家を買う(10) その物件に出会ったときのこと
【今回関わる人】
古路さん・・・中古マンション仲介やリノベーションをまるっと面倒見てくれる「すまいクリエイト」の営業担当。笑顔。
※企業名・個人名はすべて仮名です。
2019年になり、物件探しを再開して間もなく、古路さんから「迷子さんにぴったりの物件を見つけました!」という連絡があったので見に行くことに。
現地に向かう車中で物件の詳細が記された書類を渡されるのだけど、それを見て「えっ? これがわたしにぴったりの物件?」と首をかしげてしまった。事前に伝えていた「住みたいエリア候補」に引っかかりもしないエリアだったから。
案内されたのは最寄り駅から徒歩15分、8階建てのマンションの低層階だ。駅からの距離は問題ない。「多少は歩けるし、歩かんと足腰が弱る」と伝えて少しでも安いところを探してもらってたから。
外観は新しくはないが汚くもない。管理人は日勤、オートロックはなし。部屋はもともとの間取りが3LDK。
玄関ドアを開けて、部屋に上がり込んで驚いた。そこには前の主の荷物が、まるで昨日までそこにいたかのように置きっぱなしだったから。
賃貸のときも含めて「荷物が入りっぱなしの部屋」に案内されたのは初めてだった。中古の分譲ではよくあるケースなんだろうか。家具も全てそのままだから、広さがよくわからない。
リビングには大きな食器棚が2つ、中にはたくさんの食器、壁際にテレビと古い石油ストーブ。すぐ隣の和室には古いオーディオセット、棚に飾られた数枚のレコード。玄関から入ってすぐの部屋にはベッド。なんと言うか、実家とか祖父母の家みたいな懐かしい感じ。
生活感がそのまんまで、敏感な人なら「オーナーが亡くなってすぐの部屋なのでは?」と疑うところだ。念の為聞いてみたけど、いわゆる「事故物件」ではないとのこと。それならばとわたしはそれ以上の仔細を訊ねるのはやめた。そもそも事故物件だとしたら物件の書類にそう載るはずだし。
そんなことより、わたしはそのとき湧いた不思議な感情にびっくりしていた。
わたしは、この物件に置きっぱになってた家財を見て、ちょっと楽しい気分になってしまっていた。住人の使っていたものにはその人となりが出る。それを推測して楽しんでた。
家具は古いものばかりだったからご年配の方なんだと思う。ベッドは1つだったけど、布団はすぐ敷けるものが二組はあったから、複数人で暮らしていたかもしれない。
そうしているうちにわたしの胸の内にはさらなる不思議な感情が湧いた。「なんとしてもこの物件を手に入れて、大事に使ってあげなければ」と。ふだんはそんな感情的なことで行動しないんだけど、なぜかこのときは妙な使命感にとらわれてしまったのだ。
もちろん、その感情だけで購入は決められないので、物件の詳細について改めて古路さんから説明を受けた。価格は720万、築年数は38年、ギリギリ新耐震基準にひっかからない。修繕積立金や管理費は安すぎず高すぎず。修繕記録も手に入って、どこを直しているか、怪しい修繕がないかどうかも確認できた。
築年数を考えると減税や給付金の類はまず受けられない。だけど、内壁は全て抜くことが可能だし、広さもちょうどいい。管理もしっかりしているように思う。
結局この日に結論を出すのはやめにして、過去に見て気になってた物件をもう一度見て、それでどちらかに決めることにした。そして後日、山の見える物件を再び内見して、新しく紹介された方の物件に決めた。
決め手となったのは共用部分のきれいさと築年数かな。減税を受けられないのはどっちも一緒だけど、少しでも新しいほう。あとはマンションの空室の割合も少ない方。山の見える物件は空室の数が多かった。いっぱい空いてるってことは何か問題がありそう。正直もっと見たり考えたりする時間があればという思いはあったけど、それを言い出したらきりがないと思った。わたしにはリミットがある。
と言う訳で、すぐに申込みを入れてもらって、翌日には無事申込みが完了したとの連絡が。ついにマンションを決めてしまった。探し始めてわずか3ヶ月だ。そして、ここからがまた大変だった。
続く。
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