透明なわたしたち
別に自分じゃなくても良いじゃん、私がここにいなくても誰も困らないという状態になると、確かにここにいるのに社会の中にはいなくて、透明人間になったみたい。かつては夢を追いかけていたけど、結局自分は社会の歯車になってしまった。歯車にさえなれなかったり、歯車でいることに嫌気がさしたり、理由は人それぞれだけど、ほんのちょっとしたきっかけで零れ落ちるんだよね。
Abemaだけで公開されてましたが、Netflixで世界公開されました。
細かくネタバレし始めるとキリがない作品でした──
チーム曳山。
女子は新聞放送部、男子はダンス部。高校時代、地元のお祭りでできた仲良しグループだが……あれ、6人?
・中川碧(福原遥)
本当は新聞記者になりたかったけど週刊誌のゴシップライターになった。容疑者の元同級生ということで、事件の記事を書くことになる。「言葉の力って、すごいですよね。」
一ノ瀬先輩の言葉「言葉は誰も知らない事実を世の中に存在させることができる」を大事にしている。
・風花(小野花梨)
いつもカメラを回していて東京に憧れていたけど”こんな田舎”で子育て中。田舎者だからって、下に見られていると思っている。私は何者でもない存在。「トモダチ」というアカウントで、根拠もないのに高木くんを犯人とする投稿をして、バズる。
・梨沙(武田玲奈)
女優になりたいけど、うまくいかない。
インスタの投稿は全て偽り。碧からのDMを無視する。
・喜多野(伊藤健太郎)
かなりヤバい仕事をしている。
・高木(倉悠希)
起こした事業が成功して、今や社長になっている。しかし何者かに脅されて、危機に直面している。脅してくる相手は喜多野ではないかと疑う。
・尾関(林裕太)
ダンス部の部室に放火した疑惑あり。もう関わりがない。かつては実家のカフェで、みんなが集まっていた。
地域のお祭りや文化祭。青春時代の──
【花火を見上げて】
あの頃のわたしたちは、何かを掴み取れると信じていた。(その手を伸ばして)
世界が、輝いて見えた。
もしあの時、あなたに気づけていたら。
【渋谷無差別殺傷事件】
結局、何も掴めなかった。
◇ ◇ ◇
以上、虚無感が漂う現在の現実。事件を機に過去を回想し、未来へと動き出す「チーム曳山」の物語。
◇ ◇ ◇
事件をきっかけに、それぞれの過去を思う姿がある。
高校3年の時に起きた、ダンス部の部室放火事件。
【回想】
碧「本人にきいてみよう。まだ喜多野くんが犯人だって、決まったわけやないにんか。」
風花「でもなんて聞くが。碧!でも梨沙の彼氏やよ!?それに友達じゃん。」
碧「だからこそちゃんと調べた方がいいにんか。それに、このまま喜多野くんのこと疑いたくないやろ?」
梨沙「ごめん、うちには無理。」
風花「梨沙、」
梨沙「1人にして。」
(風花のビデオが決め手だった、この頃から記者やドキュメンタリー撮影のようなことをやっていた本気の2人。でも今は……)
~
碧「たぶん、喜多野くんやと思う。」
風花「うーん、でも梨沙の彼氏やよ?それにわたしたちチーム曳山やし。」
碧「でも、わたしたちが隠してしまっていいんかな。それって、ほんとにみんなのためになるんやろか。」
~
碧「先生たちは、これが事故じゃなくて事件やって知っとって隠しとる。」
風花「確かに。」
碧「被害に遭ってる人はたくさんおうに、ほんとにこのままでいいんかな。」
風花「そうやんね。」
(梨沙がやってくる。)
碧「梨沙…!」
風花「大丈夫?」
梨沙「やっぱり書くん?
いいよ。うちも本当のこと知りたいん。」
~
風花「これ、うまくまとまっとるとは思うんやけど、結局、喜多野くんが犯人って思われるだけになっちゃわんかな。」
碧「ちゃんと読んでもらえば分かると思う。喜多野くんが犯人やって、決めつけてるわけやないし、伝えたいんはそこやないから。」
風花「そっか。そうだよね。」
~
碧「これ、発行させてください。」
先生「はぁ……、お前ら(女子3人)なぁ、こないだも出すなと言っただろ。」
碧「でも、わたしたちが記事にしないと、この事件自体なかったことになってしまうんです。」
先生「事件って……。世の中にはな、なかったことにした方がいいこともあるがよ。大人になれば、お前らもわかるちゃ。ほら、いいから帰れ。」
~
新聞が貼られる。それを見た子から。
「めっちゃすごいにんか。警察より先に犯人見つけるなんて。新聞部のフォロワーも増えとるよ。」
喜多野くんが学校に来ない。
碧「あの新聞がなかったら、こんなことにならんかったよね。」
女子生徒「あのう、記事にしてくれてありがとうございました。私たちのこと気にかけてくれて嬉しかったです。」
風花「喜んでくれる人もおる。碧、これで良かったんやて。」
碧「……せやね。」
【現在】
碧「昨日梨沙に、碧変わってないねーって言われて、嬉しかった。だから今回の事件も、わたしだから書けることがあるんじゃないかなって、思ってる。」
あの放火事件の犯人は、碧たちが書いた通りだったのか?
