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魔女や龍が来る保育園

うちの保育園はちょっと変わっている。「つもりの世界」というのをとても大事にしていて、毎年子どもたちはその年のお話が始まって大冒険に出かけるのだ。そんなことを全然知らずに入園して、3歳児だった兄の部屋に送って行ったある日。最初に教室の天井から巻物がぶら下がっているのを見つけたときには私まで興奮してしまった。これは何なんだ!!その日のワクワクは今でも忘れられない。その年は忍者からの巻物が次々と届き、兄たちは忍者修行と称して園庭で裸足でいろんな運動に取り組んでいた。運動が苦手だった兄も、忍者修行となれば話は別。目をキラキラさせてやっている姿に「つもりの世界」の凄さを知った。

秋になると今度は魔女がやってきた。散歩に出ようとすると保育園の玄関に置かれた大きなほうきを見つけて、散歩先の公園では魔女に扮した先生がチラッと見えて逃げる!「わ!今魔女がいたー!」と追いかける子どもたち「魔女どっちにいきました?」と近くにいた人に聞くと「あっちに行ったよ!」とたまたま居合わせた人もナイスリアクションで盛り上げる。子どもたちはそれから自分たちのほうきや、枝で作った魔法の杖を持って公園で飛ぶ練習をしたり、魔女のスープのレシピを自分たちで考えて作ってみたり。魔女の歌を作ったり。

生活発表会ではこれまで自分たちが考えてきた魔法を披露して、大魔女と対決するという場だった。子どもたちはただいつもの遊びや取り組みを楽しんでやっているだけなんだけど、それを先生がうまくお話に見えるように味付けしてくれているので、大人には劇のように見えるという見事なシナリオ。これまで大人が決めたセリフを覚えて、決まった動きを練習してという見せ方しか知らなかった私は、「子どものための発表会」になっていることに心底感動したのだった。4・5歳児合同クラスになるとセリフを覚える劇もやるのだが、それだって子どもたちが全て自分たちで考える。「こういうときどんな気持ちになるかな?なんて言うかな?」なんて話し合いながら、ストーリーも歌も大道具も全て自分たちで考えて劇を作るのだ。

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実はこの「つもりの世界」というのはいつも何かの絵本がベースになっている。魔女の時には魔女の絵本、龍の時には龍の絵本を先生が何度も読んでくれてそのお話を現実世界で体験しているような感じだ。そしてこの保育園でしてきた冒険というのは卒園した後も子どもたちの力になっている。一年生の最初、学校行きたくないと毎日泣いていた兄が「ママ、保育園の時に読んでた本が読みたいんだけど、買ってくれない?」とふと言い出した。どの本なのか聞くと、それは兄が体験した龍の大冒険の時の絵本と魔女の世界の本だった。それを毎晩読む時の兄の顔は今思い出してもちょっと泣けてきてしまう。兄は、冒険の最後に龍からもらったキーホルダー(先生の手作り)をランドセルに入れて「これで明日は行けそうな気がする」と力をふりしぼっていた。もう学校には楽しく行けるようになったけれど、兄のランドセルには今も龍のキーホルダーが入ったままだ。

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そして今年は妹がこの保育園最後の一年。今年はどんなストーリーが始まるのかなと楽しみにしていたら、今年のおはなしはエルマーのぼうけんで、龍からの巻物が届いた。もうその日の妹の興奮といったらすごかった。「ママ!あのね、今日ね、龍からの巻物が届いてね・・」会った瞬間から話が止まらなかった。昨日は龍から地図も届いて地図を頼りに大冒険!崖のぼりもしてきたらしい。

最後の一年が、大好きなエルマーの冒険で私もとっても嬉しい。毎晩、一緒にエルマーの冒険を読み返しながら寝る前の冒険の時間も楽しんでいる。そういえば、兄が言ってた。「僕ね、保育園で一番好きな時間はお昼寝のときに先生が本を読んでくれる時間だったんだ〜。絵本じゃなくて、長い本を読んでくれるの。あの時間忘れられないな」

本は私たち大人が思っているよりもずっと大きな力を子どもにたちに与えてくれるているのかもしれない。

我が家にとっては今年最後の龍との大冒険。家族みんなでワクワク楽しみたいなと思っている。

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