私の読書遍歴⑤ 解放期(現在)
私の読書遍歴は中盤まで、おもにフィクションによって彩られてきた。ノンフィクションも読まないわけではなかったが、圧倒的にその割合は少なかった。
しかし、ここ数年は違う。積極的に小説以外の本も読むようにしているのだ。
小説好きがノンフィクションを読む理由
平たく言うと、ジャンルの違う本を読んで視野を広げたほうが、自分の好きな小説をもっともっと味わえるのではないかと思ったからだ。
小説を読むということは、自分の宝物を探すことであり、小説以外の本を読むことは、宝物を探すための道具を集めることだと思う。
一つのシャベルしか持っていなければ、いつも同じ掘り方しかできない。
というわけで、意図的に興味のなかったジャンルの本を読み始めた私が、「自分には無い視点」だと感じた小説以外の本を挙げてみる。
一冊目は、エッセイと呼んでよいのか、韻律を持たない詩という意味では散文と呼んでよいのか、難しい作品。
前書きによると、この本は著者が二十代で出会ったという「忘れがたい断片たち」に「知見」と名付け、綴ったものだとのこと。
たしかに「断片」とは言い得て妙で、「二十代でしておくべきことや学んでおくべきこと」を体系立てて説明したような、教科書的な本では全くない。それどころか、「20代ってそうだよな」と感傷にひたる類の本でもなかった。少なくとも私にとっては。
それでも、そんな表現しがたい不思議な読物が、なんとなく今でも心に引っかかっている。
衝動的ではなく日常的な「死にたい気持ち」というものがあること、そしてそれを「飼い慣らして」生きるということを、この本で知った。
共感できなくても、知ることができてよかったということが、世の中にはある。
二冊目は、読者の共感というところからは一番遠いところにいる類の本。
「バカと無知」という本だ。
本著では、キャンセルカルチャーなどの現代日本の風潮を、科学的見地に基づいて読み解いているのだけれど、見事なまでに「それを言っちゃおしまい」のオンパレード。
ゆえに著者の本は「救いがない」と評されることもある。
それでも私自身は、この本を読んでみてよかったと思う。
哲学者ニーチェが「この世に事実はない。解釈があるだけ」と言ったけれど、この言葉に対する腹落ち感が「バカと無知」を読む前と後では全く変わってくる。
三冊目はもう少し前向きなところで、前アップル日本法人代表が「セルフ・イノベーションの方法」について綴った本。
著者は日本でiPod miniを大ヒットさせた仕掛け人だそうだが、それよりもまず、この本の冒頭で語られる、「直々にスティーブ・ジョブズの面接を受けた」というエピソードが強すぎる。
この著者のすごいところは、スティーブとの面接の最後に「一緒に写真を撮ってほしい」とリクエストしたところ。最終面接でCEOにこれを切り出せるのがすごい。
その時は「お前が入社できたら撮ってやる」とスティーブに軽くあしらわれたそうだが、実際に入社に至った著者が「約束だろ、一緒に撮ってよ」とせがむと、スティーブは肩を並べて記念撮影してくれたという。映画か! と突っ込みたくなるようなエピソードだ。
そんな肩書も度胸もぶっ飛んだ人の話を聞く機会なんて、現実社会ではそうそうない。
それが1000円ちょっとで売られているのだから、本ってすごい。
大人になると価値観も倫理観も凝り固まってくる。
自分ではフラットなつもりでいても、いつのまにか視点にバイアスがかかっている。
見たくないものは見ず、知りたくないものは知ろうとしないからだ。
自分の心を慰めてくれるもの、自分が迷いなく相槌をうてるものばかりをコレクションして、それらを消費してしまう。
この傾向は読書に限ったことではなくて、人間関係にも言えることだ。
「あなたの周りの5人の平均があなた」と、アメリカの起業家ジム・ローンも言っている。
それの何が悪いのかと言えば、何ひとつ悪くない。
ただなんとなく、自分のそういった傾向に、私が逆らってみたくなっただけのことだ。
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