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【遺族ケア】医療者が2つのことを意識することで入院中からできます#10

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr.Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「入院中から始まる遺族ケア」です。

動画はこちらになります。

以前私が「遺族ケア」をテーマにして講演したときに、看護師の方から質問がありました。

「私たちは病院でしか患者さん・ご家族を看られない、入院中からでも遺族ケアはできないんですか?」

私は即座に答えました。

「実は遺族ケアが必要になるかどうかは、患者さんが入院中や在宅療養中の、医療者のあなたにかかっています。あなたの治療・ケアが、ご家族が遺族になった際の救いになるのです。」

この記事では、医療者のあなたが、ご家族にどんな気持ちで何をすればいいのかを詳しくお話します。ぜひ最後までご覧ください。


入院中からできる2つの遺族ケア

患者さんが入院中からでも遺族ケアはできます。そして、その遺族ケアは2つあります。

入院中に患者さんとご家族にこの2つのケアを行うことで、患者さんが亡くなり、ご家族が遺族になった後でも、遺族の悲嘆を少なくさせることができるのです。

その2つのケアとは

1つ目は、患者さんが苦痛なく自分らしく過ごせるようにすること。
2つ目は、家族の予期悲嘆に対するケア。

この2つが医療者であるあなたが、入院中からできる遺族ケアです。


患者さんが苦痛なく自分らしく過ごす

先ほども述べましたが、医療者であるあなたが、入院中からできる遺族ケアの1つ目は、患者さんが苦痛なく自分らしく過ごせるようにすることです。

最期まで患者さんの症状緩和ができ、穏やかな最期を迎えること。これはご家族の1番の希望だと思います。

以前の動画でもお話しましたが、遺族を対象に、日本人にとっての「望ましい最期」について大規模な研究が行われました。

その中で、80%を超えて望ましいと答えた項目に、

身体の苦痛が少なく過ごせた。
人として大切にされていた。
落ち着いた環境で過ごせた。
家族や友人と十分に時間を過ごせた。
医療者を信頼していた。

これらが挙げられていました。これらのことを達成することが、遺族にとっての満足度に繋がっていました。

これらの中で特に病院の医療者ができることは、身体的な苦痛緩和です。疼痛・呼吸困難・倦怠感などの終末期に起こる身体症状の緩和は、穏やかに過ごすための必須条件です。医師・看護師などの医療者がチームとして機能することで、症状緩和は満足のいくものになります。

また、「人として大切にされていた」「医療者を信頼していた」ということも我々医療者が患者さん・ご家族に接するときに、常に気を配ることで達成できる部分だと思います。すなわち、思いやりの心やもてなしの心といった、日本人が昔から大事にしてきた心を大事にするところだと思います。

昔、ある病院の看護部長さんが、私に話してくれたことがあります。

「患者さんとのコミュニケーションがうまくいかない看護師にまず教えることがあります。患者さんのベッドに行ったらまず、患者さんのスリッパをそろえなさい、と教えます。それを繰り返していたら、大概の患者さんは看護師に笑顔になります。」

小さいことかもしれませんが、患者さんを大事にしているという行為が、信頼関係を生むのですね。

患者さんの身体症状の緩和、そして患者さんを人として尊重すること。そうすることで、それを見ているご家族は安心するのです。これが1つ目の入院中からできる遺族ケアだと思います。

また、療養場所などの意思決定支援を親身になって行うこともとても大事なケアになります。

がん治療病院で最期を迎える人は、今ではとても減ってきています。積極的抗がん治療が終了すると、患者さん・ご家族は、療養先を在宅にするかホスピスにするかなど考えて決めなければいけません。

そんな時に何の援助も見受けられない場合、医療者から見捨てられたと感じるご家族も多いのです。患者さんやご家族もどうしていいかわからない状態で悩んでいる人も多いので、療養場所などの意思決定に際して、患者さん・ご家族の立場に立った援助が必要なのです。

その結果、納得した選択をしてもらうことが、遺族の後悔の気持ちを減らすことに繋がります。


予期悲嘆への対応

医療者であるあなたが、入院中からできる遺族ケアの2つ目は、家族の予期悲嘆に対するケアです。

予期悲嘆とは、実際の喪失が生じる前に悲嘆反応が生じることです。つまり、悲しみ・怒り・罪悪感などの感情が現れたり、逆に感情・思考の麻痺といった感情が抑え込まれる反応をすることです。

予期悲嘆を出すことで、死別が近いという現実の直面などが起こり、別れの準備ができます。また、死別後の悲嘆が軽減されることも多いといわれています。したがって、予期悲嘆が起こった時には、医療者がそれをしっかりと受け取り、承認・共感を示すことが重要になってきます。

例えば、ご家族が「私は夫がいなくなることを考えるだけでいてもたってもいられなくなります。」とか「妻が、私が死んだときのことをそろそろ考えてなどというんです。バカヤローって言いました。怒るつもりはなかったのに。」などと言って来ることがあります。

そんな時は「言いにくいことをよく言ってくれました。ありがとうございます。」と信頼への感謝の言葉がけをしてください。

「皆さんこのような状況では、そんな気持ちになるのは当然ですよ。つらい気持ちがあるのならおっしゃってください。私がお聞きしますよ。」といった、予期悲嘆が出ることは当然だということを、温かみのある言葉で保証してあげてください。そして、話し始めたら、しっかりとご家族の言葉に耳を傾けてください。

終末期の患者さんのご家族は「介護者」として医療者とともに患者さんをケアする立場であるとともに、「苦悩を抱える者」としてケアが必要な「第2の患者」である存在なのです。

まず「介護者」としての家族に対して、「頑張っていますね」「お疲れではないですか」などの労いの言葉がけが有効です。そして、「苦悩を抱える者」としての言葉がけとして、「何か悩んでいることはありませんか」「今後のことで、心配なことはありませんか」といった、その人への気持ちに焦点を当てた言葉がけが有効なのです。

ご家族にはこうした2つの側面があることを意識してください。このことを知り配慮することで、ご家族は安心して予期悲嘆を出せるようになります。

このように、入院中からご家族の精神的ケアが十分にできることで、遺族になった時の悲嘆を小さくさせることができます。ですから、もし、ご家族から予期悲嘆が出てきたときには、しっかりとその気持ちを受け取ってあげてください。

その際の注意点が1つあります。感情の表出が過度に出ることがたまにありますが、その場合は精神科や心療内科などにコンサルトしてください。

以上、入院中からできる遺族ケアについて、2つのことをお話してまいりました。
どちらも突飛なことではなく、もしかすると、皆さんが普段からしていることかもしれません。

でもそのことを、いずれ遺族になるかもしれないご家族へのケアなのだと意識することが大事なのです。

自信をもって、普段のケアを患者さん・ご家族に行ってあげてください。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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