紫式部日記第34話髪上げたる女房は、

(原文)
髪上げたる女房は、源式部(加賀守重文が女)、小左衛門(故備中守道時が女)、小兵衛(左京大夫明理が女とぞいひける)、大輔(伊勢斎主輔親が女)、大馬(左衛門大輔頼信が女)、小馬(左衛門佐道順が女)、小兵部(蔵人なる庶政が女)、小木工(木工允平文義といひはべるなる人の女なり)、かたちなどをかしき若人のかぎりにて、さし向かひつつゐわたりたりしは、いと見るかひこそはべりしか。
例は、御膳まゐるとて、髪上ぐることをぞするを、かかる折とて、さりぬべき人びとを選らみたまへりしを、心憂し、いみじと、うれへ泣きなど、ゆゆしきまでぞ見はべりし。

(舞夢訳)
髪を結い上げた女房は、源式部(加賀守重文の娘)、小左衛門(故備中守道時の娘)、小兵衛(左京大夫明理の娘)、大輔(伊勢斎主輔親の娘)、大馬(左衛門大輔頼信の娘)、小馬(左衛門佐道順の娘)、小兵部(蔵人の庶政の娘)、小木工(木工允平文義と聞く人の娘です)の8人で、見た目がすぐれた若い女房ばかりで、向かい合って並んだ様子は実に見事でした。
さて、そもそも、中宮様にお食事を差し上げるためには、髪を上げ整えるものなのですが、今回はこのような晴れがましい機会ですので、道長様が、それに映えるような女房達をお選びになったのですが、若い女房達が「恥ずかしくて辛くてなりません」「大変なお役目を」などと言い出して、泣いてみたり嫌がって見たりする始末でした。
このような醜態は、縁起が悪い、そんなことまで感じてしまいました。

紫式部は、儀式の盛大さ、その中で大勢の立派な人の前に出ることに気後れして涙まで流して戸惑う若い女房達に、厳しい批評を加えている。
「何を今さら、泣くなど縁起が悪い」そんな思いからだろうか。
ただ、中宮様仕えではあるけれど、特に若い女性が人前で顔を見せることは、極めて少なかった時代、道長様の指示とは言え、嫌がる気持ちも無理はない。

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