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コロッケ

横浜桜木町での打ち合わせを終え・・・
真っ直ぐ帰宅するつもりではあったが・・
目に入って来た”酒蔵石松”の提灯・・・
気づくと目の前に酎ハイと鯵のたたきが・・
暫くすると「此処いいですか?」と70代の男性
「あっ、どうぞ!」と50代後半(当時)の親父と70代の親父が
差し向かいで立ち飲み・・・これと言った会話もなく時は進む
「此処はよく来るんですか?」と親父さん
「たま〜にです、今日はひさしぶりです。初めてですか?」
「えぇ…」・・・初めてを絵に描いたようにキョロキョロと
戸惑いっぱなし・・・
この会話をきっかけにポツリ・ポツリと話が・・・
店のシステム(注文時支払い)にも慣れ、酒が進む親父さん
「実は今日、娘に会って来たんです…と言うより見て来たかな」
「何かあったんですか?」
「いや、私25年ほど前に離婚してね、当時娘は中1でね・・
でも娘だけはたまに内緒で手紙くれたりして、結婚が決まった時も旦那さん紹介してくれたり…これが良い男で、優しくてね・・・」
「そうだったんですか、娘さん良い方とご結婚されてよかったですね」
「うん、今日は、孫ですよね私にとっては…その幼稚園での運動会で
母親と一緒にダンスするのがあって二人で一生懸命練習してたって、
だから是非、見てやってくれって旦那から連絡もらって・・・」
「行って来たんですね!どうでした?娘さんも喜んだのでは?」
俯きながら、何度も頷き、ちょっと寂しそうに・・・
「楽しそうだった、幸せなんだなぁって・・・」
「話はできたんですか?」
「いや・・・・ただ見て帰ってきた!」
「・・・」
「ほら、これっ!」とテーブルの上にずっと握りしめていた事がわかる
持ち手のところがくちゃくちゃた袋を・・・
「コロッケだよ…あいつ、コロッケが好きでね・・・」
「お土産に・・・?」
「うん、渡せなかったけどね・・・」
なんて声を掛ければ良いのかわからなかった、ただ「そうだったんですか」
と頷くしか出来なかった・・・
「ここで、食べたら怒られちゃうよね?」
「そうですね・・・」
「馬鹿みたいに10個も買っちゃってさ・・・」
「・・・・」
「ちょっと付き合ってくれませんか?」
近くの橋の上で二人、冷たく少しべちゃっとしたコロッケを2個づつ食べた。
寂しさや、哀しさも感じられたけど・・・どことなく暖かさも感じる味だった!

(写真はあの石原裕次郎が愛した”葉山コロッケ”です!)

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