不妊治療中のメンタル-治療の底と心のハンドル-/ てまねきの記録7

前回の記事で分割胚移植を終えた私。
今回は治療中のメンタルの沼について書きたい。(あくまで私個人の気持ちの話)

不妊治療メンタルの「かもしれない」運転

凍結胚移植を受けてから妊娠判定日までは、不妊治療のつらさを煮詰めたような期間だと私は思っている。

着床がうまく行っていれば妊娠している可能性がある。
宝くじで言うと、買ったからには当たっている可能性がある、夢を見られる期間だ。

妊娠している可能性があるのだから、カフェインや火の通りが少ない肉や魚も控えてみる。
飲み会でお酒を飲まない。
周りの人に「あれ?もしかして?」と言われたりする。
しらけさせないような返答ってなんだろう?

そのうち、体調がいつもと違うような気がしてくる。
いつもより眠かったり、お腹に違和感があったり、胸が張ったり。
これはいわゆる妊娠の初期症状だ。
自分でも「あれ?もしかして?」と思い始める。
宝くじで、10の位まで当たってる!と期待する状態だろうか?

実は、上記の眠気等の症状は、不妊治療で投薬を受けている場合、ホルモンの作用によって現れることがある。
もっというと、生理前の普通の症状でもある。
でも、お腹の中の卵を意識して生活をしていると、「この症状はきっと!」と思ってしまうのだ。

一方で、期待は禁物とも思わなければいけない。
ダメだった時のショックを和らげなければいけない。
病院での判定日に、先生に合否を突きつけられてその場で受け止められる自信がないので、病院に行くまでに市販の妊娠検査薬を試してみる。
妊娠検査薬の判定可能日よりだいぶ早いけれど、ネットによると妊娠していればこの頃にはうすーーく線が出るらしいので試してみる。(いわゆるフライング)

判定窓には線は出ず、真っ白だ。
ああ、だめだった。だめだったんだ。

でも、光に透かしたら薄く見えるかも?
見えないか。

でももしかしたら、さすがに検査が早すぎ、フライング過ぎたのかも。
夕方にまたやってみよう。(こうして積み重なる真っ白の妊娠検査薬)

というような具合。
もしも妊娠していた場合の赤ちゃんを守るための「かもしれない」運転、妊娠しなかった場合の心を守るための「かもしれない」運転。
ハンドル操作が真逆なのだ。
喜んではいけないと思いながら希望を探す、心の振れ幅に自分がついていけない。

同じ立場ではない人に伝わるように、途中まで宝くじに例えようとしてみたけれど、やっぱりその振れ幅を例えることができなかった。
これだけは、治療の相方である夫にも伝えられなかったし、理解してもらえたとは思っていない。

判定日

さて、上のような精神状態で5日間過ごして、やっと病院での判定日を迎えた。
血液検査での判定だ。
もうすでに真っ白の検査薬を何本か見ているので、結果は99%わかっている。
気持ちは一度落ちるところまで落ちて受け入れたところだけど、結果待ちの待合ではやっぱりドキドキするものだ。

いよいよ名前を呼ばれて、先生がいる診察室の扉を開けるか開けないくらいで「まいけるさん、今回は着床してないねえ」と先生の声。
判定結果を伝えるタイミングが絶妙だ。さすが、慣れている。
扉を開けて、閉めて、着席してから「だめでした」なんて、言われるのも言うのも気が重すぎるもの。

この周期の基礎体温表はこの言葉で締め括られた。

不妊治療の底

底という表現はどうだろうと思ったが、人それぞれに一番つらい点がある。
これはリアルタイムではなく過去を振り返る形の記録なので、私が一番落ちていた時期を底としている。

初めての移植の前だっただろうか、先生から「体外受精での妊娠確率は約30%、大体3回に1回」と聞いていた。
私は最初の採卵で移植できる卵が3つできていたから、じゃあこの3つのうちどれかで妊娠できるだろうなと思っていた。

ところがどっこい、この後に移植した残り2つの卵も、「着床できず」、かすりもしない結末を迎えることになる。
この頃には、妊娠なんて都市伝説だと思い始めていた。

凍結胚を使い切った私は、再度採卵にチャレンジした。
1回目の採卵とは投薬方法を変更して試したのだけど、この投薬が私には合わなかったようだった。
端的に書くと、卵子は少ししか取れず、取れた卵子も受精後分割が進まず、1つも残らなかった。
もちろん移植にも進めない。

ここまで来るとその都度大ショックを受けるわけでもなく、呆然としながら、義務感で前に進んでいた。
この頃のTwitterの不妊治療アカウントは更新がストップしている。

改めて、お金の話

前の記事で書いた体外受精のざっくりした費用感(採卵凍結で30万、移植が10万)に当てはめてみると、ここまでに採卵1回目30万+移植3回で30万+採卵2回目30万=90万円。
半年間でざっと100万円を「失敗」でなくしてしまったことになる。

そのうち、ありがたいことに60万円の不妊治療の助成金を受け取れていた。
保険適用外でも、この制度に助けられていた。(でも、助成金は所得制限や年齢制限等あって、夫婦フルタイムで共働きだと受けられない人も多かった)

当時この助成金は一夫婦につき6回までという決まりで、ここまでで4回利用していた。
やっぱりお金のことを考えると、私たちは助成金をもらえる間しか治療(特に採卵)はできないと思っていた。
だから、あと2回のうちに採卵がうまくいかなければ、私たちの治療は終了だ。

それまではどう悩んでも、凹んでも仕方がないと思っていたので、私は粛々と次の採卵に向かうことにした。

次回はちょっと番外編。
治療中のメンタルの話で、私の趣味のことを書きたい。

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