ガイドブックを掘る、韓国の旅4

初期のサムギョプサルとか

 昨日のサムギョプサルの話をしたら、早速、反応をいただいた。「1997年留学組、サムギョプサルをめっちゃ食べました」って。そうそう、その頃は新村の一角がサムギョプサル横丁とまで言われていた。韓国人は熱しやすいので、何かブームが始まると一気に広がる。さすが大陸、まさに燎原の火の如し。最も影響を受けやすいのが学生街の安食堂だ。もともと家業へのこだわりなどないので、テージカルビがきたらそれ、タッカルビがきたらそれ、サムギョプサルがきたらそれ。変幻自在だ。

 ところで、最初の頃のサムギョプサルというのは、鉄板にホイルを貼ってその上で焼いていた。今のように油を落とす穴などなかったので、豚の脂がどんどん溜まっていく。その油を吸収するために食パンを使っていた。キッチンペーパーよりも、売れ残りの食パンの方がコスパがよかったのかもしれない。(そうそう、テッシュだって貴重で、タダで配るなんてなかった)。その後、サムギョプサルが外食として定着していくと、専用の鉄板も出てきた。また、初期サムギョプサルの時代は、キムチを焼くと怒られた。豚肉とキムチの相性はとてもよいので、サムギョプサルの鉄板でキムチを焼きたくなる。そうするとアジュンマが血相を変えてとんでくる。

 「キムチを焼いたらいかんがな」

 名古屋弁ではなかった、なんとなく名古屋テイストの関西より強めの言い方だった。関係ないけど、「韓国人=名古屋人説」というのを唱えたのは大阪の人だ。「地下道が多いし、見栄っ張りの人が多いし」(尾張でない側の愛知県人の私としてはノーコメントですが)。それはともかく、キムチを焼いてはいけないというのは、それが鉄板にこびりついて面倒という従業員側の事情と、キムチの消費量が多くなるという店主側の事情が矛盾なく一致していた。ただ、結果として客の欲望が勝利した。時を置かずして、サムギョプサルの脂で一緒にキムチを焼くタイプのお店が鍾路に誕生して、それが一気に広まった。あの店、鍾路の再開発でなくなちゃったな…。

 さて、1982年のガイドブックに掲載されたレストランが、現在いくつ残っているかという話だ。

今も存在するレストラン

 1982年8月発行の『韓国の旅』(KKワールドフォトプレス)のp94~95、「レストランガイド」には、<韓国料理店>が31店、<中華料理店>が7店、<日本料理店>が14店、<西洋料理店>が18店が掲載されている。まずは<韓国料理店>のリストを見てみる。

 この店が現在、営業しているかどうかを調べるのには、電話をかけてみるのが一番早い。ネット情報は更新が遅れるので、今もガイドブックの仕事では、実際に電話をかけて確認する。しかし、この古い本では、それができそうもない。というのは、電話番号欄を見ていると、局番が2桁のものがある。今、ソウルの電話番号は3桁もしくは4桁だ。2桁の電話番号はとっくに廃番になっている。

 幸い、20年もガイドブックの仕事をやってきた私の頭の中には、500件ぐらいのレストランのデータが入っているので、見ればだいたい現存している店はわかる。ざっと見たところ、今も現存確実なのは次のお店。「美成屋」「コリアハウス」「大林亭」「新亭」「江西麺屋」、移転再開したのが「韓一館」「清進屋」、あと最近、行ってないけど数年前までは確かにあったのが「一億兆」、「珍古介」。

 今、あげた10軒は2000年以前のガイドブックには必ず登場していた。『地球の歩き方』(ダイヤモンド社)にしろ『個人旅行』(昭文社)にしろ『ブルーガイド海外版』(実業之日本社)にしろ。ただ、82年度版の「一億兆」の住所は仁寺洞とあるから、そのままの場所で現存という可能性はない。私が覚えている限りでも、忠武路付近に移転した後で、「ポッサムキムチ」が有名だった。「珍古介」も懐かしい。東京の編集部からの「すみません、ふりがな何とかなりませんかね?」って。「はい、`ちんこげ’が何か?」「それは、いくらなんでも…」と言われたって、そう読むのだから仕方ない。「じゃあ、日本語読みにしましょうか? えーと`ちんこかい’?」、「いや、それはさらに困ります」って(笑)

 調べてみたら、「一億兆」はキムチ専門メーカーになり、「珍古介」は東大門に移転して、ソウルナビにも掲載されていた。(と思ったら、それは支店で忠武路の本店もまだあるそう。そういえば、看板見たような。今はもうガイドブックでは取り上げなくなったよね)。驚くべきは、ふりがなが「ちんごげ」になっていたこと。あーそうなんだ、濁音にすればよかったんだ。ちなみに、レストラン名や料理名の韓国語をどんな日本語表記にするかの規則はなく、私たちが適当にやっていた。なので媒体や年度によってバラバラ。ビビンバ、ビビンパブ、ピビンバッ…。カルククスなんか、カタカナ読みじゃ絶対に通じないから、カルクッスとかね、韓国人に聞いてもらって一番近いのを選んだり。

 ということで、韓国料理に関しては、現存する店は31件中9件ということかな。残りは次回。

 

 

 

 

 

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