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柿本朝臣人麻呂石見相聞歌(4)

反歌二首
青駒が 足がきを速み 雲居にそ 妹があたりを 過ぎて来にける
                         (万葉集巻2-136)
秋山に 落つる黄葉 しましくは な散りまがひそ 妹があたり見む
                         (万葉集巻2-137)

柿本朝臣人麻呂の妻依羅娘子の、人麻呂と相別れし歌一首
な思ひと 君は言へども 逢はむ時 いつと知りてか 我が恋ひざらむ
                         (万葉集巻2-140)

反歌二首
青駒の歩みが速いので、雲のかなたはるか遠く 妻の家のあたりを過ぎて来てしまった。

秋山に落ちていく黄葉よ しばらくの間は 散り乱れないで欲しい。
妻の家のあたりを見たいから。

柿本朝臣人麻呂の妻依羅娘子が、人麻呂と別れた時の歌一首。
思い悩まなくていいと あなたは言うけれど いつ再び逢えるかわからないので 私は恋せずにはいられないのです。

妻と別れて都への道も進んでいる。
そのため、当然、妻の家など、全く見えない。
それでも遠ざかっても妻への想いは消えない。
黄葉に散るな、妻の家が見たいとまで頼む。
実際に見える、見えないではない。
わかっていながら、それを言いたい人麻呂の心は、まだまだ揺れている。

石見に残された依羅娘子は、あなたはそんなに嘆くなというけれど、次にいつ逢えるか、全くわからない、逢えないかもしれないのに、それだからより、恋い慕うのですよと返す。

柿本朝臣人麻呂そして依羅娘子のそれぞれの歌は、実に素直に心を詠んでいる。
それだから、より素直に人の心に響くのだと思う。


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