絵本『かすがいサボテンのおはなし』での 挑戦
わたしの暮らす、愛知県春日井市は、実生サボテン(みしょう。タネから育てるという意味です)の生産日本一と言われている街です。
この度、春日井市観光コンベンション協会さんからのご依頼で、サボテンの絵本を作りました。
春日井市のキャッチコピーは
『子はかすがい 子育ては 春日井』
なのですが、取材をしてみて、サボテンが、たくさんの手間ひまと、時間、人の手をかけて成長していくのが、子育てに通じる部分があるなあと感じて
『実生栽培』(サボテンの成長過程)というところにスポットライトを当ててつくったお話です。
主人公のサボテン、ひかだまぼうやが、長老のきんしゃちじいさんに、どんなふうにサボテンがタネから育ってきたのか、じいさんの幼少期を一緒に振り返りながら教えてもらいます。
2022年4月14日 中日新聞さん朝刊(春日井市近郊版)にもそのことを掲載いただきました。(SNS許可済)
わたしは小学校の頃から春日井市に住んでいて(進学や留学で時々離れてますが)、伊勢湾台風をきっかけに、サボテン作りが春日井市で本格的に始まったというのは、なんとなく知っていた程度。
小中学生の頃、何度かサボテンを育てようと試みるも枯らし(多分あれは水のやり過ぎ)それ以降ほとんど関わりを持ってこなかったので、
「実生って何?」
「どうやってタネから育ててるの?」
とか、素朴な疑問は、いっぱいありました。
(余談:最終的にはこの絵本づくりをきっかけに、サボテン、めちゃくちゃすごいやん…!と、人に勧めまくるくらいのサボテンファンになってしまったのですが笑)
●コンベンション協会さんからのリクエスト
未就学児(5歳くらい)を対象にしたもの
春日井でのサボテンの歴史と実生について盛り込んでほしい
市民を巻き込んでつくってほしい
を受けて、サボテン農家さんや、サボテン商品を取り扱うお店などにも足繁く通い、2020年から絵本に使えそうなサボテン写真撮影を始め、(正式には2021年から)サボテン絵本づくりが始まったのでした。
あと、春日井市は食べるサボテンにも力を入れていて、給食にもサボテンが出るんです!(しかーし、わたしの子どもの頃はなかった笑)
ですので、本文のおはなしの他にも、コラムのページで、食べるサボテンの紹介もしていたり、サボテンのトゲがあるひみつを紹介していたりします。
また、監修をしてくださった名城大学 小原章裕先生の、サボテンの栄養についてのお話や、中部大学 堀部貴紀先生の、歴史についてのおはなしもあります。
巻末には春日井サボテンMAPもあり(ここのMAPイラストは、ブックデザインも手がけてくださったアンドエイトさん所属のイラストレーター、大石百合子さん)、絵本を読んだ後で、実際に子どもたちがサボテンのある場所に、足を運んでもらえたらいいなと思います。
2022年4月17日付の中日新聞さん朝刊『この人』でもご紹介いただきました。(SNS許可済)
この写真を撮影してもらった時は、まだラフの段階…ひいひい言ってうんうん唸っていました(笑)
今回の絵本づくりでは、
『市民を巻き込む』
というリクエストもいただいていたので、
取材(サボテン農園さんやサボテン商品を取り扱う小売店さん&大学などへの取材、聞き取り)
第1回絵本検討(読み聞かせボランティアさんや保育士さんたちからの意見を伺う&親子に絵本読み聞かせ)
第2回絵本検討(書き直したラフで、保育園での子どもたちに先生方に読み聞かせしてもらう&保育士さんへの聞き取り)
第3回絵本検討(更に書き直したラフを、第1回2回でご参加してくださった方々に郵送し意見を頂戴する)
ミニサボテンフェアで絵本お披露目会&トーク(絵本の制作過程などを紹介)
なども行われました。取材や検討会の様子は春日井市観光コンベンション協会さんのHP他、公式インスタグラムでもご覧ください。
…と、ここまで紹介してきて、サボテン農家さんはもちろん、保育士さんやボランティアさん、子育て支援団体の方々、子どもたち、編集者さん、監修の先生、ブックデザイナーさんなどなど、たくさんの方々のお力添えで絵本が出来上がったことを、ご理解いただけたでしょうか。
絵本『かすがいサボテンのおはなし』を完成させるまでに(正確には絵本が完成し、自分の手から離れた後も)、個人的なテーマにしていたことの1つが、
”レッジョ・エミリア・アプローチを、まずは自分自身で実践してみて、春日井市の子どもたちにも展開していけないか”
ということでした。
作絵でわたしの名前は代表として出てはいますが、この絵本は、わたし1人の力ではとても生み出せなかった、みんなで作り上げた、
共同プロジェクト型学習の一例
としても、提示したかったんです。
レッジョ・エミリア・アプローチは芸術教育とも言われています。
簡単に自分なりの理解を説明すると、
