紫式部日記第80話

(原文)
「なぞの子持ちか、冷たきにかかるわざはせさせたまふ。」
と、聞こえたまふものから、よき薄様ども、筆、墨など、持てまゐりたまひつつ、御硯をさへ持てまゐりたまへれば、取らせたまへるを、惜しみののしりて、
 「ものの奥にて向かひさぶらひて、かかるわざし出づ。」
とさいなむ。されど、よき継ぎ、墨、筆などたまはせたり。
 

(舞夢訳)
(道長様は)
「どこの子持ちが(子供を産んだばかりで)この寒いというのに、このようなことをなさるのか」とおっしゃられるのですが、上質な薄様の紙や、筆、墨などを持って来られ、その上、硯まで持って来られるので、中宮様がその硯を私(紫式部)に下賜されたのですが、(道長様は)大きな身振りで惜しまれ
「あなた(紫式部)は実に奥まったところに引っ込んでいるように見えて、実はこのように上手なことをなさります」とおっしゃられます。
ただし、そのようなことをおっしゃられるのですが、私に上質な墨挟み、墨、筆などをくださりました。

道長と中宮彰子、紫式部の逸話。
中宮彰子にとって、紫式部は数少ない話し相手(だから源氏物語の写本も、しっかり作りたい、欲しい、筆や墨も紙も惜しまない)
道長も、紫式部の控え目(控え目過ぎると思っている)な態度に文句を付けながらも、娘彰子の紫式部への気持ちを察して、自らも紫式部に書写道具を惜しまずに与える。

ただ、このような関係になって、紫式部は実は困るのである。
それは、同僚女房の嫉妬と、今後の意地悪、苛めが心配になる。
女性による女性への苛めは、長く続く(一生どころか死んでも、非難の対象にする)(源氏物語桐壺帖での弘徽殿の態度など)

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