同行スタッフのお仕事その1:ファシリテーション【まいまい京都のメソッド公開⑦】
まいまいのツアーは、ガイドさん、参加者さん、そして同行スタッフという3つの立場の人たちがつくりあげるものだ。巷のまち歩きでは、ガイドさん以外は同行しないケースも多いけれど、まいまいでは「同行スタッフ」という存在が欠かせない。
同行スタッフが担う仕事は、大きく「ファシリテーション」と「マネジメント」に分けられる。旅行会社の添乗員はおもに「マネジメント」を担っている。まいまいの同行スタッフの特徴は、「ファシリテーション」も同時におこなうところにある。今回の記事では「ファシリテーション」に絞って、同行スタッフの役割を紹介しよう。
ファシリテーションというと、会議の進行役を想像する方もいるだろう。しかし、本来の「ファシリテーション」の意味は、さまざまな活動のプロセスをスムーズにすること。ここではわかりやすく「つなぐ」という言葉に言い換えて、同行スタッフがどんなつなぎ役を担っているのかまとめていく。
■参加者さんとまいまいをつなぐ「司会者」として
ツアーの開始を告げるのは、同行スタッフの大事な役割だ。ツアーが始まるとき、まず同行スタッフが参加者さんに挨拶をして、ガイドさんを紹介する。言ってみれば、同行スタッフが司会者として、ガイドさんというスターを舞台に呼ぶという構図である。
ガイドさんを紹介するときには、「◯◯大学の◯◯先生です」と肩書を言うというより、「京都の建築を知り尽くした◯◯さんです」というように、ガイドさんのユニークネスをしっかりと伝えるようにするのがポイント。そして、「今日はめったに見ることができない、特別な場所に案内していただきます」なんて、参加者のワクワク感を高めるようなツアー紹介をして、はなばなしく舞台の幕を上げる。前座として、場の空気をしっかり作ってから、ガイドさんを招き入れるのだ。
■参加者さんとガイドさんをつなぐ「よき聞き手」として
ツアーが始まれば、ツアーの空気を楽しく醸成していくのがとにかく大事な任務。同行スタッフは、参加者さんのようすにつねに気を配り、つまらなそうにしている人はいないか、さらに楽しくできないか、目を光らせる。
参加者さんのなかには、ガイドさんの話は黙って聞いていないといけないと思い込んでいる人もいる。でも、まいまいツアーはインタラクティブでいい。スタッフが率先して相づちをうったり、質問を投げかけたりしていると、参加者さんも話しだしたくなってくる。
ツアーを面白くするためには、スタッフが楽しむことが欠かせないのだ。面白さや楽しさを表現することを、ためらわない。同行スタッフは、びっくりするような発見があれば「へえ〜」と声に出して驚いたり、面白かったら声を殺さずに笑う。そうやってスタッフが「よき聞き手」としておおいに楽しんでいると、その楽しさが参加者さんにも伝わり、ガイドさんもますます楽しく話せるようになる。
■参加者さん同士をつなぐ「サポーター」として
また、参加者さん同士のあいだをとりもつこともある。まいまいでは何十回とツアーに参加している常連さんも多い。同時に、今回がはじめての参加者さんもいる。
初参加の方は、ここからなにが始まるのかちょっと緊張しているはず。受付のときや歩いているときに、「何を見てご参加されたんですか」とか、遠方の方なら「京都にはよくいらっしゃるんですか」などとお声掛けをしてみる。そうしていると、だんだんほぐれてくる。さらに、共通の趣味があるとわかったら、参加者さん同士をさりげなく紹介することもある。
こうして、参加者さんたちが「これ、おもしろいですね!」といっしょに盛りあがれるようになると、場の空気は一気に和やかになるからだ。
スタッフは、参加者さんのサポーターとして、参加者さん一人ずつに話しかけたいところ。とくに、初参加の方には積極的に声をかける。「まいまいツアーはフレンドリー」とよく言われるが、このような空気感を大事にしたい。
■地域とまいまいをつなぐ「主催者代表」として
まいまいツアーは、街中を歩くことが多い。観光地ではないエリアを訪れることもあり、その地域にお住まいの方と顔を合わせることもある。そういった状況で、スタッフはツアー一行を代表して挨拶する。
挨拶にもいろいろある。たとえば、学びに来たことを伝えるもの。「このあたり、かつて川があったと聞いて」など。あるいは、懐に飛び込むものだ。「この看板、とても味がありますね」「このタイルがいいですね」など、ディテールに注目していることを伝えるパターンだ。
なぜこのような挨拶をするかというと、まいまいのスタンスを示すためだ。一般的には観光客といえばガヤガヤとやってきてその土地を表層的に消費していく存在だと思われている。
しかし、誰も気づいていないようなところに注目して、面白がっている姿勢を伝えれば、「そんなふうにこの土地を楽しもうとしているのか」と、私たちに共感してくれるかもしれない。「この看板がいいのか!」とあらためてその土地の魅力に気づくこともあるかもしれない。
スタッフはツアーの外側にも目を向けている。そうすることで、まいまいと地域のみなさんとのあいだの潤滑油にもなる。
■変幻自在な「同行スタッフ」
ファシリテーションとひとことで言っても、多様な役割がある。ツアーの幕をあける司会者役から、ガイドさんに対するよき聞き手、参加者さんのサポート役、そして地域に対する主催者代表まで、これらを一手に引き受けるのが同行スタッフなのだ。
それぞれ異なる工夫や配慮が求められるけれど、同行スタッフのふるまいの一つひとつは、けっして難しいものではない。「村野藤吾はやっぱり階段ですね」なんて、通っぽい発言をしようとしなくていい。それよりも、「へえ〜!」と素直に驚きを表現して、我慢せずに笑って、聞きたいことがあったら聞いてみる。そんなささやかなコミュニケーションが積み重なって、ツアーの空気は和気あいあいとしたものになってくる。
次回の記事では、同行スタッフがおこなう「マネジメント」について紹介する。
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