オン読_調べる技術書く技術_アフター

【オン読】17.03月のまとめ

オンライン読書会「オン読」。3月のテーマは、問い本【調べる技術・書く技術】(野村進著・講談社)を課題図書にして「気づき」とは何かを考えるという内容。書籍の中身はルポライターによる文章の書き方に軸足を置いて進行するんですが、決して物書きの方だけしか血肉にできない内容ということはなく、世の中や社会をどのように観察し、向き合い、そこからどのような価値ある情報コンテンツを紡ぎだすか。その行為に対しての普遍的な学びがあったんじゃないかなと思います。ではでは、まとめてみます。

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自分にとっての「ステッキ」をどう見出すか

この本の白眉は冒頭1章の「テーマを決める」の部分だと思ったわけです。ライターに限らずすべての企画の仕事に携わる人が苦労する最初にして最大の関門が「テーマ決め」。何を主題に描くか。ここで多くの人が「だれも見たことも聞いたことも書いたこともないような斬新なテーマで作り出してやろう」と意気込むけど、多くのテーマは書き尽くされている。さてどうするかという問いに対しての筆者の見解が以下。

チャップリンの笑いは喜劇映画に革命をもたらしたと言われるが、道具立てはすべて使い古されたものばかりであった。 ~中略~ だが、チャップリンが違っていたところが、ひとつだけある。それは、ステッキを取り入れたことだ。あの一本のステッキこそ、山高帽や付け髭やドタ靴に統一感を与え、いままで見たこともないコメディアンが出現したと観客に印象づけたというのである。テーマを決めるときには、この「チャップリンのステッキ」を見つけさえすればいい。本来の意味での「独創」ではないけれど、それまでのくすんでいた色合いががらりと変わって、鮮やかな印象をもたらすだろう。読者の側には、それが「独創」と受け取られるのである。

「新しい」とは何か、ということについてものすごく示唆に富む文章だと思ったわけです。1から100までツルツルピカピカに新しいものは、何人たりとも見たことのないものだけで構成しないと難しいわけで、新しい惑星に行って、未知の物質でも見つけない限りなかなか難しいし、実はそこまで新しいものは、人間が「新しい」と知覚できなかったりすると思います。「新しさ」とは、人があるトピックに対して「これまで」という基準を持っていて、その基準と「異なる」から「新しい」と感じるわけで、基準がないものは実は、「昔からそういうもんだけど、自分が知らないだけかも」とか思う場合すらある。なので、テーマを考えるときに必要な頭の使い方は、「掛算で考える」「9割の既存のものに対しての、ピリリとからい1割のひねりを考える」ということなのかなと思います。

「すごく使い古されたストーリーだけど、設定が未来になっている」
「よくあるグルメ記事と見せかけて、子どもが食べた感想で構成する」
「よくある日記文学なのに、女文字(かな)で書き切ってみた」

とかとか、土台は実はみんながよく知っている古典的なものだったりするんですよね、世にいう名コンテンツって。


ということは大事なのはステッキよりも「本体」では?

普遍的な土台に、ステッキを持たせてオリジナリティを生み出す。この話を受けて、オン読参加者のコメントで鋭かったものが、

ステッキを足す前のチャップリンが大事なんじゃないか?

これはまさにだなと思います。結局、土台が分かってないのに、いきなりひねろうとしても、なにをひねってるのかわからない状態になって、「確かに見たことないものではあるけど、求められていない」ものになる。予想をいい意味で裏切る、とかいうけど、予想が立つくらいの土台がないと、裏切る対象もない、ただの驚かしになっちゃうってことかなと思います。ここまで来て、1月の課題図書からの発見だった「相場観」の話とつながりました。まずはちゃんと相場観を持つ。そのうえでその相場観にどんな「ステッキ」を足すことで、価値を生み出すのかを考える。これが今回の「テーマづくり」において大事だってことかなと、まとまったんじゃないかなと思います。相場観のつかみ方については前回のまとめ記事に結構書いたので、そこで引き続き議論できればと思いますが、さてじゃあ問題は「どうやってステッキ探すねん」って、そっちですよね。

これはもう、このテーマだけで無限に議論できるぐらい深い話なんですが、ひとつだけ自分がよくやる方法を紹介すると、「要素分解して、ひっくり返す」というのはよくあります。たとえば、浦島太郎の物語に「ステッキ」を足して独自のテーマにするとするなら、要素分解は、

漁師、亀、いじめ、助ける、海、姫、宴、手土産、老化 …

とかになる。その中の要素を試しに一つずつだけ、ひねっていくわけです。

漁師が「猟師」だったらどんな話になるか?
亀を「助ける」んじゃなくて、亀に「助けられる」話にしたらどうなる?
最後の玉手箱、開けたら「若返り」だった場合、そこから何が始まる?

とかとか、こんな感じで、「土台を要素分解して、ひっくり返す」というのは一番わかりやすくて、遊びの延長でできるけど、案外バカにならないアプローチかなあ、なんて思うけどね。やっぱり「ステッキの前にチャップリン本体」としての土台とか普遍とかお作法が分かっていたほうが、ステッキも見つけやすいということがこれでわかったんじゃないかなと思います。「なにか新しいものを」と思うならまず、「何が新しくない、当たり前なのか」を自覚する。今回はこれが一番、議論の中で面白かったと思いましたとさ。


そんなわけで、「気づき」についての思考が深まったんじゃないかな?っていう第二回でした。第三回は、さらに具体的に、「どうやって相場観を身に着けて」「どうやってステッキを見つけ出すか」について、Howのところの参考になる課題図書を考えていますので、近日中に投稿しますね!参加してくださってありがとうございました!

twitter: masahide_YSD
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