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鴻上尚史著「演技と演出のレッスン」について Vol.1

もう一冊「発声と身体のレッスン」も買ってあるのですが、なんとなくこっちから読み始めました。私の勉強スタイルは、とりあえず片足は何も考えずに突っ込んで後から細かく詰めて両足突っ込む、みたいな感じです。
前置きはこれくらいで充分。まずは、
唐十郎さんのご冥福をお祈り申し上げます。


はじめに

著者の「俳優の仕事とは」という問に対する答えは、三谷一夫さんと似たような感じのようです。作者の言葉を伝える仕事と表されています。
「作者の言葉」の伝え方は、もちろん、たったひとつではない。だから「作者の言葉」も「伝え方」も多種多様である。そして、ちゃんと伝えるためには技術が必要である。
とのこと。
付け加えると、感情が動かないで台詞を言うことば演技ではないが、カメラ(観客)の前で本当に感情が動くことは不自然、この不自然を乗り越えることが技術である。

実際に使われている言葉がごちゃごちゃしていて不便なのは歴史に由来しているらしく、だから台本とか脚本とか……なるほど(察)
もちろん演技というものにも歴史があり、この本ではロシアのスタニスラフキーさんがつくった訓練方法、その名もスタニスラフキー・システム(そのまんまで分かりやすい笑)と、それに著者の演技・演出論を足して、説明されています。スタニスラフキー・システムを基にしているのは、それが最も汎用性が高いからだそうです。

鴻上さん曰く、演技において否定してはいけないものは「正しい発声とは?」の考え方とスタニスラフキー・システムの2つである、と。
ここで私は、発声練習をやってから劇の練習に移る、発声練習の曲を歌ってから本命の曲を歌う、というように基礎練はいつもやるものなので、まず2冊しっかり読んでから1個ずつ実行に移していくことに決めました。

ただし、演技の歴史上、スタニスラフキーさんは新劇、鴻上さんは小劇場演劇の時代の方。スタニスラフキー・システムと「正しい発声とは?」の考え方が長年無視されていたことに疑問を持った鴻上さんは「発声と身体のレッスン」において後者の見直しを提案されたそうです。そして今度は前者についての本を書くことにした、それこそ今読んでいるものです。
なぜこの2つが無視されてきたかというと、唐十郎さんや寺山修司さんが有名なアングラ演劇(新劇と小劇場演劇の間の時代)が新劇をめちゃくちゃに否定したから。新劇は既に否定されていたから、小劇場演劇に2つは受け継がれていない。
おや、つまり、もし唐十郎さんたちがいなかったら今の小劇場演劇はなかったということ、鴻上さんの本は存在しなかった……

次から具体的な説明です。

後期のスタニスラフキー・システム

常に自意識が演技にブレーキをかける、自分を批判する。しかし自意識を失くすことはできない。じゃあ、自意識をうまくコントロールして自分を見守るように変えればいい。
※自己意識(自意識)とは――
外界ではなく自分自身に向けられる意識のこと。自分への関心。自分についての意識、心がけ、それによる自分への評価

なんか心当たりがあるな……
うまくやらなくちゃ、と考えながら演奏すると緊張しっぱなしで全然弾けないけど「やるしかない!」とか「やってやるぜ!」だとうまくいく、あ、かつて楽器で舞台に立った時の話です。ただし、やるしかないと言ったって練習してなければやれるわけないし、やってやるぜでも同様、思考が邪魔してくる。つまり練習が必要不可欠、逆に練習(&当日の調整)をちゃんとやっておくと上手い具合に良い気分で演奏できる、肝心の練習は全然楽しくないが。

自意識をコントロールする方法は3つある。

集中の輪

①第一の輪
→輪の中にいるのは自分だけで。周りは暗闇のようになっている。例えば電車の中でスマホに夢中になって、ニヤニヤニタニタ、クスクス笑っている時。
②第二の輪
→視界が広がり、いろんなものを意識するようになる。例えば隣に座っている乗客(自分はこの人の後に座った)が明らかに自分を警戒していることを察して全力でニヤニヤを抑える時。
③第三の輪
→目に見える範囲すべて。例えば、今いる駅を把握しようとしてパッと顔を上げたら警戒しているお隣さん以外誰もいなくなっていてスマホをやめる。
※例は、よくあること(私にとっては)を使って私が創ったものです。
・実生活で3つの輪を意識する。
公衆の孤独
→大勢に見られてながらにして集中し、第一の輪の中に入って安心することで、不安や集中の乱れを取り除く。これが1つ目の方法である。公衆の孤独とは、大勢に見られているけど自分は第一の輪の中にいる孤独な状態であること。

