内容量表示について(景品表示法)その2
その1から続く。
4.景品表示法以外の法令
4.1.計量法
商品一般について正確な計量をする義務は努力義務として規定されている(10条)。これに加えて、定められた一定の商品(「特定商品」)については、政令で定める誤差を超えないようにしなければならない。
この誤差を「量目公差」という(12条)。
この義務を履行しない場合には、自治体等から勧告や命令、公表、従わない場合の罰金が科せられる場合がある。
「特定商品」の範囲はざっと見る限り非常に広く、私ではちょっと考えないと該当しない製品を見つけられないくらいであった。医薬品は見当たらないが他の法律で規制されているのか?
https://www.meti.go.jp/policy/economy/hyojun/techno_infra/00_download/14_tokuteisyouhin.pdf
ちなみに量目公差の規定は5g/5ml以上の特定商品のみ法的義務として適用される。
特定商品の販売に係る軽量に関する政令
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405CO0000000249
第3条(量目公差)とそこで参照される別表によれば、品目別に適用されるものが異なる3種類のマトリクスがあり、それぞれで5段階に分けて細かく許容公差が定められている。
具体的な数値としては、1~6%の割合に設定されている。商品自体の容量や重量が大きいほど量目公差は小さい。容量が小さい商品だと6%とかの誤差も許容されている一方、大きな商品は1%など比較的厳しく規制されている。
逆に言えば、とにかく1%以内に収まるようにしておけば規定を見るまでもなく計量法違反は免れるようだ。
他方で、この量目公差の適用がない部分、すなわち、①特定商品であって量目公差適用上限量を超えた量の商品、②特定商品でない商品、➂表示量のほうが少ない商品(多く入っている商品)についても、取引にあたり正確な計量をする努力義務があり、著しい不正確計量に対しては指導・勧告等の対象となる、とされている(しかも一定の場合について目安範囲の規定もある)。
この目安量類の最小数値も1%となっており、少なくとも1%未満の誤差にしておくことが望まれているものと思われる。
以上から、他の法令で特段の規制がない場合については、まずは基本的には計量法の規定に従うこと、仮に計量法上の義務が課されない場合でも計量法の量目公差や目安を参照することが一つの考え方と思われる。
考えるのが面倒であればとりあえず1%以内に収めておけばよい、としておけば、少なくとも計量法違反とはならないように読める。
4.2. 酒税法
表示でなく税申告にあたっての瓶詰時(?)の数量カウント方法の規定のようであるが、
「容量により詰口する場合の酒類の数量は、温度せっ氏15度の時における数量とし、計量に当たっては温度の変化による膨張率を考慮の上、正確に量定する。」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sake/2-15.htm
と、熱膨張まで考慮した規定あり。さすが税が絡むとなるとアバウトではいけない、ということなのだろうか。
なお、増量側(いっぱい入っていて消費者が得する側)の規定として、重量別に1~4%、数量算入を容赦する許容誤差が規定されている。有利誤認は消費者が損をする場合の話であるからこの規定は検討不要だろう。
5. 余談:公差規制の決め方
思考実験として、立法論的に少し考えてみたい。
商品の大きさはさまざま。規制の決め方によっては事業者にとって過剰な縛りになったり、逆に消費者保護に欠ける規定になったりする。
誤差の許容範囲の表し方としてはまず、①単に±いくつという絶対量で表現する方法が挙げられる。ある意味明確ではあろうが、内容量の少ない商品ほど詐欺っぽく感じると思われる。
たとえば500mlの水の±10mlは気にならなさそうな誤差に思えるが、50mlの±10mlは少ない場合は詐欺に思える。また、あまり閾値が小さいと、巨大な商品の場合は製造側の品質管理が難しくなるかもしれない。18リットルの一斗缶の油で10mlの誤差を守るのは大変そう。
次に、②表示量からのパーセンテージで表すこともできる。ただ、これは設定が難しいように思う。
たとえば小さめに±0.1%と決めた場合、製造側がこれを守るのが難しくなってしまう問題がある。逆に大きめに5%などとした場合には、内容量の大きいたとえば4リットルの焼酎で言えば±200mlも違っても許容範囲になってしまい、これも納得感が薄いように思われる。
経産省が公表している計量法のQ&Aでもこの点が検討されている。そもそも量目公差は量が小さいものは絶対量、多いものはパーセンテージで定めているが、その理由として「一般的に取引量が大きい場合は量目管理が比較的容易であることから、量目公差は、内容量が多くなるに従って小さくなるようにすることが妥当と考えられます。ここで、量目公差を百分率(パーセント)だけで定めると、左図のように連続的にならないため、右図のように百分率(パーセント)と絶対量を併用しています。 」(図省略)
