小説「時給300円の死神」よがり論

時給300円って、労基違法にもほどがある。というのが最初の感想。

並んでいたのは文庫本のおすすめコーナーで、ランキングはTOP10入り。
何位だったかは忘れたけれど、7位とかその辺りだったと思う。
ちなみに1位は「フーガはユーガ」で、以前によがり論でも紹介した伊坂幸太郎先生の作品だった。

私がその名も知らない作家の本に惹かれたのは、ランキングのせいもあるけれど「時給」と「死神」というワードだった。

死神と聞けば死の使い、または恐ろしい存在。それが時給300円で活動していると知れば、興味が湧くのは必然だろう。
そんなこんなで「時給300円の死神」を手に取ったのがきっかけだった。

内容はなんてことない青春ストーリー。
そこに死神という存在がいて、人間の暗を炙り出す。
そしてそこから「時給ではない大切なものを学ぶ」といったハートフルな物語。

この小説で面白いのが、さまざまな登場人物が私たちの身代わりの様に身の丈を語ってくれるという点。
けっして他人事ではない身近さを感じさせるスリル。

余談だが、伊坂幸太郎先生のシリーズ「死神の精度」が私は大好きだ。
ここに出てくる死神は、デスノートのリュークに似ていて快活なのが特徴。
全シリーズを読破した。

「時給300円の死神」に出てくる死神は可愛い。
そして人間味がある。
その理由は読めば分かる。

人は死にたいと思うものの、いざ死ぬとどうして良いのか分からなくなるし、後悔がつきまとう。
「死ぬ」という行為を軽んじている者もいれば、忌み嫌う者もいる。
どんな気持ちにしろ、いずれは死ぬ。
死ぬこと以外確かなことはない。

死んでから後悔が残っている者はどうすれば良いのか。
この小説では、生きている間に残してきた心を回収する。
後ろ髪引かれる思いが無くなれば成仏できる。そう考える。
しかし中には頑固な者もいる。成仏したくないのだ。

現世と同じように、死後の世界でもさまざまな人間がいる。
死んだことを認めたくない者、死んで現世にとどまりたい者、早く成仏したいけれどできない者。
多種多様で、現代風に言えばダイバーシティ。

死とは突発的に起こる。
狙って起こる場合もあるが、おおかた突発的であるだろう。
だからこそ心の準備ができない。
気付いたら死んでいるのだから、たまったもんじゃない。

死んで後悔しないためにも、日頃から後腐れのない生き方をするのが良い。
さまざまな問題の中で、ひとえに「死んでしまえばチャラになる」といったスタンスで生きるのではなく、日々小さな困難、問題を蔑ろにしないよう生きるのが得策だ。

全て計画通りにいかない。それでも対抗することはできる。
疲れるかも知れないし、徒労に終わることもある。
それでも「気になること」を後回しにすればするほど気掛かりになる。

成功やステップアップだけが人生ではない。
小さなことに向き合うことも、人生ではないか。小さくて言葉にできない、複雑で説明しにくい、こういったことに自分なりの答えと実行をすることで「自分だけの人生」が開くのではないか。

以上、「時給300円の死神 著者:藤まる」を読んだ、よがり論でした。

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