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長恨歌(7)

天旋日転迴竜馭 到此躊躇不能去
馬嵬坡下泥土中 不見玉顔空死処
君臣相顧尽霑衣 東望都門信馬帰


天は巡り日も移り、天子の御車は帝都へ帰還することとなりました。

しかし、この楊貴妃に死を賜った場所に差しかかると、彼女の涙が目に浮かび、悲哀の泣き声が聞こえてくるのか、ためらい、とても立ち去ることなどできません。

その哀れな楊貴妃の身体は、ここ馬嵬坡の泥と土の中にあるのですから。

生きていた時の光り輝く玉のような美しい顔も今はなく、空しく命を散らしたこの場所だけが残るのです。 

天子も家臣も、この哀しさには耐えきれません。
顔を見合わせ、衣を涙で濡らすのです。

そして、東にある都の門を目ざし、沈んだ心のまま馬の歩みに身をまかせ 都へ帰るのです。 


※竜馭:天子の乗る車
※馬嵬坡:馬嵬の町。楊貴妃が死を賜った地。
※信馬:進もうとする人間の意思ではなく、馬の歩みに任せて進む状態。馬嵬の町で、楊貴妃が死を賜った時の悲惨な状況を思い出し、哀しみと後悔に心が覆われてしまった。
そうなると、沈んだ心のまま、馬の進むに任せて帰るしかない。

○安禄山の乱が終わり、情勢は好転したものの、楊貴妃への哀惜の念は、楊貴妃に死を賜った馬嵬の地に差しかかると、都へ戻る行軍も馬に任せなければできなくなるほど、強くなる。

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