与えられた状況

俳優は、自分の役および自分の役が生きる背景について、みずから調査し想像する必要がある。シナリオ・台本・戯曲は骨組みを書いているだけであり、小説のように細かい描写はない。

小説も、いつも何から何まで全部描写するわけじゃないのでは……?
まあいいや、次行こう。

俳優は、監督や演出家の判断と自分の意見で、書かれていない部分を埋めていく。この時、書いてあることとの矛盾が生じてはいけない。具体的には以下の「4つのW」について鮮明に考えること。これが自意識をコントロールする2つ目の方法である。
・誰が who
・いつ when
・どこで where
・何を what
演じる時、明確なイメージを持って言葉を発することで、自意識が弱まり、また演技が生き生きしたものになる。

演技には正当性がなければならない。与えられた状況の中で、人が実際にすることをしなければならない。この時に役に立つのが「魔法の『もし』」である。もし、この与えらえた状況の中で、この役なら、何をするだろうか。もし、自分が役と同じ状況なら、自分はどうするだろうか。演技の根本に置くべきは「あなたはどうするのか?」である。

具体的には、「そんなバカな!」という台本をもらった時、本当に「そんなバカな!」と突っ込むのではなく、もし自分がこの人だったらどうする? と考える。
あぁ、なんか「大病院占拠」を思い出したわ、これは視聴者でも同じですね。

目的・行動・障害

俳優は、役の目的を明確にすることが大切である。
役は過去から、動機(これは演じることができない)から、押された存在ではなく、未来から、目的から、引っ張られている存在であると捉える。「なぜ?」と原因を考えるのではなく「何のために?」と目的を探す。この目的は具体的でなければならない。具体的だとしても、否定的なものは実行できない。実行することで、つまり行動することで、演技が生き生きしたものになる。

目的の実現をじゃまする障害がある。何の問題もなく簡単に実現したら、作品が面白くないからである。
目的と障害はワンセットである。大きな目的(抽象的な目的)の中に小さな目的(具体的な目的)と障害がある。役は、小さな目的とその障害を次々に変え、行動し、かつ全体としての大きな目的を一貫して持っている。目的が変われば、障害が変われば、役の気持ちは変わる。人物の目的と障害が緊張感のあるワンセットとして成立していると、作品は面白くなる。
目的と障害がちゃんと対立していて、役の気持ちが続き、葛藤している限り物語は続いていく。目的と障害が正しく葛藤することは、自意識をコントロールする3つ目の方法である。
役の目的と障害がセットされていない場合、台本との矛盾が発生しない範囲内で与えられた状況を考え、目的と障害を自分で作り上げる。

以下、目的と行動についてもっと詳しく。

詳説・行動

活動的な目的があれば演技は生き生きしたものになる。生き生きした活動的な目的は、状態ではなく行動で表せる。
目的を実現しようとする時、行動ではなく結果を考えてはならない。状態とはすでに起こったことの結果であり、演じることはできない。その状態になることを求めるのではなく、演じられる行動に変換する。結果を実現する行動を考え、その行動に対する目的を見つけることが必要である。
一般的には、ひとつの目的に対して行動はひとつではない。よって、行動を固定化してはならない。具体的な演じられる行動は、演技の中心で、演技を積み上げていく材料で、演技術の核心である。役を解るためには、目的と障害を分割し、そこに行動を加えると良い。

監督や演出家は、そのシーンで表現したい結果や効果をメインに考えているため、俳優に状態を要求することがある。台本のト書きで状態を求められることも多い。これを実用的なものに変える方法を見つけること。

注意点として、ただの動きと行動は別物であることが挙げられる。目的を持ち、そこに障害があって、2つがぶつかる形で行動が現れる。ただの動きには、これがない。

ここで、私の解釈を付けておくと、
動機・原因、つまり過去
状態・結果、つまり未来
は演じることができないが、○○という目的を果たすために△△という障害を乗り越えようと行動する現在、これは演じられる。

もうひとつの目的

超目的
→役が物語の中で一貫して求めている目的。各シーンで目的・障害・行動が変わっても、小さな(具体的な)目的が変わっても、役には物語全体を貫く超目的が存在する。

作品自体のテーマ・主題も、役に影響を与える。テーマはその物語の解釈であるため、たったひとつの正解というものはない。俳優が役を理解していても監督から違うと言われた場合、作品自体のテーマを誤解しているかもしれない。
通常、テーマは演出家や監督が決める。テーマの発表は、演劇なら最初の本読みの時に演出家が語り、映画やテレビでは事前の本読みの時(メインの役の場合)、衣小/衣裳合わせの時(本読みがない場合)に、監督が語ったり匂わせたりする。本読みも衣小合わせもない場合は、現場でリハーサルを通して伝えられる。


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