『下北沢ディスオーダー』第2話

戦場となった街中

常盤と侍たちは流麗な刀捌きでゴブリンたちを切り刻み、グレイたち騎士団はナギたちを守るように陣形を組み見事な連携でゴブリンたちをことごとく薙ぎ払う

海賊たちは高所から飛び降りるとカトラスやピストルを振りまわしゴブリンたちを蹂躙する

ドローンはそれぞれレーザーや電磁パルスを放ち路地に抜けようとするゴブリンたちを打ち払う

ストリートミュージシャンたちは互いにカバーし合いながら風、火、水を放ちゴブリンを寄せ付けない。

ラーメン屋の店員は手を前にかざし足元に輝く魔法陣の中に立ちながら近づいたゴブリンたちを魔法で迎撃している


これは確かに
こんなトンデモシチュエーションに初めて出会う縹の目から見ても、戦力的にはこちらに部があるように見えた
「ナギさん!!あんたもっと下がってて!!どうせこいつらの狙いはあんたなんだから!!!」
「はーいごめんよ!縹くんこっちこっち」
縹の手首をナギが掴む

「ナギさん!!?なんかトンデモナイ事聞いた気がするんですけど!!これ、狙われてるのあんたなんすか!!?」
ナギに引っ張られながら縹が叫ぶ
「えへへ、実はそうなの」
照れ笑いをするナギ
「照れるとこじゃないでしょうが!!」

引っ張られながら突っ込む縹
気がつけば戦闘地帯の最後尾、ゴブリンの手が届かない地帯まで離れていた
「さあ、あとはみんながどのくらい粘れるかと、来てない子らがどのくらいに来るかだね」
戦況分析するナギを見て縹の我慢が限界を迎えた
ナギの手を振り払う

「いい加減にしてください!!何が起こってんですか!!訳がわからない!!俺は一体何に巻き込まれたんですか!!?」
今までとは違う真剣な剣幕の縹に、ナギは驚いて一瞬言葉を失う

「うん、まぁしょうがないか。いいよ。全部話すね」
優しい笑顔を浮かべるナギに冷静になる縹
「まず、僕が狙われる理由なんだけどね。僕、神様なの」「……………………………」

ニコニコと笑うナギを、縹のチョップが襲う
「いったぁ!!」
「真面目に話してもらえませんかね!!!」
「真面目だよ!?ちゃんと聞いて!!?だいたいこの状況で冗談なんて言う訳ないでしょう!!」
縹、戦闘地帯を見る
凄絶な戦闘が繰り広げられているのを見て考え唸る
「…すみません。浮浪者だと思ってた人が急に神様を名乗り始めたので、つい…」

(浮浪者だと思われてたんだ…)
「とりあえず、ちゃんと聞いて」
「はい」
「僕の本当の名前は躬津奈木(ミツナギ)。道楽の神にしてこの世界に残された最後の神」

「最後の…?」
「神様ってのは争いが好きでね。勝手に喧嘩して勝手に滅んだの。僕はそんなの興味なかったからね。フラフラしてたら生き残って唯一神になってた。そして、この土地を聖地に選んだんだよ。そしたらすごく楽しい土地になった。人々が集まりあらゆる個性、あらゆる文化、あらゆる娯楽がこの土地には根付いた。ついでに異次元、異世界との扉も繋がった」

「ついで!?」

「土地に根付いたことで神力が増したんだろうね。それから異次元、異世界からの住人がこの町に住み着くようになった。騎士団、魔法使い、海賊、亜人、他にもいろいろ、そして世界のバランスを保ちたい人たちも集まってきて今の下北沢になったんだよ」

「どうやら神が滅んだのは異次元異世界も同じみたいでね。自分の世界に神の力を取り戻そうと僕の身柄を手に入れようとする輩も定期的に来るんだよね。彼らみたいに」

「だったらそんなやつら呼ばなきゃいいでしょ!!」

「いやいや、異界の扉ってのはね。定期的に勝手に近づいてきて一定期間勝手に開くんだよ。僕が干渉できることじゃない。閉じることだってもちろんできない」

(まじでこれほとんどこの人のせいじゃんか…)
「そんなろくでなしを見る目で見ないでよ。みんなも納得してるんだから」

縹、もう一度戦闘地帯を見る
扉から無尽蔵に表れるゴブリンに対して、徐々に数で押されているようにも見えたが、戦う者たちの表情は曇っていない。まるで、この戦いを街を上げた祭りだとでも言わんばかりに楽しんでいる様子だった

「これが…自由の街…」
縹、ふと先ほど聞いた言葉を反芻する

「それで?こっちからも質問だ。君は言ったね。アレを見て“異世界の扉”って。この街の住人でもない君が。どうして君はアレを知っていたのかな?」

縹がごくりと息を呑む
その瞬間、1匹のゴブリンが集団を抜け出し縹の元に飛びかかった
視界の外から白道がゴブリンに回し蹴りを加える
数メートル吹き飛ぶゴブリン

「ナギさん!まずいですよ!段々数で押され始めてます!!このままじゃ夜までもたないかも!!」
後退してきた白道。
「うわホント!?まずいね!!」
「前回この【ゴブリンの国】が繋がった時は三日間丸々扉が開いてましたから、その間ゴブリンが沸き続けるならかなりヤバイです!!」

