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ことばは変身する

 この間「したっけ」というタイトルの短編集を引っ提げて文学フリマに出店したのだけど、そのときふらーっと現れたおじさんにこう聞かれた。

「したっけって方言?何て意味だっけ?」

 よし来た。その質問待ってた。このことば、わたしは北海道の方言のなかでもいちばん好きなことばなんだ。

「したっけってのは汎用性の高いことばで、そうしたら、とか、だったらって意味合いでも使いますけど、じゃあねって感じでお別れの挨拶にも使いますよ~」って得意になって答えた。

 そしたらそのおじさん、「ええ?挨拶なんかで使ったかなあ。それって若い人だけの使い方じゃないの?」って言い出した。

 いや、わたしはそんな若くな…まあ、そのおじさんに比べたら若いのか。でもしたっけってことば、わたしは小さい頃から挨拶に使っていたけどなあ。

「俺は挨拶で使ったことないよ」とおじさん。
「わたしたちは使ってましたけどね~」とわたし。 お互い穏やかに話してはいても、頑として譲らない姿勢だ。だけど、次の一発はキツかった。
 
「そーう?挨拶で使うなんて聞いたことないけどね。やっぱり若い人のアレなんじゃない?」

 悪気はないのかもしれないけど、まるで「ことばの意味も知らない若造が」って言われてる気になっちゃったんだよ。わたしも人間出来てないもんで、正直ちょっと…いや、だいぶかな、イラっと来てしまったよ。

 幸い、そのすぐあとに別に本を買いたいってお客さんが来てくれたことでそのおじさんとの会話は途切れたんだけどさ、なんだよ気分悪いって思ったんだけど、あのね、あの「ことばの意味も知らない若造が」って態度で「それは本来こういう意味なんだよ」って言うの、言ってるほうは気持ちいいんだよね。

 過去わたしだって、それこそことばを知らん若造に一言言ってやったことだってある。得意になって。

 でもさ、言葉の意味って変わるんだよね。ある言葉をさ、若い人が違う意味で使うようになったとして、それが本来の意味とだいぶニュアンスが違ったとしても、それが定着してしまえば、そしてそのまま長い時間が経てばその意味だって辞書に載る。

 ならば、本来はこうなんだよって言うことってなんの意味もないことなのかもしれない。

 わたしもだんだん「最近の若いもんは…」などと眉をひそめる年代に差し掛かってきたので、気持ちよさから「それ間違ってる」と言わないで、変化を認める柔軟さを持っていたいと思う。

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