働くことで削られている

 朝、急がなくては会社に遅刻してしまうのに新雪に足をとられて思うように進めない。後ろから誰かが「追い越し」をしたがっている足音がするけど道を譲るほどの広さもない。両側がよけられた雪の山だ。

 きっと今、しびれを切らした後ろの人が、無理やり追い越しをかけてきたらわたしは避けられず体がぶつかって派手に倒れるだろう。そして糸が切れたように大声で泣いてしまうだろう。

 「会社に行きたくない」という気持ちと「会社に遅刻してまう」という気持ちがぶつかって炸裂してしまうと思った。限界だった。

 自分が勤めている会社はいわゆる「ブラック企業」ではないと思っていたし、公言もしていた。だって、まわりを見ればもっと酷い労働環境はいっぱいあるからだ。

 介護士や保育士の知り合いがいるけど、きつい仕事であることが容易に想像できるし、必要不可欠である職種にも関わらず、給料がすごく安いんだと聞いたことがある。失礼ながら実際どのくらいもらっているのか聞いたらば、それはこれまで自分が思っていたよりずっと低いものだった。

 同業他社の知り合いからは「残業代は出ない」「ボーナスなんてない」「そもそも給料安い」という愚痴を山ほど聞いた。

 比べると、わたしの場合は残業代きちんと出るし、ボーナスだって出てる。給料もまあ安くはないとは思う。この境遇だと、とても「彼ら」の前で会社の愚痴など言えないのだ。ウチはまだましだ。と思って我慢するしかない。

 だけど、その我慢がだんだん利かなくなってきている。支払われるべきものがきちんと支払われていてもウチは人手が足りず、残業時間がばかに多い。有給は制度としては認められていても、実際に使うことなんてできない。実際わたしは一昨年くらいに「過労死ライン」を超える残業をしたのに、それが会社で問題とされることはなかった。誰も何も言わないのだろうか。

 昨年、辞めたいと上司に言ったが辞めさせてはもらえなかった。確かにわたしはやや長く勤めすぎて、責任を抱えすぎてしまったので辞めることは容易じゃない。代わりを雇ってほしいと訴えるもぜんぜん動く様子はない。愚かにもわたしは「どうやったら会社をクビになれるか」を考えるようになってしまった。

 こんな感情を持ってしまって、それでもなお「ウチはブラックじゃない」と言い切れるだろうか?わたしにとってはもう残業代が出ているとか、ボーナスが出ているとかは「会社に残る理由」ではなくなっている。なんなら金払ってでも辞めたいという精神状態だ。もちろん気分には波があるから、今日はこうして文章に出来ているだけ「大丈夫」な状態なんだろうけど。

 わたしは、わたしの中で今の状態は「ブラック」であると認定することにした。下には下がいると思ったら、自分の状態を見落としてしまう。他人がどう思おうと「自分がどう感じているか」をもっと見てあげなきゃいけないな、と思った。なぜなら自分を守れるのは自分しかいない。

 もうやめたいのだ。眠れない夜にスマホで「ストレス度チェック」や「うつテスト」をハシゴして、とんでもないスコアを出したことに満足したりするのは。そんなことは何も生み出さないし、自分を慰めもしない。

 ほんとうにきついと思ったら辞める。

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