つまり、様々な内容量で取引される商品別の公平性を保つために、規制値が連続的になるよう(より内容量が多い商品についてより少ない商品より量目公差が少なく=規制が厳しくならないよう)併用方式としている、とのこと。これは設定趣旨も含めて納得できる内容。
6.結論
探した範囲では計量法のほかに具体的な許容誤差を規定するような法令は見つけられなかった。また、計量法の規定を満たしていれば景品表示法に違反しない、といった解説も探せなかった(文献は調べていないので、もっと探せばあるかもしれない)。
ロジカルには、少なくとも公正競争規約がない分野については、計量法を守っていても消費者の判断を誤らせるほどの有利誤認表示になる=景品表示法に違反する場面が絶対にありえないとはいえないように思われる。
しかし、景品表示法で問題になるのは「著しく有利」に誤認させる場合である。「著しく有利」は前述のとおり①「社会一般に許容される程度を超えて」、②「一般消費者による商品・役務の選択に影響を与える場合」とのことである。
②はともかく①に関して、計量法の規定は広く様々な商品に適用されるものであるから、これに合致していれば「社会一般に許容される程度」に収まっている、と主張できる可能性は高いのではなかろうか。
7. 景品表示法を超えて
品質管理の世界では、原価計算やクレーム回避といった目的のため、シックスシグマなどと言われるように、3σとか6σとか、もっと厳しい基準でハズレを見ているのではないかと思う。
前述のように誤差1%(それも基本的に少ない側だけ見る)程度であればそれほど景品表示法の規制を意識する必要はないようにも思われる。
とはいえ、大量生産品ではない商品も世の中には多数あるかと思われる。そういう場合には計量法由来の誤差1%をベンチマークとして品質管理に取り組むことが考えられる。
ただ、ロットの大きい製品を具体的に考えてみると、1%の誤差は購入判断にあたって割と小さくない誤差であるケースも多く考えられる。
たとえば30kgの米袋の場合、1%だと300グラムなので、茶碗4杯くらいの許容誤差。20リットルの自動車用エンジンオイルだと、1%で200cc、ホンダスーパーカブのオイル容量が交換時で800ccなのでけっこう不足してしまう。4kgの液体洗剤だと1%だと40g、濃縮タイプで水30リットルあたり10g使用の製品※だと洗濯4回分の差が出てくる。
※ https://top.lion.co.jp/products/nanox/
こう書かれると、1%でもけっこう損するような気にさせられるように思うがどうか。あなたがクレーマーだとしたら、クレームをしてやろうという気になるのではないだろうか。
感覚の問題なので線を引くのは難しいが、提案として、「通常の使用方法で1回分の誤差が出ないようにする」という考え方で許容誤差を設定するというのはどうだろうか。米なら1膳分(精米75gで茶碗1杯約150g)とか。
液体洗剤なら1回分の使用量(上記の場合で10g)とか。
ただ、一回の使用量が多い製品については、上記の考えだと誤差が大きくなってしまう。代わりに、品質をあまり落とさずに、パッケージごとの想定使用回数分が使いきれる範囲の誤差に留めるとか。エンジンオイルは一回の使用量が多いが・・・たとえば使用する機器の使用品質に影響が出ない程度の誤差(規定800ccでも750ccくらい入っていれば大丈夫な設計なら誤差は50ccにする)で設定するとか。
更にこの2つの考え方を一般化して考えると、「その製品の通常の使用量1回分」をまず想定し、「そのパッケージで使用できる回数」を計算、その回数が1%以上減らないように許容誤差量を設定する、という考えはどうか。
この場合、米だと1回分が75gとして、30kgの袋の場合は400膳作れるから、4膳以内=300g以内の誤差に設定する。洗剤の場合、1回分を10gとして、4kgのボトルなら400回使えるから、4回以内=40g以内に収める。エンジンオイルの場合、スーパーカブに使うなら1回800ccで、20リットル缶なら25回使えるから、1%未満にするなら1回分も減らないように設定する=上述の「品質に影響が出ない程度の誤差」にするとか。
なんだ、これだと一回の使用量が少ない製品の誤差が大きくなってしまう。
やはり様々な製品がある以上、数値的な考え方を一般論のように定義することは難しい。
それよりも、景品表示法や計量法の理念というか、消費者に納得を得られる公正な表示(表示に合致した内容量)にするという趣旨に立ち返ったほうがよさそう。
具体的には、製品パッケージをイメージして、「これだけ少なかったらお客さんはサギだと思うよなあ」という考え方で許容誤差を設定する、というのがシンプルでよいように思う。
その意味では、「使用回数」と「品質」という考え方は有用なのではないかと思う。多少少なくても規定回数分おおむね問題なく使えるのであれば、あまり文句は出ないのではないだろうか。
8. 結論(2回目)
景品表示法の有利誤認と、一般的なクレーム回避の観点で話がクロスしてしまったが、これらを両方合わせるとつまり結論としては、
① 1%
② お客さんにサギだと思われる程度の使用回数の差が生じない程度の誤差
➂ 品質を担保できないほど1回の使用量が減ることがないような程度の誤差
以上の3つを考慮して、社内での許容誤差を決めることを提案したい。どうでしょうか?