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【アマチュア大喜利プレイヤー列伝】羊狩り-どの時代も本気なやつしかいないだろ-

はじめに

「何の実況なんだよそれ!」
「なんならあるんじゃないかなあ!結構親日家だよあの人」
「(高い声で)ハハハハハ!!!」

筆者が観ているのは、2020年3月22日に行われた関東の大喜利大会「EOT-extreme oogiri tournament- 第6章」の動画である。2017年3月に第1章が開催された本大会も、気付けば6回目。着実に歴史を刻みつつある。

上記のセリフは、出場者の回答を書き起こしたものではない。回答が出た直後のMCの反応である。ツッコみ、補足し、大声で笑う。場合によっては出場者よりも頭をフル回転させながら、50~70人規模のEOTを回し続けてきたのが、本記事の主役、羊狩りである。

羊狩りは関東の大喜利プレイヤーで、EOTのMCとして、また、東北の大喜利大会「東北大喜利最強トーナメントT-OST(トースト)」の主催として活動し、大喜利の場の提供に深く関わってきた。

また、回答者としては、無理やりなダジャレを交えた回答をしたかと思いきや、突如お題のど真ん中を射抜くこともある、目が離せない戦法のプレイヤーである。

MC、プレイヤー、二つの顔で多くの大喜利を見てきた羊狩りへの取材を望む声をもらったので、今回話を聞くことにした。もちろん、筆者自身も、大会のことや他のプレイヤーのことなど、一度話を聞いてみたいと思った。

過去に取材した二人と同様、TwitterのDMで許可を取り、オンラインで話を伺うことになった。

2020年7月5日16時、取材開始。

ルーツはニコ生

軽い挨拶を交わし、「Skypeって録音出来るんですね」などといった会話を挟みつつ、本題に入る。

生大喜利以前に、ネット大喜利や投稿といった場所で大喜利をしていた人物は数多く存在する。ちなみに羊狩りは、ニコニコ生放送の大喜利出身であるというデータがあったので、当時の話から伺うことにした。

「ニコニコ動画をめちゃめちゃ見てて、ニコ生で大喜利をするよっていう文化があるのを知って、参加してみようかなって思って、『大喜利』で検索かけて、引っかかった放送にお邪魔したんですよ」

当時、それなりの盛り上がりを見せていた、ニコニコ動画の生放送での大喜利。今となっては、知ったきっかけも動機も覚えていない。生放送を行っている「生主」が出すお題にコメントで回答し、面白い回答を生主がピックアップするのが大まかな流れだという。

予備知識なしの飛び込みで参加し、勝手もわからなかった羊狩り。それでも、3つほど回答を読まれたそうだ。

「あ、読まれんじゃん俺って。それが一番最初で、落研にはいたんですけど、大喜利ってちゃんとやったことなくて。そこから自分でもそういう形式の放送をやるようになりました」

初観戦、そしてデビュー

ニコ生の大喜利を2~3年間やっていたという羊狩り。生大喜利デビューし、実際にホワイトボードとペンを持った日について訊いてみる。すると、まず第12回大喜利天下一武道会の本戦を観戦したエピソードについて話してくれた。

「ニコ生の大喜利をやってて、生で(大喜利を)やってるって文化を何かで仕入れたんですよ」

当時栃木県在住だった羊狩りは、足を延ばして新宿の会場まで本戦を観に行った。そこで初めて生大喜利の文化に触れ、実際にボードを使う大喜利に衝撃を受ける。回答を出すとすぐに反応が返ってくるという生大喜利の最大の特徴に驚嘆することとなった。

「面白かった以上に羨ましかったんでしょうね、自分の中のオモシロを出して人にウケるっていうのが。そこで観た人たちが、最初のヒーローですよね」

すぐに「自分もやってみたい」と憧れを募らせた羊狩り。ある時、「オフで(大喜利)やりませんか」とニコ生で関わってきた人に声を掛けられる。賛同した羊狩りは、新宿の会議室で生大喜利デビューを果たす。

「まあ全然ウケませんでした」

次に生大喜利を行ったのが、第13回大喜利天下一武道会の予選。1stステージを3位で通過し「勝てんじゃんって思ったんですけど、2ndで一個もウケなくて、いしださんとかにボコボコに負けて、栃木に帰りました。」

デビューの初っ端から苦汁をなめてきた羊狩り。それでも楽しかったので、生大喜利の場には時々顔を出すようになる。当時はまだ競技人口も少なく、大喜利出来る場が少なかったが、天下一の運営が主催する「大喜利修行会」という会は存在した。そこに参加はしていたものの、始めてからしばらくは、大きな笑いを取ることは出来なかった。

「本当に僕全然ウケなかったので。『全然ウケなかった』っていう基準が、今の人たちの『全然ウケない』の基準じゃなくて、本当にウケなくて」

「ウケない」ことを掘り下げる勇気が無かったので、詳しく聞かなかったが、とにかく今の「ウケない」とは違うことを強調する羊狩り。今日のように関西や九州など、全国各地の大会に出場するほどのめり込むようになったのはいつ頃なのか。

「2013年に東京近郊に越してきて、最初の喜利の箱(池袋にかつて存在した大喜利専門スペース)が出来て、そこにめちゃくちゃ行ってたのが生大喜利ハマるようになった最初だと思います」

修行会や喜利の箱にて、現在も第一線で活躍するプレイヤーと出会ってきた。ちなみに、初めての遠征は2016年9月、関西で行われた鴨川杯だ。遠征までして大喜利で負けることにそれなりの恐怖を抱いていた羊狩りだが。

