サビアン小説 1-4

人けのない路地裏に建つ、3階建てのアパートの屋根裏部屋に住む老人は、毎日飽きもせず、小さな窓から外の景色を眺めていた。新月の夜、普段以上に暗闇が立ち込める路地裏では、いつも奇妙なことが起きた。ある日は、目から光線を放つこの辺りで見慣れない黒猫4匹が、パトロールをするみたいに列をなし、四方八方に光を放っていた。またある日は、象の大群が路地裏を埋め尽くし、お互いの体を擦り付けあって、今晩食べる晩御飯についてひそひそ話をしていた。

とある真冬の新月の夜には、雨の降りしきるなか、一組の人間が路地裏に迷い込んだ。二人は傘もささずに、歩いていた。そして驚くべきことに、二人とも靴を履いておらず、裸足だった。老人は二人の姿に釘付けになった。歩幅は異常に遅く、時間が止まってしまったかのようだった。小さい方は、大きい方の歩幅に合わせ、左脚、右脚、とゆっくりと歩を進めた。老人は、二人は間違いなく恋人同士だと感じた。永遠のように感じられる夜、老人はずっと二人の姿を眺めていたいと思った。

路地裏の真ん中を少し過ぎた頃、小さい方がポケットから煙草を取り出し、ライターの火を付けた。小さい方が煙草を吸い始めると、突然、大きい方は老人には理解ができない言語で何か声を発した。口論めいた二人の応酬の後、大きい方は足速に路地裏を走り抜けた。ひとり取り残された小さい方は、路地裏の真ん中に立ち止まったまま、美味しそうに煙草を吸い終えた。そしておもむろに、老人のいる屋根裏の方に視線を上げた。老人はぎくりとした。ずっと見ていたことがばれてしまったと思った。すると、まもなく小さい方は路地裏から姿を眩まし、見えなくなった。固唾を飲んでその一部始終を見終えた老人は、いつものように眠る支度を始めた。


1-4 Two lovers strolling through a secluded walk.

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