紫式部日記第57話 綾ゆるされぬは、
(原文)
綾ゆるされぬは、例のおとなおとなしきは、無紋の青色、もしは蘇芳など、みな五重にて、襲ねどもはみな綾なり。
大海の摺裳の、水の色はなやかに、あざあざとして、腰どもは固紋をぞ多くはしたる。
袿は菊の三重五重にて、織物はせず。
若き人は、菊の五重の唐衣を心々にしたり。
上は白く、青きが上をば蘇芳、単衣は青きもあり。
上薄蘇芳、つぎつぎ濃き蘇芳、中に白きまぜたるも、すべてしざまをかしきのみぞ、かどかどしく見ゆる。
言ひ知らずめづらしく、おどろおどろしき扇ども見ゆ。
※綾ゆるされぬ;禁色である青色と赤織物の唐衣を許される身分でない人。
綾織物を身に付ける身分でない人たちで、例えば年かさが増した女房たちの場合は、唐衣には無地の青色を用い、あるいは蘇芳色などにして、全て五重、ふさの飾りなどは全て綾織りにしています。
大海の摺り模様の裳の水色が、鮮やかで裳の腰の部分は固織に多くの人がしています。
袿は菊の三重五重にして、織物は身に付けていません。
若い人たちは、菊の五重の唐衣を思い思いに身に付けています。
表は白く、青色の上を蘇芳にして、単衣は青くしている人もいます。
表を薄蘇芳色にして、つぎつぎに濃き蘇芳色にする、そしてその下に白色を混ぜている人もおりますが、その全体的な仕立てを「考えてある」場合に限り、興味を持って見ることができます。
ただ、中には、何と言っていいのかわからないほどに、けばけばしい扇なども見られれます。
紫式部による低位女房たちの、着用する衣の観察である。
あえて、細かな説明は、省いた。
(よほど呉服に詳しくないと理解が無理。字面を追うだけになるため)
女房それぞれが、その出身家柄と身分に応じて、意匠を凝らして艶やかに・・・といったところか。
ただ、紫式部は、その衣装の善悪や妥当性を判定する立場にはなく、あくまでも「道長が喜べばいい」だけの世界である。