サビアン小説 1-3

彼の祖国は、南太平洋に浮かぶマンゴーの形をした孤島だった。彼はその国で一番栄えていた村の漁師の息子だった。両親は、自分達の息子が漁師の後継ぎになると信じて疑わなかったが、彼はというと、幼い頃は海にはあまり興味を示さず、その代わり、村で唯一の図書室に通っては考古学の本を一日中読み続けた。島が所持する考古学の本を一冊残らず読み終えるほど、古代の叡智に入れ込んでいた。

しかしその後、島の人々は近くの大陸への移住を余儀なくされた。彼が成人を迎える頃には、島は海面にすっかり隠れて見えなくなった。島の人々は祖国を失ったのだ。慣れない土地で生活をしていくことは、島を失った人々にとって何よりも重要なことだった。そして、彼もいつの間にか両親と同じように、漁で生計を立てるようになった。そうなることは、とても自然な流れだった。しかも、ひとたび両親と一緒に漁に出かけてみると、すぐに彼の才能は開花した。漁の腕前は天性のものだった。一度漁に出かければ、一家が半年間食べるのに困らない成果を上げたのだ。

彼が海の中に古代を見るのは必然だった。太陽に当たるときらきらと光る魚の鱗や貝の渦巻きの規則性に魅せられた。海は、彼を永遠に飽きさせることはなかった。幼い頃の考古学への憧れは、海での生活で満たされていた。

ある日、彼がいつものように漁に出かけ、採れた魚を仕分けていると、泥の塊の中に、1センチほどの白色に鈍く光る物体に見つけた。最初、それは貝殻のように見えたが、本能のようなものが、その光の正体を突き止めたいと強く願った。彼は塊ごと白い光を拾い上げて、家に持ち帰り、夢中になって泥を落としていった。時間をかけて汚れを磨いていくと、やがて、白い光の輪郭があらわになった。それは、貝殻でななく、男の横顔が掘り上げられたカメオだった。ついに全ての汚れを落としきった時に、彼は気がついた。カメオはマンゴーの形をしていて、男の横顔は、彼そのものだった。


1-3 The cameo profile of a man in the outline of his country.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?