『下北沢ディスオーダー』第3話

扉の中心から現れた異質の存在

緑色の肌、尖った耳と鼻、釣りあがった目と口
それらはその存在が他と同じゴブリンだと言うことを表している
しかしその身長は普通の人間達とそう変わらない
他のゴブリン達と比べて手足はすらりと長く引き締まった筋肉で覆われている
手には豪奢だか使い込まれた盾と巨大な矛を携えている
その姿は略奪者のそれではなく、言うなれば武人だった。
さらに頭に乗せている黄金の冠と首に巻いた質の良いマントがその者が彼らの王だと告げている

「ありゃ強いな。小鬼どもの王か?前回はいなかったよな?」
「前回は主戦力ではなかったのか、新たな王が誕生したのか、真実はわかりませんが…2人で抑えますよ」
「2対1か」
「本意ではないかもしれませんが、縹君がいるので実質1対1ですよ」
(マイナス1扱いされた…!!)
真剣な表情ながらも軽口を叩き突き進む2人

王が矛を突き上げてなにかしら叫ぶ。言葉は理解できない
周囲の兵達からも呼応するように叫び声が上がる
王、突き上げた槍を前方に振り下ろした
途端に兵達の動きが統率が取れたものになる
対応していた侍や騎士が僅かに押され始める

さらに王の背後にある扉から
杖を携えローブを着たゴブリンが数匹、
周囲のビルほど大きなゴブリンが3体現れた

杖ゴブリンは先程のエルフと同じように光と魔法陣に包まれると
さまざまな魔法を使い敵を迎撃し出した
巨大ゴブリンは手に持った棍棒や剣で足元の敵達を薙ぎ払う
さらに王ゴブリンは縹達の狙いに気が付いているのか
扉を中心に中央後ろに王、右前方に杖ゴブリン、左前方に巨大ゴブリンという形で陣形を組んでいる

「扉にたどり着くには全部斬らなければならんようだな。」
「そのようですね。少し骨が折れそうです。」

王ゴブリンがニタリと笑う
先程まで扉の周囲にいた町民たちは既に引き離され、扉の周りにはゴブリン達以外居なくなってしまった

『ウンダッパラ~、ウンダッパラ~、グレイサン、常盤サン聞こえますか?』
突然三人の隣に飛んできたドローンから声が響く
驚いて、目を丸くする3人

「ええ、聞こえています。どうされました?」
『事情はナギサンに聞いたっす。その子扉に連れてきゃ勝ちなんすよね?アタシも協力しますよ!』

「こっちも聞いたぜ!」
ビルの上にいた海賊の船長が叫ぶ。先程の古着屋の店員だ
(身体中にゴブリンから奪ったであろうアクセサリや鎧や武器をつけている)
「デカブツどもはこっちに任せろ!!蝿どもは杖持ちをやれるか?」
『蝿じゃねっす!失礼な!余裕っすよ!周りの雑魚はどうするんすか!?』

「ウチの部下と侍どもと騎士どもがいりゃなんとかなるだろ」
海賊が叫ぶ
『それじゃ王様はグレイサンと常盤サンにお任せするっす!』

「心強い…!了解しました。こちらはお任せを!」
「グレイ!常盤!」
最後に海賊船長が2人を呼び止めた

「おうよ!」
「あの王冠と、できれば槍と盾も奪っとけ!ありゃ高そうだ!」
呆れ顔のグレイと常盤
心なしかドローンからもため息が聞こえた気がした

「はっはっは!できたらな!」
常盤とグレイが王の警戒範囲に近づく。槍を構える王

杖ゴブリンが杖を振ると王と周囲にいるゴブリン達が光のオーブで包まれた。
『魔法防壁っすか!当然貼りますよね!ただ…』
ドローンが10機ほど集合する

『こっちが今まで何回魔法を使う世界と戦ってきたと思ってんすか!異界の魔法なんて解析済みっすよ!“反魔法電波マジックジャマー ”起動!!』
ドローン達が振動すると、光のオーブが解けるように消えていった

焦ったように杖を掲げる杖ゴブリン達
ドローンを迎撃しようと魔法を放つ
『無駄っすよ!ドローン隊!“掃射モード”』
ドローン群から、杖ゴブリン達に向かって無骨なマシンガンの銃口が現れた
『てーっ!!!!!』
合図と同時にドローンから放たれた無数の銃弾が杖ゴブリン達を襲う

