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ショートとわたしと木村くん

木村くんとの出会いは確か、8年くらい前。

渋谷の駅の中のすごい人混みの中。後ろから声がした。

カーキのブルゾンに色素が染み込んだ乾燥した指先。細身の男性がこちらを見つめていた。

そう、木村くんは美容師。わたしは渋谷の駅ナカで約8年前にハントされ、今に至るまですっかりお世話になっている。木村くんと言えば、当時はアシスタントだったが、今では一人前のスタイリストになって沢山の顧客を持っている。

木村くんには欲があまりない。特有のキラキラみたいなのがない。(悪口では決してない)見た目は顔がこけて濃いせいでぱっと見怖いけど、人懐こい笑顔と思いやりと、性格の良さが、そして美容師として何よりその人に合う髪型がジャストミートでわかるセンスがすごい。

彼とは同い年で、いろんな話をしているので多分わたしに一番詳しいかもしれない。木村くんもわたしの時間はリラックスしているようでタメ口で丁寧に進めてくれる。が、天然なのでたまにハサミが刺さったり、落としたりする。喋っていてここでは言えない天然な事件がたくさん起こる。そこがまた私はなんだか人間らしくて好きだ。

さて、わたしは木村くんになってから初めてショートカットにした。その時の周りの反響がとてもよく、わたしもとても気に入った。そして運気が回ってきたのか、いい流れになってきた。その後も面倒臭がりな私は、なかなか美容室に行かないわけだけど、それを木村くんは見越して伸びてもいいようにカットしてくれる。で、久しぶりに行って大概ショートカットにしてくれると運がよくなるのだ。

ありがとう、木村くん!

今、彼も木村くんがカットしている。いまいちどういう髪型にしようか決め切れていなかったそうだが、木村くんはパッとみて髪を触って頭の形を見て自分の中で似合う髪型のイメージが湧いたらしく、それに向けて今着々とそれに向けて伸ばしてはカットしている。彼も、木村くんにカットしてもらって、周りの反応もいいし自身も気に入っているらしい。

いつもふにゃふにゃして、プライベートではお酒飲んで路上で寝てしまうようなひとだけどひっくるめて「木村くん」だ。私はそんな木村くんにカットしてもらっていることがとても自慢だ。心配なのは、最近弱音を履いているのでもし木村くんが辞めたら誰に切ってもらって、誰に話し聞いてもらえばいいんだという問題。

でも、あの時大勢いる渋谷の人混みの中から私を見つけてくれて、ありがとう。木村くん。たくさん練習をしていたのはその手を見ればわかったよ。だから、その時に番号を交換して別れた後、私はハンドクリームを持っていたのを思い出して人混みをかき分けて戻って木村くんにわたしたっけ。そんなことまで彼は覚えていた。使いかけのハンドクリーム。今のラッキー運をくれた木村くんに、返し切れないほどの最初のお礼。無意識に長い付き合いになること、わかってたのかな。

今となっては定番のショート。

どうか隠居しないでね、木村くん。

でも、隠居しても家に行くよ。ゴミ袋と新聞持って。

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