紫式部日記第97話寅の日の朝、殿上人参る。

(原文)
寅の日の朝、殿上人参る。つねのことなれど、月ごろにさとびにけるにや、若人たちのめづらしと思へるけしきなり。さるは、摺れる衣も見えずかし。
 その夜さり、春宮の亮召して、薫物たまふ。大きやかなる筥一つに、高う入れさせたまへり。尾張へは殿の上ぞつかはしける。その夜は御前の試みとか、上に渡らせたまひて御覧ず。若宮おはしませば、うちまきしののしる。つねに異なる心地す。

※寅の日:11月21日。日中に殿上の淵酔(清涼殿殿上の間で天皇主催の酒宴がある)
※月ごろにさとびにけるにや:中宮付きの女房は、中宮のご出産のため、7月から11月まで内裏を離れていた。
※御前の試み:天皇の前で行う舞姫のリハーサル。

(舞夢訳)
寅の日の朝、殿上人が中宮様の御前に参上しました。
例年の慣行に沿ってのことではありますが、女房たちは数か月も私邸で暮らしていたこともあり、特に若い女房たちは興味深いと感じているようです。
ただし、そうは言っても今は青摺りの衣は見えません。
その夜に、中宮様は春宮の亮を御前に召され、薫物をお賜りになられました。大きな箱に目いっぱい入れてあります。尾張の守には道長様の北の方様がおつかわしになられます。
その夜は、御前の試みということで、中宮様は清涼殿にお渡りして、ご覧になられます。今回は若宮様がおられるので、散米の魔除の大声もあるので、いつもとは異なる雰囲気です。

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