見出し画像

学校帰りのあの店で

 『海砂糖』という店を学校帰りに見つけた。
高校に入学して2ヶ月。
「こんなお店あったかな?」
青と白のお店。
普段なら通りすぎるのに何故か無性に中を覗いて見たかった。
僕は扉を開いた。
カラン。
優しい音色が響く。
「いらっしゃい」
奥から声がした。
50代くらいの男性。店主だろう。
片手には本を持っている。
「どうも」
僕は軽く挨拶をした。
店内も青と白。
でも置いてあるものは、青や白はもちろん緑やオレンジ、茶色や黄色で色鮮やか。でも、派手な感じはしない。
むしろ、癒しという感じがする。
青色にも様々だし緑色にも様々ある。
「うわ。すごい」
僕が驚く声を出すと、店主の男性と目があった。店主は「ゆっくり見てって」
それだけ言うと、持っていた本の世界に戻った。
店内はそんなに広くないはずだが青色が中心で海を感じるからだろうか、広く感じる。
置いているものは、食器やアクセサリーやテーブル、椅子などの家具がある。
僕は夢中になりひとつひとつ見ていった。その中であるものに目がとまった。
それは、色々な青と白が混ざった綺麗なグラス。3つほど置いてある。
どれも綺麗だ。
ラベルには『海砂糖』と書かれていた。
僕がじっくり見ているのに気付いた店主が「それは、海砂糖って名前のグラスだよ」
「海砂糖ってお店の名前の・・・」
「そう。うちの店の名前と同じ。因みに俺の名前は佐藤海。さとうは漢字は違うけどねぇ」
「え、あ、僕の名前も佐東海です。僕もさとうは違いますが」
「本当かい?ハッハッ。俺は同じ名前の人に会ったの初めてだ 」
「僕もです」
お互いに照れくさいような嬉しいような、そんな感じになった。
「そのグラス、気に入ったならひとつ持っていきな」
「え!?いや、そんな・・・」
「それは、俺が作ったやつなんだ」
「え!」
「それだけでなく、ここにあるもの全然そうだ。そのグラスね、それが完成した時に"海砂糖"って思ったんだよね。なんでだろうな~でも、この店を始めるきっかけになった物だから店の名前も"海砂糖"ってわけ」
「そんな思い出あるもの、いただけません!」
「君はこの店の初めてのお客様。
それに、最近は創作意欲っていうのかな?薄れていてね。でも、さっき君が海砂糖を見ている顔を見たら、なんだかもっと作品作りたいな~ってふっとね。こんなの久しぶりだ」
「これ、すごく綺麗です」
「ありがとうな」
店主は海砂糖のグラスを箱に詰めて
「初めてのお客様に入店プレゼント」
と僕に渡した。
僕は好意を受け取ることにした。
「ありがとうございます。大切にします」
店主は黙って優しく頷いた。
それからしばらく話をした。
学校のことや人間関係やらを。
僕は高校入学してから友達が出来なく悩んいるなんてことも・・・。
なんでかな。初めて会った人なのにな。まだたくさん話したかった。
でも、携帯のアラームがそれを遮った。
「あ、すみません。これから塾の時間で・・・」
「そうか。気を付けてな。頑張れよ」
「はい!ありがとうございました。失礼します」
僕は頭を下げて挨拶をして店を出た。
カラン、と優しい音色がした。
もしかしたら、これも自作なのかな。
「また、おいでね、海くん」
そう言って優しく僕の名前を呼んだ。
「はい!」

 あれから1ヶ月。
海さんから貰った海砂糖のグラスは部屋に大切に置いてある。
本当は使った方がいいのだろうけど、目の届く所に置いておきたかったしキズつけたくなかった。
これを見て僕は「よし!」と気合いを入れていつも学校に行く。
学校でも見たいと僕は待ち受け画面にしている。それを休み時間に見ていたら、
「それ綺麗だね。あ、ごめん!勝手に携帯見て」と、同じクラスの確か名前は
倉田空(くらた そら)君。
「全然!これはね・・・」
 
それからは僕たち急速に仲良くなった。
趣味も一緒で、時間帯は違ったけど塾も一緒だった。
そして今では2人で『海砂糖』へ通っている。3人で話をしたり時々は海さんの作品の見学をさせて貰ったりしている。
海さんは僕たちをいつも優しく出迎えてくれる。
カラン、という優しい音色とともに・・・。




#シロクマ文芸部


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?