなく、中枢神経系にあるオピオイド受容体に作用することで、鎮痛効果を発揮します。つまり、3種類の鎮痛薬は効果を発揮する作用点が違うのです。併用をすることでの、相乗効果があるというわけです。


アセトアミノフェンの具体的な使い方

それでは、アセトアミノフェンの具体的な処方の仕方についてお話ししたいと思います。

まず皆さんに言いたいことは、アセトアミノフェンは、がん患者さんが初めて痛いと訴えた時に処方するということです。つまり、初期のがん性疼痛に、いきなりNsaidsやオピオイドを使うのではなく、まずはアセトアミノフェンを使うということです。

がん性疼痛には3種類あります。内臓痛・体性痛・神経障害性疼痛です。

どの種類の痛みでも、アセトアミノフェンを第一選択薬にしてください。

具体的な処方としては、カロナール®500㎎錠4T を分4食後、眠前です。最低2000㎎/日は使ってください。それでも痛みが取れない時は、アセトアミノフェンを増量します。極量は4000㎎/日ですので、カロナール®500㎎錠8Tを分4食後、眠前となります。

体性痛の場合には、アセトアミノフェンをベースにして4回/日定期的に投与。体性痛では、体動時に痛みが強くなることが多いので、アセトアミノフェンに加えて、頓服としてNsaidsまたはオピオイドを用いてください。場合によっては両方使うこともあります。

具体的には、カロナール®500㎎錠4Tを分4食後、眠前の定期処方に加え、ロキソプロフェン®錠1T疼痛時か、ナルラピド®1㎎錠1T疼痛時という具合です。

内臓痛の場合にも、アセトアミノフェンをベースにして4回/日定期的に投与。それでも痛みが取れない場合には、それに加えて、オピオイド頓服またはオピオイドの徐放製剤を経口投与してください。

内臓痛の場合、オピオイドがよく効くのと、Nsaidsは副作用が多いので、長期では使いたくないからです。

具体的には、カロナール®500㎎錠4Tを分4食後、眠前の定期処方に加え、ナルラピド®1㎎錠1T疼痛時、あるいはナルサス®2㎎錠2Tを20時定期内服などです。

神経障害性疼痛の場合は、同じくアセトアミノフェンをベースにして4回/日定期的に投与。それに加えて、鎮痛補助薬の投与を考えてください。なぜなら、神経障害性疼痛の場合、Nsaidsやオピオイドなどの鎮痛薬は効きにくいからです。

具体的には、カロナール®500㎎錠4T 分4食後、眠前の定期処方に加え、タリージェ®5㎎錠2T朝夕、あるいは、サインバルタ®20㎎カプセル1C朝などです。ただし、神経障害性疼痛は難治性疼痛のことが多いので、痛みが取れないときは、緩和ケア医などの専門家に、できるだけ早めに相談してください。

これらは私がよくしている処方の例です。参考にしていただければ嬉しいです。

以上、がん性疼痛に使うアセトアミノフェンについてお話してまいりました。安全で効果のあるアセトアミノフェンを積極的に使ってほしいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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