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受精卵は命?-胚移植- /てまねきの記録6


前回の記事で凍結分割胚3つを手に入れ、卵巣を腫らした私。
今回は受精卵を子宮に戻す「移植」について書く。

体外受精の手順で言うと②の部分だ。

①卵子を取り出して(採卵)、体外で受精させ、ある程度分割させる→たくさん受精卵ができれば凍結
②正常な受精卵を子宮内に戻す(移植)


卵巣に溜まった水を正常に戻すため、生理を一回見送ったあとの移植。

胚移植とは

分割が進んだ受精卵を子宮に戻す。
処置時間は5分くらいで、人によるけれど痛みもほとんどないので麻酔等も使わない。

自然な妊娠では、排卵日に体内では受精が起こり、受精卵は何日かかけて分割しながら卵管を移動する。
そして子宮にたどり着いて着床したら妊娠成立となる。
分割胚の移植では、卵の分割度合いによって移植タイミングが変わってくる。
私の場合は5日分分割した卵なので、排卵日の5日後に移植すると言う感じ。
もちろんホルモンや内膜の状態で前後するため、その検査の為に2、3回通院して、移植日が決定する。

人間は卵から生まれる

移植の日は午前中に病院に行って、採卵の時と同じ手術着に着替え、同じ手術室に入った。
採卵のときは痛い思いが待っているけれど、移植は患者にとっては今までやってきた人工授精のような感覚なので、気持ちが軽い。

手術台に横になる前に、奥の部屋(胚の培養の部屋)にいる先生の元へ呼ばれる。
その日移植する卵を見せてくれるのだ。
先生が指差すモニターには分割した卵の写真と、リアルタイムの顕微鏡の画面が並んでいる。
「とてもいい卵です。スムーズに着床が進むように、殻をレーザーで切り取ってあります。」と先生。

これは移植した卵の絵。
顕微鏡の画面には外側の丸い殻が直線で切り取られて、中身が殻の外に少し出ている卵が映っている。
孵化しているのだ。動きは全くない。

私はこの画面を見てちょっと感動した。
人間は最終的にはお母さんのお腹から生まれるし、そのイメージが強いけれど、最初はひよこと同じで卵から生まれていたんだと初めて実感した。
今、生まれた瞬間を顕微鏡で見ているんだ。
この子はもう命なのかもしれないなぁ。

自然妊娠や人工授精では自分の受精卵を見ることはできない。
とても貴重な体験だった。

「がんばれよー!」

「ではこの卵を移植します。」と言った後、先生は画面の卵に向かって「がんばれよー!」と念を込めてくれた。

この治療記の冒頭の記事で、同じ病院での治療ブログを参考にしていたと書いた。
そのブログにこの「がんばれよー」のことも書いてあったので、実はちょっと楽しみにしていた。
「これのことかぁ!」とテンションが上がった。

普段の診察の時は、余計なことは喋らない先生なのでときめいた。
でも、どう反応すればいいのかわからなかった。
ありがとうございます?(私の卵を応援してくれて?)
私も一緒に応援する?
この後何度も移植を重ねることになるけれど、最適な返事は最後までわからなかった。笑
いつもえへへと笑うしかできなかったけど、手術室の奥室に手術着で座らされた私の心は和らいだ。

目に見えないものを扱う仕事

胚移植の手順は人工授精と似ている。
子宮まで管を通したあと、人工授精では洗浄後の精子を、胚移植では培養液と一緒に分割胚を注入する。

患者側からすると何が入ろうが変わらないのだけど、先生側での大きな違いは注入物が肉眼で見えるかどうかだ。
精子は目で見えるけれど、培養液の中に浮かぶ分割胚は肉眼では見えない。
しかも一つしかない。
何十万円もかけて育てた貴重な一つだ。
注入したと思ったら容器の中に残ってました、となれば大問題なので、注入後に培養士さんが容器の中をチェックする。
培養士さんの「OKです」を合図に移植が終わる。

厳密に言うと、エコーで子宮の中を見せてもらいながら(卵は見えないけれど培養液は見える)、「ここに入れましたよ。がんばれよー!」と先生が念押しするのを聞いて、私がうふふと笑って、初めて移植完了だ。

移植後の生活

手術台から降りるときにはもうお腹の中に卵を入れた生活が始まっている。
受精卵が命なのかは人によって考え方が違うと思うけれど、私は、移植後はどうしても命として意識してしまう。
うまく子宮内膜にくっついてくれれば、そのまま長いこと一緒に過ごすことになる命だ。

移植後の過ごし方はいつも通りでいいと説明があり、私は午後から出勤したが、やっぱりちょっと静かに歩いてみたりする。
生卵を常にポケットに入れているような感覚で、移植から妊娠判定の診察まで長い長い6日間を過ごすことになる。

次回は不妊治療中のメンタルについて。

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