医療用麻薬を注射で使うのはいつか?詳しく解説します【医】#24
こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。
緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。
今日のテーマは「医療用麻薬~注射薬の使い方~」です。
動画はこちらになります。
私は今まで様々な動画で、内服できる患者さんには内服で医療用麻薬を投与すべきだと言ってきました。実際に教育の現場でもそのように指導しています。けれど、ある時、それまで外来で診ていた患者さんが入院してきた時に、私が医療用麻薬の注射薬を投与したのを見た、1人の研修医が質問をしてきました。
「この患者さんは外来では内服していましたよね。今でも内服できるのに、なぜ先生は医療用麻薬を注射で投与したのですか?」
この疑問はもっともだと思います。
しかし、実は私は例外的に、内服できる人にも注射薬を使うことがあります。
今日は、私がどんな時に医療用麻薬を注射薬で投与するのか、具体的な事例を含めお話します。この動画で、医療用麻薬の注射薬を適切に使えるようになり、患者さんの苦痛の緩和ができる医師が増えてほしいと思います。
ぜひ最後までご覧ください。今日もよろしくお願いします。
私が医療用麻薬を注射薬で使う時
結論から申し上げます。
私が医療用麻薬を注射薬で使うときの条件は 2つです。
1つ目は、痛みがとても強くて、早急な症状緩和をしないといけない時。
2つ目は、何らかの原因で内服ができなくなった時です。
内服ができない時は、貼付剤ではなく、まず注射での投与が肝要です。それでは、詳しくみてまいりましょう。
早急な症状緩和をしないといけない時
早急な症状緩和をしないといけない時とは、例えば急に痛みがひどくなり、緊急入院して緩和ケアチームの紹介になった時などです。先ほどの研修医の質問のケースがこれに当たります。
それまで内服の医療用麻薬で疼痛緩和できていた患者さんでも、病状が急速に進んだり、骨転移が悪化すると、それまでの鎮痛薬ではコントロールが困難になります。その場合、入院することが多いです。
入院の場合、シリンジポンプが常備されており、看護師による観察も十分できるので、医療用麻薬は注射薬を持続静脈投与することができます。持続静脈投与だと、急速に血中濃度を上げることができ、迅速な疼痛緩和ができるためです。
また、そのような場合は、骨転移に伴う体動痛や神経障害性疼痛が合併していることも多く、その時は消炎鎮痛薬や鎮痛補助薬も併用します。
具体的にはNsaidsのロピオン注®、鎮痛補助薬の2%キシロカイン®を混注し、これも持続静脈投与します。これらの投与でうまくいくと、翌日か翌々日には疼痛が緩和されていることが多いです。
痛みが続くと、痛みに対してとても敏感になり、痛みを感じやすくなります。このことを「痛みの閾値が下がる」と言います。逆に痛みがしっかりととれると、痛みを感じにくくなります。このことを「痛みの閾値が上がる」と言います。
つまり、鎮痛ができたら、疼痛閾値が上がり、内服でも疼痛緩和ができるため、徐々に内服へ戻すことも可能となります。
多くの場合、持続静脈投与で疼痛緩和が可能ですが、それでも疼痛緩和が困難な時は、薬物投与以外の鎮痛方法を考えてください。具体的には、放射線照射、神経ブロック、IVRなどです。
これらの治療が功を奏すると、鎮痛薬の内服化や量の低減が図れます。ただ、施設によって、できるところが限られていますので注意してください。
何らかの原因で内服ができなくなった時
今まで内服ができていたのに、内服ができなくなるケースで一番多いのは、消化管閉塞の時です。消化管閉塞になってしまうと、薬剤は吸収されず、内服では効果が出ません。したがって、内服以外の投与経路を考えないといけません。
その場合も、持続静脈投与での医療用麻薬注射薬の使用が最適です。なぜなら、確実に薬剤が体内に吸収し効果が出るからです。
消化管閉塞が改善されなければ、疼痛コントロールのため、持続静脈投与を継続しますが、消化管閉塞が改善した場合は、内服に戻すことも可能になります。入院の場合は、持続静脈投与をすることがほとんどですが、在宅の場合、安全のため皮下投与を行ったほうが良いでしょう。
