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ファンシー・ピクチャーに想いを馳せる ~スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち

はてさてスコットランドとはどんな国だったか。エジンバラとはどこだったか。
そんな曖昧な記憶であっても、一枚の絵の前でなぜか既視感を抱かせることができる――それが、THE GREATSたる所以なのかもしれない。

最初から最後まで、余すことなく西洋絵画。
絵画に様々なジャンルはあれど、これだけ西洋絵画だけを全身に浴びることができるチャンスは滅多にない。現代アートが混じったり、エジプトの秘宝の発掘先に不安を感じたり。そんな心配はここではない。ただひたすらに二次元の、その向こうの世界を感じることができる。

数多ある西洋絵画の中で、今回どうしても気になった一枚が、ジャン・エヴァレット・ミレイの「古来比類なき甘美な瞳」。
菫の花かごを持った美少女が遠くを見つめている。かわいらしい女の子が魅力的な、わかりやすい絵だ。
だが、引っかかるのは邦題である。
英語での作品名は ‘Sweetest eyes were ever seen’。これがどうして「古来比類なき」になった!? しかも「甘美」! これだったら、「今まで見たことのない可愛い瞳」くらいでいいじゃん! 単語の選択にいささかの悪意を感じる気がしなくもないが、それだけこの女の子が魅力的なんだろうっていうことはよくわかる。すごい伝わる。ということは、この邦題は成功なのかもしれない。どうにも解せないが。

それと、気になったのはこの作品の解説だ。この企画展では、作品名や制作年、技法に加えて作者や作品ができるまでの背景を一枚一枚しっかり説明してくれる。
解説によれば、ジャン・エヴァレット・ミレイは「ファンシー・ピクチャー」なるものを好んで描き続けたとのこと。
「ファンシー・ピクチャー」とは、愛らしい子供たちを描いた一連の絵画のことを指すという。風俗画の一ジャンルに分類されるそうだが、要するにそれって萌絵ってことですよね? かわいい女の子とか男の子を描いてただけですよね!?
ちなみに、美術館の物販ゾーンでは複製画の販売もされていたのだが、超有名どころのクロード・モネに続いて売れていたのがこの絵で、うん、そうだよね、みんな美少女大好きだもんねって気持ちになった。主な作品というわけでもなさそうなのにグッズも多くて、主催者よくわかってるなって。古今東西、売れるものはいつだってきっと一緒なのだ。

私もこの絵、好きだもの。

     ◆

ファンシー・ピクチャー。
その主題は子役などの子供たちが多かったという。

おそらく十代の少年少女、みずみずしい彼らの一瞬を切り取って、絵画という永遠に張り付けた画家は一体そこに何を見つけたのだろう。どんな目で彼らを見、白いキャンパスに描き写したのだろう。一枚の絵は精密ゆえに、物語は深く罪深い。
必要なくとも、そんな事実はなかったのかもしれなくとも、我々は一枚の絵を前にその背後をよこしまな目で見ることをどうしてもやめられない。それゆえ、これらの絵画は「ファンシー」という都合のいい言葉で彩られることになったのかもしれない、そんなことをどうしたところで考えてしまうのだ。


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