紫式部日記第30話裳、唐衣の縫物をばさることにて、

(原文)
裳、唐衣の縫物をばさることにて、袖口に置き口をし、裳の縫ひ目に白銀の糸を伏せ組みのやうにし、箔を飾りて、綾の紋にすゑ、扇どものさまなどは、ただ、雪深き山を、月の明かきに見わたしたる心地しつつ、きらきらとそこはかと見わたされず、鏡をかけたるやうなり。

※おきぐち:装飾のために、金銀などで細く縁取りをすること。衣服に限らず調度品の縁にも、用いられた。
※伏せ組み:縫い目を表面に出さないようにして縫うこと。

(舞夢訳)
裳や唐衣の刺繍は当たり前であって、他にも袖口には縁飾りを付け、裳の縫い目には銀糸を伏せ縫いにして組み紐のように見せています。
銀箔を飾りにして綾の地模様に貼り、それぞれの扇は、ただ雪の深い山を、月の明るい夜に眺めているような感じできらめいて、眩しくてはっきりと見通すことができません。
まるで、鏡をかけてあるようです。

この文も、紫式部による女房達の衣服や扇の観察記録。
何しろ、当時の最高実力者道長の屋敷での、中宮による皇子のご出産。
仕える女房達も、最大限の準備をしていたと思われる。

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