【少女小説】最短1週間でキレイになる方法 第3話
よかったら
第1話から読んでね✨ヽ(*^ω^*)ノ✨
『最短1週間でキレイになる方法』 ③
ひとまず病院のロビーにあるコーヒーショップへ入って、ゴミ箱から救出したゴミ男にアイスコーヒーを与えてみた。
ゴミ男はテーブルに置いてあげたアイスコーヒーを取って、サッと私の隣に陣取った。馴れ馴れしい。座る距離も近いし、そもそも隣だし。睨みつけても、ストローを咥えたままニヤついてるし。
本当に、フランス人形みたいに綺麗な顔とゲスい表情が合っていなくて、C級ホラーで最初に倒される弱い化け物みたい。「クソ!! 人間ごときが俺を!?」とか悲鳴を上げて、グズグズに溶けてなくなる役まわりの化け物。
「んなー!! ストローっていいな!!」
「ちょっ!? ……騒ぐなら、ストローよりコーヒーを褒めなさいよっ……お店の人に聞こえるでしょっ……!?」
「はーーい♡ おかあ〜〜さんっ♡」
「ハア!!!?」
「ウヒヒっ! 呼ばれたくねーだろ〜? 君の名前は?」
「……はあ……。……そっちこそ、名前は?」
「俺はヒユーゴーの影。名前はないから、自分でヴィクトールって呼んでる。長いからヴィクターって勝手に略されたけどな。好きに呼んでくれって言ってるから、ポチとかアボカドとも呼ばれてる。……そうか! コンビ名も、」
「ちょっと待ってよ! 勝手に話を進めないで! ちゃんと聞きたいのに、どう聞いていいか分からない話ばっかりするんだから! まず、次に私をお母さん呼ばわりしたら、必ず殺すと書いて必殺のチョップをお見舞いするからね? よ〜く覚えておくんだよ? それと、誰なの? ヒユーゴーって?」
「ハーーン? ……ヒユーゴーは面倒臭がりだから、俺に全部押し付けて寝てばっかなんだ。会ってみるか?」
「近くにいるの?」
「うん。待っててくれ。呼ぶから」
ゴミ男ことヴィクトールは真面目にそう言って、目をつぶって、私の手を力強く握った。
え?いきなり何?私の手を握る必要ある?必要ないと思うんだけど……ドキドキ、する。白いのに、熱いくらい温かい手が、私の手を掴んだまま冷たくなって……冷たく!?ぎゅっと力んだせいで血行が悪くなるのは分かるけど、こんなにすぐ冷たくなるって何事!?
驚いて、フランス人形みたいに綺麗でまつ毛が長い横顔を覗き込んだ。すぐにまつ毛が上がって、お人形の顔に嵌ったガラス玉みたいにクリアな水色の瞳が、私を見た。
突然、ゴミ箱スロット男には全く似合っていなかった薄い水色の目も、白い手も、金色の長くてカールした髪も、かちっと嵌った気がした。
「……ヴィクトール……?」
「アホの名前で呼ばないで。ヒユーゴーじゃないと駄目だって言われて、寝たいのに起きたんだよ」
さっきまで、お人形みたいに綺麗な唇から、スロットの爆音にも負けなさそうなけたたましいダミ声が出て来てガッカリと思ってたのに、いきなり、見た目にぴったり合う女性的で澄んだ声が出て来た……!
ビックリしすぎで、目の前がチカチカする。ちょっと俯いて、胸に手を置いて、深呼吸を何度かしたら、なんとか収まったけど。
…… 我ながら、私ってショックに相当強いわ……。
いや、強いのもあるにはあるんだけど、ゴミ箱スロット男のヴィクトールと違って、ヒユーゴーが騒がないでジッと待ってくれたから……それで早く回復したよね。
あれ?じゃあ、本当に2人は別人じゃない……?
あのヴィクトールに、騒がないで待つなんて芸当が出来ますか?どう考えても出来そうにないんですけど……?無理よね?ねえ?ねえ!?そうだよね!?
絶対無理!!!!!
「……………………ヒユーゴー、なの……?」
「すぐ信じてくれるんだね。そういう人は、好きだよ」
「え、ええ……」
「ありがとう。優しい人なの?」
「……えっ? そう? かもね? 私って、優しい、人、なのかも……?」
「優しい人は、すごく好きだよ」
ヒユーゴーが言う「好き」はすごくピュアで、まるで子どもがお菓子を「好き」って言っているみたい。ゲスのゲの字の一画目の途中すらないよ。嬉しそうに輝く水色の瞳も、透き通った美貌にかちっと嵌ってる。
ついさっきまではゴミ箱から出て来たゴミ男だったのに、今目の前にいるのはヒユーゴー、つまり全然別の人……。
これって、漫画とかアニメとかではちょくちょく見かける、二重人格?
どうも漫画やアニメで見るのとは違って、悲壮感も儚さも闇も何もないんだけど……?
上手く言葉に出来ないんだけど、なんて言うか、説得力があり過ぎない?2人は別人です、生まれはバラバラです、今は1つの体をシェアして使っているだけですっていう説得力が……。これぞシェアリングエコノミー?いや、違うか。それは違うな。こうじゃないでしょ。シェアリングエコノミーって。
漫画はフィクション。現実はこう、なのかな???
