紫式部日記第13話御帳の東面は、内裏の女房参り集ひてさぶらふ。
(原文)
御帳の東面は、内裏の女房参り集ひてさぶらふ。
西には、御もののけ移りたる人びと、御屏風一よろひを引きつぼね、局口には几帳を立てつつ、験者あづかりあづかりののしりゐたり。
南には、やむごとなき僧正、僧都、重りゐて、不動尊の生きたまへるかたちをも呼び出で現はしつべう、頼みみ恨みみ、声みな涸れわたりにたる、いといみじう聞こゆ。
北の御障子と御帳とのはさま、いと狹きほどに、四十余人ぞ、後に数ふればゐたりける。
いささかみじろぎもせられず、気あがりてものぞおぼえぬや。
今、里より参る人びとは、なかなかゐこめられず。
裳の裾、衣の袖、ゆくらむかたも知らず、さるべきおとななどは、忍びて泣きまどふ。
※内裏の女房:一条天皇付の女房たちが出向して来ている。
※御もののけ移りたる人びと~:屏風二枚と几帳で囲いを作り、その中で物の怪を「よりまし」役の人に移して調伏を行う。
※北の御障子と御帳とのはさま、いと狹きほどに:間隔は柱二間分(約3メートル)なので、かなり狭く感じる。
(舞夢訳)
御帳台の東側には、内裏から来られた女房たちが参集して控えておられました。
西側には、中宮様から物の怪をうつされた「よりまし」たちが、それぞれに一双の屏風に囲い込まれ、その囲みの入り口には、またそれぞれに几帳を立て、修験僧が一人一人を受け持って、大声で祓いの声を張り上げておりました。
南側には、高位の僧侶たちが、幾重にも座っておりまして、まるで不動明王のお姿を呼び出そうとするほどの熱心さで、繰り返し祈願し、愁訴をしてみたり、既にお声がガラガラに枯れてしまっているのですが、それがいっそう尊く聞こえておりました。
後になって数えてみると、北側の襖と御帳台の間の実に狭い場所に、何と40人余りの人が、座っていたのでした。
全く身動きなどできない状態で、そのために、のぼせあがってしまい、まともな神経ではいられません。
今頃になって、私邸から参上して来る女房達は、とても入り込む余地はありません。
中に入れてはもらえず、裳の裾や着物の袖など、どこにおけばいいのか、全くわからない状態。
ただ、そのような中で、年輩の女房達は、中宮様の状態が心配なので、声をしのばせて泣くけれど、どうしてよいのかもわからず、ただうろたえておりました。
中宮彰子の出産が近づき、周囲はますます緊張。
紫式部は、その様子を冷静に記録している。
それにしても、「すごいご出産」と思う。
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