ドッキリ
テレビで、いたずらグッズを紹介していた。
ビリビリするボールペンだった。
ボールペンを使おうとして、「カチッ」とノックすると……。
⚡ビリビリ!
と、ケッコーな電流が流れるみたいだ。
妻のゆかりちゃんをヒッカケたい!
「キャッ!」という、カワイイ悲鳴が聞きたい。
「もう!」とか、「ぷんぷんっ!」とかでもいい。
僕は、即、Amazonで目指すビリビリペンを見つけ、即、ポチった。
非公認なのがもったいないのだが、その速さは世界記録だった可能性が高い。
少なくとも日本記録というモノがあるのなら、その記録は更新したハズだ。
さらに、ビリビリペンは、翌日届いた。
アイテムは届いた。
しかし、問題が1つある。
ビリビリペンは、中途半端に豪華な雰囲気を装っている。
豪華に見せかけ、実は安物と分かってしまう”チープさ”を纏っているのだ。
「コレ(このペン)で、何か書いて」
と言って、渡したなら……。
さすがに不自然で、しかもペンまでが見慣れないモノだったなら?
変 ✕ 変…。
何かある、と警戒されてしまうだろう。
「こんなペン、ウチにあったっけ?」などと、ペンに意識が行ってしまう確率が高い。
ペン以外に意識を誘導しよう。
どうやって?
5秒考えて、閃いた。
僕は、愛する妻をビックリさせるためなら、ナイスアイディアを即出せる、天才なのかもしれない。
この才能は、お金は稼げないが、幸せにはなれそうだ。
妻が驚き、僕はしてやったり。
妻が悔しがり、僕は、そういう妻の可愛いところを堪能できる。
妻は、少し怒って、でも「やられた~!」とか言って、僕に甘えてくる。
ゆかりちゃんが帰宅した。
僕が座っているダイニングテーブルには、「 王 」と書かれた紙が散乱している。
白紙のコピー用紙も10枚近くあり、A4を半分にした用紙には、乱暴に「王」と書かれて散らかっているのだ。
僕は、気のない声で
「おかえり」
といって、視線はコピー用紙から外さなかった。
そして、真剣に考え込んでいる。
「なにしてんの?」
と、ゆかりちゃんが聞いてきた。シメシメだ。
「コレ(王)が、ひと筆書きできるかって、クイズがあってさ」
「ひと筆書き?」
「簡単そうで、難しいんだよ」
「この、『王』って文字?」
「うん。書ける?」
このタイミングで、ビリビリペンを渡した。
ゆかりちゃんは、ペンをノックした。
あれ? 「キャッ!」って言わない…。
何もリアクションがない。
「なんか、私の指、変……」
と言って、右手を眺めはじめた。
ドッキリは失敗だ…。
僕は、全てを説明した。
ゆかりちゃんは、冷たい目で僕を見た。つまらないことしやがって、という表情だった。
僕は、気を取り直し、
「るーちゃん(娘)に、リベンジドッキリしてみるか~」と言った。
本気で、娘にドッキリをしたいワケではない。
この、変になってしまった空気を入れ替えたいのだ。
ゆかりちゃんは、
「ダメ!
そんな可哀想なこと、るーちゃんにはやらないで!」
「あ、ダメ?」
「ダメに決まってるじゃない!
私は、るーちゃんに、こんな可哀想なことはできない!」
ゆかりちゃんは、僕を汚いモノでも見るような目をした。
毛虫かナメクジなどを見つめる目が、こういう目なのだろうと思った。
母の、強い禁止令に、僕はグウの音も出せなかった。
だって正論だもの。
ドッキリはあきらめるしかなかった。
翌日。
「ビリビリペン!
るーちゃん、引っかかったでぇ~~~!!!」
帰宅した僕に、おかえりも言わずに、ゆかりちゃんが言った。
ニッカニカの笑顔で。
ツッコムべき箇所が明確すぎて、かえってツッコメなかった。
疑問もある。
「え? どうやって?
警戒されるはずだけど……」
「ん? ああ、じょーじと同じ。
【王】を、ひと筆書きできる?って聞いて、
ビリビリペンを渡した!」
「・・・」
「そしたらさ!
るーちゃん、『キャーッ!』って驚いて!
最高のリアクションだったのよ~!」
「・・・」
「あと『メッチャ悔しい!』って言ってた!
ドッキリ大成功~! アハハハハハハ~!」
ダイニングテーブルに目を落とすと、昨日の小道具の、A4を半分にした用紙や、『王』と書きなぐった用紙が散乱していた。
娘が、苦笑いしながら、
「まんまと引っかかったわ~。
じょーじが、何かAmazonで買ってたのを知ってたのに…。
メッチャ悔しいわ~」
と、部屋から出てきて解説してくれた。
ゆかりちゃんは、
「キャーって、ペンを放り出して、
最高やったわ~~~」
と、明るく大らかに、笑い喜んだ。
僕は、ゆかりちゃんが大好きだ。
おしまい
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