「……うん。そっか。ヒユーゴー。あの、ありがとうね? えっと、寝たいのに起きてくれて。それで……聞いてもいい? ヒユーゴー」
「うん。どうぞ」
「ヴィクトールとヒユーゴーは、全くの別人。そうよね?」
「うん」
「……ヴィクトールは、ヒユーゴーの影……そう聞いたんだけど……影って……どういう意味かな? 身代わりとか?」
「湖に写った姿や、振った刀や、髪の毛で作った人形から、色々な子が産まれた。でもヴィクターだけは残って、体を守ってくれた。ヴィクターはとても律儀なんだ。アホだから、アホだけどね」
「……ごめん、アホの所しか分からないかも……」
「一番分かりやすい所だね」
「ヒユーゴーは、何者なの?」
「…………。遥か昔に人間から生まれたけど、人間じゃない……たくさん失敗して、ずっとずっと1人で生きてる…………これ、苦いね。嫌い」
ヒユーゴーは嫌そうに眉をひそめて、綺麗な白い手でアイスコーヒーのグラスを押した。テーブルの端から落ちるまで押しそうに見えて、慌ててグラスに手を伸ばした。いつの間にか、ゴミ男に掴まれていた手は自由になっていて、簡単に立ってグラスを掴めた。
ほっとしてヒユーゴーを見下ろしたら、綺麗にカールした金髪を耳にかけて、淋しそうな目で遠くを見ていた。ゴミ箱から出て来た時とは、本当に全然表情が違う。フランス人形くらい綺麗な顔立ちと物憂げな表情がカチッと嵌ってる。ヴィクトールと違って……なんだか……迷子の子どもみたいで可哀想……。
「……ごめんね? 何者かなんて聞いたりして。私だって、何者かなんて聞かれたって、そんなの答えられないのに」
「そうなんだね。ちょっと安心した」
ヒユーゴーは本当にちょっと安心したらしい笑顔を浮かべて、私を見た。
やっぱりゴミ箱スロット男とは完全に別人だよ。明らかに清らかな目をしてるもの。もしスロットに連れて行ったりしたら、「ここ、うるさいね。嫌い」って静かに怒り出しそうだよ。言葉は冷静だけど、ピュアに澄んだ水色の目だけはプンプンさせてね。
その綺麗な、ビー玉みたいな目が、チラっと逸れた。何を見たのかな?
目線の先を追ったら窓があって、外にはゴミ男が出て来た水色のゴミ箱と、結局入らなかった小さなコンビニがあった。
「…………」
「何か気になるの? ヒユーゴー?」
「……あのお店に入ってみたい……」
「あのお店? コンビニ? 入ってみたいの? えっ、入れない理由でもあるの?」
「人間じゃないから」
「ああ、そう言う……。なら、人間の私が一緒に入ろうか?」
「優しい人間と一緒なら、入っても大丈夫だよね! 行こう!」
ヒユーゴーは嬉しそうに笑って、私の手を握った。ひんやり冷たい手。
その手で、遠慮がちにそうっと私の手を引いて、おそるおそるコーヒーショップを出て、しずしず院内の駐車場を通って、やっとこさでコンビニに向かった。
どうにかコンビニの前まではたどり着いたけど、ヒユーゴーはとてつもなく不安そうに私の手を握りしめて、俯いて、立ちすくんでいる。こんなにカチコチに固まるなんて……コンビニの中に入るのが、本当に本当に怖いみたい。
優しくない人間に「人間じゃないくせに!」とか言われて、意地悪された経験でもあるのかな?それでもお店の中に入って、人間たちと関わりたいの?心配になるよ……。
……やっぱり、ゴミ箱男のヴィクトールとヒユーゴーは全然違う。
ヒユーゴーの体に、ヒユーゴーの行動や表情はかちっと嵌っている。フランス人形みたいに綺麗な人?が、意地悪された経験があって怖がりなのってあるあるだよね……すごく悲しいけど……。
それにひきかえ、ゴミ箱男のヴィクトールのゲスい行動と表情は、全く!完全に!どこまでも果てしなく!外見からズレてる感じ。まるでヒユーゴーの体に、ヴィクトールがのりうつってるみたいに。
全く、アイツが酔い潰れてゴミ箱に入ってるすきに、ヒユーゴーがいじめられたんじゃないの!? ゴミ箱男のヴィクトールは、ヒユーゴーと違う体になって、もっと真剣にヒユーゴーを守るべき!!
その方が、ゴミ男らしくすごくお似合いな外見にもなれたりして……?
……もしかすると、この世界をくまなく探したら、ヴィクトール専用の体があったりする?
きっとその体なら、ゲスい笑顔も自然に見えるんじゃないかな。なんて。
そんなはずないよね?
きっとヒユーゴーが二重人格で、自分の「設定」を私に話して、喜んでいるだけだよね?
ヴィクトールは、怖がりなヒユーゴーがすごく強気にお芝居をしている姿で……
ヴィクトールなんて、本当はどこにもいないんだよね?
次回!!
〜ちゃんと漁夫の利を得るヒユーゴー〜
ご期待下さい!!!
↓続き↓
長い少女小説も書けます。本当です。