終末期後期になり、内服ができなくなった時も、皮下投与や持続静脈投与での疼痛コントロールが望ましいです。なぜなら、呼吸困難などの疼痛以外の症状にも、注射薬は対応できるからです。
この時、フェンタニル貼付剤を選択する方もいらっしゃるかもしれませんが、フェンタニル貼付剤は、疼痛緩和しかできないので、終末期に起こる様々な問題には対処できません。その他にもフェンタニル貼付剤は、血中濃度がゆっくりしか上がらない、レスキューがない、皮膚吸収は不安定である、天井効果がある、さらに使い過ぎると呼吸抑制が起こるなどの欠点があります。
これらのことは別の記事でもお話していますので、参考にしてください。
したがって、終末期後期に内服ができなくなった時は、フェンタニル貼付剤ではなく、皮下投与や持続静脈投与などの注射薬をお勧めします。
具体的なケースの紹介
最近経験した具体的な症例をお話しますので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
1つ目のケースは、直腸がん・骨転移の70代男性の患者さんです。外来で抗がん剤治療中でした。
痛みが急速に悪化し、緊急入院してきました。仙骨転移が急に悪化し、痛みが出てきたのです。主治医から連絡があり、病棟に診察に行きました。
彼は痛さのあまり、「殺してくれ」と叫んでいました。外来でも内服で医療用麻薬は処方されていましたが、医療用麻薬は注射薬のナルベイン®に変更し、持続静脈投与を開始しました。
さらに先ほど述べた、Nsaidsのロピオン注®、鎮痛補助薬の2%キシロカイン®を混注し、これも持続静脈投与にしました。すると、痛みはほぼなくなり、翌日笑顔になりました。
2つ目のケースは、食道がん・骨転移の80代女性の患者さんです。食道がんが悪化し、食道閉塞を起こしました。
閉塞部位をステント挿入して広げる手術のために、入院してきました。もともと肋骨転移による左背部痛のため、内服の医療用麻薬を使っていましたが、内服ができなくなったので、前医ではフェンタニル貼付剤3㎎とレスキューでアブストラル舌下錠®に変更されていました。
アブストラル舌下錠®を服用すると、1時間程度は痛みが和らぎますが、すぐに痛みが悪化する状況でした。私が病棟に伺うと、まったく痛みが取れず、つらいと泣かれました。
フェンタニルの吸収は個人差があり、この人の場合、あまり吸収されていなかったのではないかと思いました。患者さんは、前の病院では痛みを訴えても取ってくれないので、我慢していたということも言われました。
私は、医療用麻薬を注射薬のナルベイン®に変更し、持続静脈投与を開始し、フェンタニル貼付剤は中止しました。すると、痛みは全く無くなりました。
その後、食道ステントで食道は再度通過できるようになり、食事も可能となりました。そして、鎮痛薬は内服に戻し、退院できました。
今お話した2つのケースのような場合には、ぜひ注射薬によるコントロールをするようにしてください。
あなたに伝えたいメッセージ
今日のあなたに伝えたいメッセージは
「私が医療用麻薬で注射薬を使うのは2つの場合です。一つは、激痛があり、早急な疼痛緩和をしなければいけない時。もう一つは、何らかの原因で内服ができなくなった時です。特に内服ができない時は、貼付剤ではなく、持続静脈投与、もしくは皮下投与が肝要です。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。
このnoteでは緩和ケアを皆様の身近なものにして、より良い人生を生きて欲しいと思い、患者さん・ご家族・医療者向けに発信をしています。
あなたのお役に立った、と思っていただけたたら、ぜひ記事にスキを押して、フォローしてくだされば嬉しいです。
また、noteの執筆と並行してYouTubeでも発信しております。
患者さん・ご家族向けチャンネルはこちら
医療者向けチャンネルはこちら
お時間がある方は動画もご覧いただき、お役に立てていただければ幸いです。
また次回お会いしましょう。さようなら。
ここまでお読み頂きありがとうございます。あなたのサポートが私と私をサポートしてくれる方々の励みになります。 ぜひ、よろしくお願いいたします。