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長恨歌(12)

攬衣推枕起徘徊 珠箔銀屛邐迤開
雲鬢半偏新睡覚 花冠不整下堂来
風吹仙袂飄颻挙 猶似霓裳羽衣舞
玉容寂寞涙闌干 梨花一枝春帯雨


楊貴妃は衣を手に取り 枕を押しやったものの

なかなか お顔を見せませず、少し戸惑っているようなのです。

それでも 真珠のすだれ 銀の屏風は するすると巻き上がるように 開きます。

楊貴妃の 雲のように柔らかく豊かな髪は いまだ整わず 目覚めたばかりのお姿のまま 花冠も整えないまま お堂から降りて来ます。

仙界を吹く風は 仙女となった楊貴妃のたもとを ひらひらと舞い上げます。

そして その歩くお姿は かつて天子が愛した霓裳羽衣の舞としか思えません

しかし 輝くばかりの美しいお顔は 何とも寂しげ

涙があふれ落ちる姿は 春雨にけむる一枝の梨の花の姿に見えて来ます。


※攬衣:衣を手に取ること
※徘徊:気持ちが定まらないのか、なかなか出てこない様子
※邐迤(りい)開:するすると巻き上がるように開く

※雲鬢半偏新睡覚:雲のように豊かに結い上げられた髪は少し乱れたまま、寝起きなので、少々ぼんやりとしている姿。
※仙袂:仙女の服のたもと
※霓裳羽衣舞(げいしょうういのまい): 唐代舞踊を代表する演目。「霓裳」とは虹のように美しいもすそ(スカート)、「羽衣」は鳥の羽のように軽い衣のこと。
 玄宗皇帝が夢のなかで天上の月宮に遊び、仙女が舞っていた調べをもとに作った『霓裳羽衣の曲』に、楊貴妃が振りを付けて舞い踊ったと伝えられている。
※梨花:白楽天以前に美女を梨花にたとえることはおそらくないとのこと。
 死後の楊貴妃に面会しているということから、不吉さを伴う白い梨花として表現したと言われている。

○道士はようやく女仙となった楊貴妃に対面することができた。

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