Someone who watch over me やさしさにふれて

時に神様は存在しているのではないかと思う。

人生は出逢いと別れの連続だ。想い強ければ、その度に叩きのめされて、もう二度と立ち上がれないような気持ちになる。でも、今も私は生きているのだから、その都度生かされてきたとしか思えない。それとも、それは.


仕事の充実とは裏腹に、いつしか思いはじめた平凡で穏やかな幸せな暮らしへの憧れ。忙しさに倒れる寸前に現れた、誠実を絵に描いたような優しい人。


夢に見たキャリアについて、寝る暇を惜しみ、情熱的に働いた。それ以上願えない位賑やかで充実していたのに、忙しさに比例して、いつの間にかエネルギーが枯渇した。ひとりで頑張れなくなってきて、誠実で優しい人と穏やかに暮らしたいと、密かに切望するようになった。

そして、誠実を絵に描いたような優しい人が現れた。夢の仕事と引き換えに、穏やかで安泰な暮らしが始まった。誰もが羨むような幸せぶりだった。家族ができた。だけど、幸せは永遠には続かなかった。幸せを破壊した罪悪感をスーツケースに詰め込んで、振り出しに戻った。

情熱を枯渇して、情熱を求めた。今一度、心から愛することができる人にめぐり逢い、人生のやり直しができることを切望した。そんな価値がまだ自分にあるのなら。

そして、心から愛する人に巡り逢った。共に傷つき、痛手をおっていた。情熱と愛という特級の癒しで、私たちの罪は互いに赦され、今一度幸せに満ちた人生を、共に生きていける事を、そして彼の歌がまた聴けるようになる事を願った。

その強い想いとは裏腹に、さよならの時は来た。もう、生きている意味がないと思った。息をする事さえ苦しくなった。そして、毎日毎晩泣いて過ごした。生きながらえたのは家族がいたおかげで、この守るべき存在がなかったら、きっと、もうここには居なかった。

そんな風に、くる日もくる日も泣いていた私の前に、ある日、笑いの王様みたいな人が現れた。会うたび、話すたびに笑い、いつの間にか、涙は枯れ果てて、笑っていることの方が多くなった。もう二度と晴れる事はないと思っていた人生が様子を変えた。人生は、この太陽のような存在のお陰で笑顔に生まれ変わった。

それなりに山あり谷ありも、太陽のような君は素晴らしい親友で恋人で同志だった。その存在にいつも感謝した。

ある日、あの人が生き返り、ライブをするお知らせが届いた頃、心がぐらぐらと揺れはじめた。太陽のような君と話すことが躊躇われて、私は距離をおいた。本当は迷いだらけだったが、君の為にも、もうゼロに戻した方がいいような気持ちになって、私がさよならすることで、君が自由になれますように、そんな気持ちを正直に伝えた。そして連絡を断った。

そのあの人のライブ後、久しぶりに届いた、太陽からのメッセージは、私が見ることのできなかった彼のライブの映像だった。涙いっぱいで見た。感謝の気持ちでいっぱいだった。

もう連絡しないと言ったのに、数日後、思いきって、電話をした。ライブに行きたくとも行けない事情を彼はよく理解していて、私の代わりに音源を撮ってくるべく前々から自分一人のチケットを予約していたということだった。それが、数日前から体調が悪くなり、原因不明の吐血をして断念、その後に、誰か動画を撮っていないか検索しまくり、見つけてすぐ送ってくれた、という事だった。

吐血のことは検査中で、それにしても、そんな体調が悪かったのなら、なぜ連絡してくれなかったのか、水くさいじゃないか、と、なじりたいような気持ちになったが、電話をしてくれても取らなかったのは自分だったじゃないか。

数日後、我が家の大きな家具の片付けの手伝いに太陽が駆けつけてきてくれた。本棚など大きな家具を一緒に動かし作業して、お昼ごはんを一緒に食べた。私は、こんな中途半端な気持ちで、君の心を束縛したくないから、やはり、さよならしようと話した。私の笑い神様、私の太陽の君は、笑わないで言った。

「人の気持ちは一方通行では成り立たへんから、あなたがそういうんやったらどうしようもあれへん」

どこかで引き止めて欲しかった天邪鬼の自分があって、心の中で悪態をついた。その足で仕事へ向かい、ブロークンハートなのにとてもいいお仕事ができて、心のささくれが少し柔いだ。そして、夜遅く、疲れて帰宅して、労いのワインを開けた時、電話がなった。君からだった。

その翌日は、早朝から終日とても忙しいマーケットの週末で、昨夜何を話したかなんて思い返す時間もない位だった。エモーショナル的に抱えきれなくて、考えないように、しこたま飲んで寝てしまったのだ。

気持ちも体調も冴えなかった、そんな日に、どういう訳か、それは、たくさんのストール仲間が、あれこれと差し入れをくださって、パエリア、スパニッシュオムレツ、いなり寿司、コロッケ、唐揚げ、お寿司、チョコレートケーキ、そして大量のバナナと、バイトの女の子と共に、うちは神社でもないのに、まるで貢物を頂いてるみたいだと、話した。その大量の差し入れを、本当は届けたい、太陽のような君の笑顔が浮かんだ。

帰りの電車に乗る時に、反対側のプラットホームに、マーケット仲間で、大尊敬しているセラピスト’酋長’を見つけた。マサイ族みたいな風貌の酋長は2mもあろうかという身長を折り曲げて日本式に会釈をしてチャーミングな’おつかれさま’を送ってくれた。

そんな、いろんな事に心温まって、電車に乗り込んだ。

イヤフォンから聞こえてくる音楽に、気持ち緩ませ、頭のおしゃべりを辞めたら、記憶から零れ落ちたはずだった、昨夜の会話が蘇った。

君は言った。

「あなたは、もう充分、寂しい想いしてるから、もう、寂しい想いさしたくないし、自分がそばにいられる限り、寂しい想いは、絶対させへん」

言葉が出なくて、息が止まった私に

「寂しい想いなんかもうさせへん」

もう一度、君は言った。

ワインを数杯飲んでた私は、どうしていいかわからなくなって、そのまま無言で電話を切った。

寂しいに決まっていて

会いたいに決まっていた

でも、自分の心は割れていて

こんな自分を受け入れて欲しいだなんて、口が裂けても言えないような気がして

それで、泣きつぶれて寝て、朝起きて、仕事に行ったのだ。

泣き明かした理由を思い出す余裕なんてない位、馬車馬のように働いて、今日を生きたのだ。

人気のない遅い夜の電車の中で涙した。

君の愛はどこまでも直球で全力だった。


2009

















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