ルキノ・ヴィスコンティ「ヴェニスに死す」

「ヴェネツィア展」の後でルキノ・ヴィスコンティ監督の「ヴェニスに死す」をどうしても観たくてお取り寄せした。イタリアの巨匠ヴィスコンティ監督の映画は映像へのこだわり、その美しさで知られている。まさにわたしの大好物なのに、一本も観たことなかった~~!
 (まあね、観たことなくても伝説の美少年ビョルン・アンドレセンだけは知っていたけど)
 昨日やっと観て・・・まだDVDドライブに入ったまま。返却前にもう一度観たいからだ。

 この映画は、トーマス・マンが1912年に発表した中編小説「ヴェニスに死す」をもとに、ヴィスコンティが監督した作品である。1971年に公開されてカンヌ国際映画祭と英国アカデミー賞で受賞した。

 初老の音楽家アッシェンバッハは自身が希求する芸術というものに対して自信を失い、心身の療養のためにヴェニスへと一人旅立つ。多くの芸術家たちがその美しさに魅了されたヴェニスの街が水の上で彼を迎える。小説の舞台となった1911年盛夏のヴェニスを表現するために、ヴィスコンティ監督はとことんこだわったそうだ。街並みもホテルも人々の様子も・・・細部までごまかさずにこだわりぬいた感じが初めから終わりまで伝わってきて圧巻だ。
 さて、心身共にくたびれ果てたアッシェンバッハはそこでタジオという美少年に出会って魂を奪われてしまう。同性愛的な香りを少々漂わせながらも・・・彼がどんなに努力しても到達することができなかった芸術の極み、神が創造したかのような至高の美とも言うべき存在。それが彼にとってのタジオという少年に象徴されている。
 老音楽家と美少年の間に直接的な関わりはない。しかし時折アッシェンバッハに投げかけられるタジオの視線は、観ているこちらも甘やかな矢で射られたような心持にさせられてしまう。ヴィスコンティ監督がこれ以上ないタジオ役と惚れこんだだけのことはある。
 (蛇足だが、ビョルン・アンドレセンは俳優とはならず、一般人としての人生を歩み、現在はアッシェンバッハくらいの年齢となっているらしい。)
 
 ヴィスコンティ監督の映像には短いショットでも深い意味が存在していると気付くことが多く、ぼんやりと流すことができないということも感じた。ストーリーと直接の関係はないのに、行く末を暗示するかのような・・・。これは原作に書かれているのだろうか。
 また、時折いつの間にか音楽家の過去や幻想(夢想かな・・)が映像となって現れる。これは特に珍しくもない手法だが、なんと言ったらいいか「ヴィスコンティ監督は特別」な感じ。なぜだろう。夢とも現ともつかない、それはそれは悲しくも美しく時間は流れていく。
 ラストはもう最初から分かっていた。アッシェンバッハはヴェニスで、見た目は滑稽で惨めな死を迎える。しかし彼の精神はどうだったのだろう?・・・だから観直したいし、原作を読みたくなった。
 新潮文庫でトーマス・マンを購入。届くのが楽しみだ。年末でなかなか読んでいられないかもしれないけど・・・現実逃避(笑)
 そういえば、原作のモデルはマーラーだと言われている。それで主題曲がマーラーの交響曲なのだね。