【回想】
高木くんが梨沙を悪く言った。梨沙と付き合っている喜多野くんは高木くんを殴り、その後、高木くんはタバコを吸った。処理が不十分で部室が燃えた。高木くんはかなり酔っていた。
高木「喜多野を犯人にしたのはお前らだ」
【現在】
碧と風花が橋の上で話す。風花は自分がトモダチだと明かす。隣の芝生は青い。
風花「苦しいのは自分だけじゃないってわかった。」
【回想・事件直前】
もうちょっと勇気があれば透明じゃなくなる気がして、と4話ラストの少女。事件前の尾関くんと少女の回想が最初に描かれた。少女は、1話冒頭の飛んだ子・ユリは唯一の友達だったと言う。
喜多野くんがヤバい仕事の現場から逃げ出して倒れていたところに、梨沙が駆けつけてくる。
梨沙「ごめん、あの時信じてあげれんくて。」
卒業式の日、高木は喜多野に「ごめん」とLINEしたけど、喜多野は無視した。
尾関くんと碧がアクリル越しに対話する。
【事件までの尾関くん】
・ダンス部であのメイクの実験台に。楽しかった。その直後を碧がたまたま見かける。何も見なかったかのように立ち去る。
・チーム曳山が結成された花火大会。碧と出会い、好きになる。
・放火事件と碧の新聞により、喜多野くんが学校に来なくなる。その頃母の具合が悪化して初めて、母の病気を知る。
・高卒で運送会社に就職(2017年春)
・インスタを見て碧の大学に行く。楽しそうな姿を見て、何も出来ない。
・母が死んで東京へ行き、バイト生活を始める。コロナの緊急事態宣言の頃。
・ユリの死体に遭遇。
・少女と出会って楽しいひと時。
「うらやましかったんだよね。私にも勇気があれば、透明じゃなくなる気がして。」
・ユリの自殺配信が拡散されていた。コメント欄には肯定的な言葉が並ぶ。
・渋谷にて、スクランブル交差点の真ん中で自殺しようとした。その時、ユリを笑う若い男たちが通りかかる。
尾関くん、男たちを刺す。
【現在】
碧「久しぶりだね。
……
初めて会った日のこと覚えてる?花火、すごい綺麗だったよね。風花、梨沙、喜多野くん、高木くん、尾関くん、私。みんなでチーム曳山やった。でも、それを全部私が壊した。私、なんも見えとらんかった。」
尾関「お前はほんとに、なんも見えとらんよ。あの日、俺もおったんよ。」
※あの日=放火事件の日
尾関「みんな、見たいもんしか見とらんよ。」
(時間だ。)
碧「……尾関くん!………………」
尾関「中川……お前には、俺が見えるけ?」
ざーっとこんな感じです。
文字で書き表すのは難しいね。
その後、それぞれ引っかかっていたことを相手に謝り、チーム曳山再結成で終わりました。
◇ ◇ ◇
ただの小っちゃな社会の歯車なんて替えが効く。使えない奴も壊れた奴も買い替えればいい。資本主義のなれの果て、みたいな。
「普通」から零れ落ちちゃったら居る必要なんかなくなって、要らない存在になるんだよ。見たくないものを見ずにいられるなら楽でしょ。でも、見なきゃいけなかったら? 見たくなくても見てくれる人が一人でもいたら?
誰にも見られないし必要とされない透明人間になっちゃった。誰か一人でも自分が見える人がいたら、こんなことにはならなかったね。世界が輝いて見えたあの頃は、こんなことになるとは思わなかったよ。
あの少女は、自分はここにいるんだっていう証明に成功したユリが、うらやましかった。私の想像です。
今まで見ないでいたこと、見ていたつもりになっていたことで、苦しませていたと知る。だから今までのことを謝って、透明人間にしてしまった人を人間に戻す。自分は替えの効く社会の歯車だとを知って、何にも代えられない社会の一員に変わるんだ。まずは知って、すると、やり直そうと思うことができるようになる。
これはフィクションの物語だけど、いつ現実で似たようなことが起こってもおかしくないでしょう。
でも、ここにいますよ、見てくれる人。