サビアン小説 1-5

夏の終わりの夜、首都高を自動二輪車で走った。私の望みはなんだろう。この夜がずっと続けば良いと思った。遠いビルとビルの間に、小さく花火が見えた。まる、ほし、まる、二重まる、さんかく、ほし、まる、さんかく、さんかく。かすかに花火の音が聞こえる。視界の先に映る小さな形を眺めながら、そうだ、今日は花火大会の日だ、と気がついた。一昨年まで、あの川沿いの家に住んでいたから、花火大会の日には毎年必ずビルの屋上で、みんなで花火を見たのだ。ほとんど幻の、はるか昔の出来事のように感じられた。時速120キロメートルの速度で走る自動二輪車は、私に羽を生やした。とろりと湿り気のある、身体にまとわりつく大気の温度が心地よかった。流線型の自動二輪車は、さらに速度を増していき、まもなく空のスープの一部になった。


1-5 A triangle with wings.

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