縹の頭に島の長老の声が響く
『この島の秘め事は決して外部に漏らしてはならぬ…』
再び戦いの様子を眺めて意を決する縹。

「…俺なら」

ナギと白道が会話に割って入った縹を見る

「俺ならあの扉を閉じることができます」

暫しの沈黙の後ナギが口を開いた。
「どうしたの?おかしくなっちゃった?」

「この街に比べれば普通ですよ。俺なんて…それに…この状況で冗談を言う訳ないんでしょ?」
決意に満ちた縹の表情にナギは確信めいた笑みを浮かべる

「うん。じゃあ試してみようか」
「ちょっとナギさん!変な博打打たないでくださいよ!」
白道が激昂する
「そうだね。でもまぁ面白そうじゃない」
白道、呆れたように大きなため息をつく
「縹くん、どうすればいいんだい?」
「…俺をあの扉まで連れていってください」

白道がイラついた顔で縹に掴み掛かる。
「お前、死にたいのか?あの扉見てわかるだろ。次々にゴブリンが沸き続けてる。あいつら小さくて弱そうに見えるが、一般人ならサシでも殺せるくらいの力はある。通りを埋め尽くすくらいの数がいるあいつらをすり抜けて扉まで辿り着けると思ってんのか?」

「それは…」
ナギ、縹を掴む白道の手に優しく触れる。
「できるよ。みんなが手伝ってくれればね」
ナギが大きく息を吸う。
「みんな!この子をあの扉まで連れていってあげてほしい!そうすれば戦いは終わる!」
通り全体に響くほどの大声でナギが叫んだ
戦闘状態だったものたちがその声に耳を傾ける

「…らしい」
最後に小声で付け加えた。

戦っている街の者達から同意の雄叫びが響く
大きく舌打ちをする白道
「お前、自覚しろよ?全員が乗っちまった以上お前が失敗すれば街が奴らに乗っ取られる可能性がある。死んだら殺すぞ」
縹(怖ッ…)

そこにグレイと常盤が駆けつける
どちらも汗と返り血で汚れはしているものの傷を負っている様子もなく、息すら切れていない。
「ナギさん!今の話は本当ですか!?」
「うん、彼が言うには」
「なんだ博打か!面白そうじゃねぇか」
「縹くん!私たちが先導します!離れずに後ろをついて来てください!」

その前方に4人の女性が躍り出た
ラーメン屋店員だったエルフと路上ミュージシャンだった3人の精霊だ

エルフ「要するに、魔力残量とか考える必要がなくなったてことよね?」
火の精「残存魔力全部使って残りを一掃するから」
水の精「多分扉から新手は沸くけど」
風の精「タイミング合わせて走って!」

4人が光り出す
エルフ『極大魔法エーテリンク
精霊たち『『『精霊大禍エレメレ』』』

エルフ『世界樹の息吹ユグド・ラ・フリーア
精霊たち『『『秘蹟三光サクサラ』』』

エルフから溢れた光が前方に直径5メートルほどの魔法陣に変わり光の塊を放つ
精霊たちは巨大な火、水、風の塊を上空で混ぜ合わせると3色が渦巻く熱線となる

同時に直進する二つの力の塊はゴブリンたちをかき消しながら
ゴブリンの国の扉に向かって直進する

危険を感じた騎士や海賊、侍、ドローンが慌てて通りの小道や上空に退避する
光は扉に当たる直前で何か大きな力によって阻まれかき消えた
しかしゴブリンたちの被害は甚大である

通りに動けるゴブリンはほとんどおらず、小道に逃れたゴブリンが僅かに残る程度だ
爆風に唖然とする縹
ヘロヘロと4人が崩れ落ちる
「さぁ…行って…」

4人とも力を使い果たした様子で縹の目にも戦闘不能だと分かった
先程の白道の言葉が縹の中に響く
ふるふると頭を振って、言葉を振り払う
(大丈夫だ。今はこの人たちを信じるんだ)
目の前に立つ騎士と侍の背中を見据える縹

並び立つ騎士と侍
その後ろに立つ縹
「抜かるなよ。騎士殿」
「そちらこそ。侍さん」

2人笑顔でゴブリンたちの群れを見据える
2人同時に駆け出す
「皆さん、先陣ありがとうございます!この好機、無駄にはしません!」
「しっかりついて来い!少年!!」
縹、2人の後に続く

残党を切り崩しながら、疾走する2人と背後に続く縹
扉までの道程を半分程進んだところで
扉から新たなゴブリンが沸き始めた
先程までの小さな簡素な装備の者たちではなく体が大きなしっかりとした装備をした兵たちだ

「先程までの彼らは先鋒隊だった様です。今沸いているのが本隊でしょう」
「ここから本番って訳だな。気ぃ引き締めろよ。少年」

2人が速度と剣速を上げる
ゴブリン本隊と衝突するがそれらは衰えることなく
鋭い太刀筋でゴブリン達を武装ごと切り刻んでいく

扉までおよそ100メートル
(いける…!)
縹が心の中で叫んだところで
扉からそれまでとは全く異なる威圧感が3人を貫いた

「「「!!!!」」」
扉から現れた存在を見て3人は息を呑む

第2話 了

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?