「ちょっとこれ邪魔だな」
言いながら奪った戦利品をその場に下ろす船長
そして高くジャンプしビルから飛び降りた
目の前には巨大ゴブリン
縹はそこで気がついたが船長は人間としても身長は大きくない
縹と同じくらいである。
その男が1人、3体の5メートルを超える巨漢たちと向き合っている
小さな獲物を見下ろしながら舌なめずりをする巨大ゴブリン
息を呑む縹

船長は静かに首に付けた首飾りの赤い宝石に触れた
「ーー海の女神テティスよ。その身滅びどもその愛、その御心は我が下に」

目を閉じて海賊船長が祝詞を発すると、突然暗雲が現れた
「望みに応えて海を呼べ。」
言葉を紡ぐと船長と巨大ゴブリン達の足元に大量に波打つ水が現れた
水は船長の膝くらいの深さで地面を覆っている
「願い聞き入れて力を寄越せ。いでよ我が船“赤い悪魔の嘆き号レッドデビルカンタータ”!!!」

地響きとともに水の中から巨大ゴブリン達と同等かそれ以上の巨大な船が現れた
木造の巨大な船は物々しい飾りと巨大な砲門、そして黒い帆には物々しいドクロが掲げられている
ドクロと目が合い、慄く巨大ゴブリン

縹、振動と風圧で飛ばされそうになるところグレイが手を、常盤が首根っこを掴んで留めてくれた

「なんだぁ?チビ鬼共。」
船首に立ち腕を組んで、ニヤリと笑う船長

巨大ゴブリンが叫び声を上げながら棍棒を振り上げる
「放てぇ!!」
砲門の一つから大砲が放たれ、巨大ゴブリンの顔面に当たる
直撃と同時に爆発し巨大ゴブリンは動きを止める
「進めぇ!!」
言葉に呼応するように足元の海の波が荒れ狂い船が急発進する
船は三体の巨大ゴブリンに体当たりをすると薙ぎ払い轢き潰した

その下ではグレイの剣と常盤の刀、王ゴブリンの槍がとてつもない勢いでぶつかりあった
生じる風圧に足を止める縹

「止まるな少年!!目ぇ開けろ!!」
「縹くん!今です!!」

2人の声に後押しされ、勇気を振り絞ってゴブリンキングの横を抜ける
ゴブリンキングが縹の方を見る
空いている盾を携えた手で縹を掴みにかかるがその腕を常盤の刃が襲う
反応し手を急反転させ盾で刀を防ぐ
「よそ見している場合か?」
挑発するように笑う常盤
ギ…!!と鬱陶しそうな呻きをあげるゴブリンキングの横を、縹が駆け抜ける
扉まであとおよそ3メートル。

そして伸ばした右手がこちらの世界と異世界の境界に触れた

一瞬の沈黙
「何も起こらない…?」
ナギの言葉と白道の舌打ちの直後

縹の右手の甲に鍵のような紋様が浮かび上がる
直後、扉から地鳴りと不思議な風が吹いた
扉から強大な引力が生じる
引力は縹や他の町民には影響を及ぼさず、
扉の向こうから生じたものゴブリン、その死体、血だまり、鎧、剣を引き寄せた(船長が奪っていたものも)

ゴブリンの王も抵抗しようとするが振り払えるものでもなく、あえなく扉に引き寄せられる
悔しそうに常盤とグレイを睨むキング

「はは、また今度やろうや」
刀を鞘に戻しながら常盤が皮肉げに言う

そして全てを吸い上げた扉は光とともに消え去った
ぽかんとする縹を含めた町人達
「どうやら、終わりのようですね」

言葉とともに歓声が上がった
町民達が縹に駆け寄り口ぐちに賛美の声をあげる
叩かれたりハイタッチを求められたりそれらに戸惑ったような笑顔を浮かべながら対応する縹
不意に目を挙げるとそこのはナギの姿があった

「うまくやってくれたね。縹くん。君はこの街の恩人だ」
手を差し出すナギ
「はは…うまくいってよかったです」
ゆっくりと手をあげて、ナギの手を掴む。握手をする2人
「ようこそ、我が街下北沢へ。」

街を覆っていた札と赤い光が消え去っていく
そこのは快晴の空があった

『ここは自由の街、下北沢。これはここで暮らす者たちと1人の少年の物語』 

第3話 了

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