特典SS『烏丸ミユの誕生日』

※このお話は、京都市交通局の公式キャラクター『地下鉄に乗るっ』のノベライズ
『太秦荘ダイアリー』の番外編です。


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 幼馴染みの男の子・十条タケルと、最早腐れ縁とも言える小野陵。
 この二人を『特別な目』で見始めたのは、いつからだろう?
 意識してしまった今は、もう戻れないのだ。

「――で、それは、あんた自身の恋の悩みではないのよね?」
 11月25日の今日は、私・烏丸ミユの誕生日だ。
 友人がケーキを奢ってくれるというので、京都国際マンガミュージアムの敷地内にあるカフェで私と友人はお茶をしていた。
 その際に、「悩みとかないの?」と訊かれ、私は自分の苦しい胸の内を伝えたところ、向かい側に座る友人は冷ややかに一瞥をくれた。
「もちろん。でも、恋の話ではあるよ、タケルと陵の……」
 そう口にした時、タケルと陵が手を取り合って見詰め合う姿を想像し、
「やばい、見詰め合うタケ陵、尊い!」
 と私は口に手を当てて悶えた。
 すると友人は呆れたように息を吐き出す。
「……悩みがあるっていうから、なんのことかと思えば、そのどこが悩みなの?」
「いや、私の悩みはここからなのよ。こんな風にあの二人で妄想を膨らませていると、なんだか止まらなくなってね。『自分は大丈夫なんだろうか?』って心配になってくるのよ」
 はあ、と友人は、気のない声で相槌をうつ。
 彼女に相談したのは、私の友人の中で一番、理性的に物事を判断してくれる人だからだ。つまり『ヤバい』と思ったら、『あんたヤバいわ』と一刀両断してくれる。
 もし彼女に『ヤバい』と言われたら、妄想を膨らませるのを自重することにしよう。
 ドキドキしながら彼女の返事を待つと、
「まぁ、ミユにそういう理性があるなら、別に大丈夫じゃない?」
 友人はさらりと言って、コーヒーを口に運んだ。その言葉に私は心からホッとして、胸に手を当てる。
「良かった。そうだよね、本人たちを不快にさせなければ、頭の中は自由だよね」
「……不快にさせてなきゃいいけどね」
「これからも心置きなく妄想に励むわ。いよいよ、二人が結婚を決意するところまで行ってるから、その先に進めようと思う」
「はっ? 結婚を決意って、なにそれ」
「もちろん私の妄想よ。最初はただの仲の良い友人同士だった二人だけど、陵が大学に進学して、タケルがパン屋さんに就職したことで、二人の間に距離ができるの。陵は大学で藤沢翔真という友達を見付けて、親友同士になる。それを知って、タケルは胸を騒がせるのね。変な態度を陵に取っちゃうわけ。鈍い陵として訳が分からないの。
『どうしたんや、タケル』『なんでもない』『なんやねん、親友やろ』『もう、親友は他にいるんじゃないか?』――みたいなやりとりで、陵はタケルがスネているのに気付くわけ。
『アホ、お前が一番に決まってるやん』って、陵は笑ってタケルの頭をポンッとするの。その時、タケルは自分が陵に恋にしていることを自覚する。ここまでが、二人の恋の第一章ね。
第二章ではタケルは陵を忘れようと、告白してきた女の子からの交際を受けてしまう。今度は陵がモヤモヤしてしまう。『お前、絶対あの子のこと好きやないやん』『そんなことねぇよ』と顔を背けるタケルの顎をつかんで、『俺の目を見て言えよ』と詰め寄る。そこでタケルは、想いを抑えられなくなって、泣いちゃうのよ。陵が好きなんだって。でも、叶わないから、仕方ないんだって。呆然とする陵。立ち去るタケル。時間を置いて陵はタケルのことを考え続ける。その時点では陵はタケルに恋心を抱いてない。けど、一番大切な存在であることには変わりない。そこで出した陵の結論は『お前のこと、ちゃんと知りたいんや。お互いを知るために、付き合おう』って。ここまでが第二章。第三章は……」

「ちょっと待って」
 友人は、ストップとばかりに手をかざしている。
 ――しまった、と私は額に手を当てた。
 安心した勢いで、これまでの妄想を垂れ流してしまった。
「あんた、ヤバいわ」
 低い声が届き、私は苦笑しながら、友人の顔を見た。
 いつも冷静な彼女が頬を真っ赤にさせて、口に手を当てている。
「それ、ヤバいわ。本に、した方がいい」
「……そう思う?」
 私が小声で訊ねると、彼女は真っ赤な顔のまま、こくりと頷く。
「マジ、ですか?」
「マジで本作ってくれたら、読む用、保存用、布教用と三部買うし。で、その後二人はどうなるの? あんたの脳内では、結婚手前なのよね?」
「あ、うん、その後はね」
「あー、いや、やっぱり、本になるのを楽しみに待とうかな」
「あっ、でも、これだけは訊いて。初デートは、パン屋巡りでね。パンにばかり夢中になるタケルに、陵がすねる話」
「きっ、聞きたい」

 11月25日――それは、烏丸ミユの誕生日であり、この世に烏丸ミユという同人作家が誕生した日でもある。


 そして、これは望月麻衣による勝手な番外編で、公式の見解ではありませんので、何卒ご了承のほどよろしくお願いいたします。


~Fin~

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