共同プロジェクトなどを取り入れ、
子どもの主体性を大切にし、
子どもとの対話を大切にし、
共に学ぶ姿勢をもち、
子どもの創造性や表現力を引き出していこうという姿勢、
それから、さまざまな人が関わりをもって、一緒に子どもたちを育てていこうとする教育アプローチ
のことです。
わかりやすい方法があるわけではないから、わたしも目下、勉強中のことばかりです。
けれど中学の美術教育や特別支援教育から、自身で子どもをもつ機会を持ち、日本デザイナー芸術学院での保育コースの仕事をきっかけに、幼児教育にも学びを広げて知った、イタリアの、レッジョ・エミリア市。
街ぐるみで子どもを育てる、というコンセプトで、
『子はかすがい、子育ては春日井』
をうたう、我が街、春日井市での絵本づくりに応用してみるのに、ぴったりだと思いました。
街で、どんな子どもたちがこれから育っていくかというのは、シングルの人にも、夫婦2人暮らしの人にも、もう自分の子どもの手が離れた人にとっても、どんな人を教え、共に働き、そしていつか、自分の体が思うように動かなくなったとき、誰にお世話になるかを考える上でも、自分ごとの、大切な問題のはずです。
けれど”子育て”という言葉が、子どもをもつ家庭、その保護者だけを対象にした、なんだかせまい範囲でとらえられている気がしていて、それを、この絵本をきっかけに、
『まち全体で、子どもたちを育てる』
という意識に、もう少し変えていくことはできないかな?と思ったのです。
今、早期教育は今まで以上に熱を帯びていて、教育業界のターゲット層もどんどん低年齢化しています。やれ探求学習だ、論理的思考を育もう、課題解決能力が大事だ、などと言われていたりしています。
教員や保護者や大人たちは、わたしも含め、自分たちは受けてこなかった、経験してこなかったことを、子どもたちにどんどんやらせようとしています。
またその一方、学校に行かない選択をしたり、療育の支援を求めたりする子どもたちに対して、適切な情報提供や相談場所、連携が各セクションでスムースにいかず、親御さん(特にお母さん)にばかり、とても過剰な負担がいっていたり…
子どもたちの多様なニーズに、既存の教育では対応しきれなくなっているのは目に見えているのに、社会の変化はどんどんスピーディになっていくのに、教育現場が、望むような形では、追いついていない。
そのことには、教育の端くれで考え、実践してきた人間として、自戒を込めて、すごく危機感を持たないといけないと思っています。
社会は以前より、より複雑に、そしてより、高度な課題を解決することが求められていく中で、自分の子ども含め、子どもたちはその中を生き抜いていく力を身につけなければいけません。
しかし、わたしたち大人自身を、振り返ってみれば、たくさんの情報の波に溺れ、反射的に反応し、他人の言動に一喜一憂し、無意識のうちに
「わかりやすいもの」
「すぐ目先の”お得”や、自分だけの利益になること」
についつい飛びついては、いないでしょうか…?(激しく、自戒の意を込めて….)
「子どもたちに向けた取り組みを、まず自分自身が実際にやってみせる。」
1つのテーマ(今回の場合はサボテン)を深く掘り下げて、リサーチし、周りの声を聞き、さまざまな人たちから学び、意見を取り入れ、その過程を写真で記録し、思いや考えを発信し、絵本という、1つの形にまとめ上げる。
大人たちが協力して奮闘し、試行錯誤しながら、1つのものを作り上げていく姿を見せる。
大人たちが何かを学び、失敗にへこたれず、楽しそうにしている姿を見せれば、子どもたちに「あれしなさい」「これしなさい」と口で言うことよりも、うんと子どもたちの行動するきっかけを、引き出すことができる。
それが、たくさんの失敗や後悔の中からわたしがたどり着いた思いです。
今回の春日井サボテンの絵本づくりは、
高校生の頃、いつか絵本を描く人になりたいと思って、
その道の途中で”美術教育”や”特別支援教育”というものに出会って、
そのおもしろさと奥深さを知り、生徒や学生たちから学ぶ機会をもらって、
教育こそ、何よりも、よりよい未来をつくって上で大切だ
という思いに至ったわたしにとって、大きな挑戦だったんです。
そして春日井市では、16年ぶりに市長が変わる市長選が、5月22日にあります。
色々な方々が、勉強会なども開催されていて、とても刺激になります。
選挙も、めちゃくちゃ、大事…!
『街ぐるみで、子どもたちを育てる』
もっとそんな街になるように、わたしはわたしのいる場所で、わたしにできそうなところから、コツコツ、長い目でみて取り組んでいきたいです。
それが、公教育の現場からは、はみ出してしまった自分なりの、教育活動の一環でもあると、思っています。
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