困惑タクシー

　25時。会社の戸締りをして国道沿いに立つ。地下鉄はとっくに終了している時刻で、帰宅する方法は徒歩かタクシーしかない。しかたなく1台のタクシーを止める。

「どちらまで？」と聞かれ、自宅の住所を伝える。するとドライバーはこうわたしに聞くのだ。

「どのルートで行きますか？」

　これがあるからタクシーは苦手だ。わたしは道を説明できないのでそんなこと聞かれても困ってしまう。

　どうして彼らは、乗せた客が道を知っているものだと思っているのか。むしろ、道を知らないからプロにまかせているのであって。どのルートでとか言われてもわかるわけがない。わたしは普段車で街をかけずりまわったりしないから地図なんて頭に入ってはいないのだ。

　そんなこと聞かなくても最短ルートで、混雑時には迂回路で、特別急いでるのでなければ安全運転でってのがドライバーの仕事ではないのか。どうしても通りたい道がある客なら運転手が聞くまでもなく自分から言うだろう。

　困ったわたしは「えーと・・・」と言葉につまる。するとドライバーは次に噛み砕いた表現でこう聞く。

「○○通りを通るか、××橋を越えるか、どうしますか？」

　いやいやどっちも知らんわ！ふつうの客はここでするっと「○○通りで(ｷﾘｯ)」とか言えるのか。ならわたしは世間知らずで恥ずかしいってことになるのか。実際すごく恥ずかしいわ。

　もうどうしようもないので恥を忍んで「あの・・・道の説明はできないのでお任せします。どのルートでも構いません」と伝える。それでようやっとタクシーは目的地へ向かってくれるのだ。

　こんなんだから、タクシーに乗るってことはわたしにとって結構なストレスになっていたりする。

　しかし、それはまだ序の口だったのだ。この間とんでもないタクシーに当たってしまった。

　その日は、朝どうにも身体がだるく、徒歩と地下鉄で通勤する元気がなかったので、やむなく自宅の近くでタクシーを拾った。乗り込んで、行き先として会社のそばの地下鉄駅を伝えると、こともあろうにドライバーがこう言った。

「道がわからないので教えてもらえますか？」

　なんだってェー？　

　聞けば、まだタクシー会社に入りたてなのだと言う。それならしょうがないか…ってならないよね？道わからないのにタクシー運転しちゃダメでしょ！

　普通の人なら怒ってタクシー会社に苦情を入れそうなものだが、わたしは仏。そのまま降りて別のタクシーをつかまえるなんて非情なこともできなくて、そのまま彼に会社の最寄り駅前までのせてもらうことになった。

　そのあとは…まあ酷いよ。地下鉄の駅の場所すらわからない運転手と、道の説明が全くできない客なんだから、遠回りになったよね。料金もたびたびタクシーを使うときに比べて1割ほど高いよね。

　タクシードライバーって、道がわからなくても勤まるのか。ならわたしもドライバーになろうかな。

　そこのアナタ、わたしの運転するタクシーに乗ってみませんか？安全運転のゴールドドライバーですけど、最近、自分の方向音痴を再認識しているところなんですよね。お客さんに道を聞くようなまねはしませんけど、何時間かかるか・・・時間の保証はできかねます(笑)