「仲良い人たちが増えて、大喜利以外の話とかもするようになって、別に大喜利でそこまでウケなくても、一緒にそういう場所でお祭りみたいな感じで、イベントとして行ったら楽しいんじゃないかなと思って」

勝負の場としてではなく、ある種のお祭りとして楽しもうとした羊狩り。次の話題は、関東と東北で行われている、とある大喜利の”お祭り”の話に移る。

EOT、始動

「EOT第6章、優勝はぺるとも!」

先述のEOT第6章は、これまで行われた全てのEOTに参加し、全ての予選を突破してきた「若獅子」ぺるともの優勝で幕を閉じた。2017年1月に第1章の開催がアナウンスされたEOT。現在は関西や東北からやってくる出場者もいる、大規模な大会となっている。開催に至るまでの経緯を聞いてみる。

「ばらけつが大会やりたいんだって言って、スタッフを(星野)流人さんにお願いしたいんだみたいな話を聞いてて、『ああ、良いじゃん二人でやるんなら』って」

最初は大喜利の場で出会い、大喜利関係なく遊びに行くほど仲が良かった羊狩り、ばらけつ、星野流人の三人。ばらけつの構想に、最初は傍観者として後押しを考えていた羊狩り。しかし、次の瞬間ばらけつの口から発せられたのは「MCをお願いしたい」という予想外の一言。

「第一印象として『大丈夫?』と思ったんですよ。面倒くさいことにならない?って」

MCは、ニコニコの生主や、喜利の箱での経験しかなかった。それでも仲の良いばらけつからの頼みを、断るわけにはいかなかった。今でこそ多少は自信が付いたものの、始まった当初は、大会が終わるたびにへこんでいたという。

「今思い返せば、いろいろやらかしたし、第3章までは酷かったなと思います。ばらけつにしても流人さんにしても、スタッフやってくれてるいいさんやステイ(ゴールド)さんや権藤にしても、よく辛抱強く見ててくれたなって思いますけどね」

大会のルール含めた構想は、ばらけつと星野流人によって生まれたもの。羊狩りの担当は、MCと、前口上の考案。それだけだと本人は笑っているが、いずれにしても重要な役目である。

予選は加点式で競い合い、上位数名が本戦トーナメントに進む。本戦は1対1で行い、勝者は会場全体の拍手の量で決まる。本戦進出者の上限に違いはあれど、予選が加点審査で本戦が印象審査という基本ルールは第1章から変わっていない。ばらけつは「加点と印象の両方に見せ場を作りたかった」という旨の発言をしていたそうだ。「実力や勢いが出るルール」だと羊狩りも語る。

印象的だった回を聞いてみると、悩みながら第4章と第6章だと答えてくれた。第4章は、現時点でEOTにおける唯一のタッグ戦。新たな試みとなった今大会は、俺スナとゾのタッグ「すえきすえぞーの変動ゆか」が優勝となった。「回答者の答えにパートナーが笑ってたのが一番良かったですね」と語る羊狩り。

第6章は、新型コロナウイルスの影響が生活を脅かす直前、ギリギリの状況下で開催された。消毒、換気、手洗いなど、徹底した対策を行った。そういった背景だったこともあってか、普段以上に意気込んでいた出場者も多く、全体としてレベルの高いものとなった。

第6章のベストバウトに、本戦2回戦第4試合の六角電波ぺるとも戦を挙げてくれた。大会終了後、出場者や観戦者のTwitterでとにかく話題になっていたこの試合。筆者も動画で確認したが「ここまでの熱量のタイマンは観たことない」というのが正直な感想だ。

「あれは本当に生大喜利タイマンの到達点だと思ってるので。確かにうかつに(初心者に)見せらんねえなっていうのはわかるんですよ。大喜利やってみようかなっていう人にあれ見せたら、多分引くと思うんですよね(笑)」

圧倒的スピードで回答を出し続けながら、拍手笑いを巻き起こし続ける両者の試合は、7月8日の時点で、再生回数490回、高評価数16と、まだまだ小さいコミュニティである大喜利界隈の動画としてはありえないほど大きな数字を叩き出している。

ちなみに、第6章で一番好きだった回答は「日本大喜利協会会長」せんだいのとある回答だという。毎日Twitter上でお題を出し、毎週のように大喜利会を開催する彼の活躍は瞠目に値するが、回答の内容をここに詳しく書けないのは目に見えている。動画としてアップされているので、是非その目で確かめて欲しい。

本来はMCという立場上、予選に出ることは不可能だったが、第6章で出場が叶った。出場者の定員割れが起きたため、特別に出ることになったのだ。自分が発案したお題に挑むことになったものの、審査基準等は他の出場者と変わらない。手ごたえ的にはどうだったのか。

「本当に狭い門だなって。え、俺結構ウケたつもりだけど、全然足りないじゃんって思ったんで」

EOTでは、優勝や準優勝、本戦進出とはならなかったものの、毎回注目を浴びるプレイヤーが何人か生まれる。大会をきっかけに、自分のスタイルの確立に成功し、軌道に乗っていく。それは「勝手な見解」だと羊狩りは語るが、その意見には筆者も同調したい。

「1章だったら田野さんとか、2章だと神聖な大木さんとか、3章だとつきしまさんになっちゃうんですけど(苦笑)『バレる』じゃないですけど、『こういう感じの人で、こういうオモシロをするんだ』みたいなのが周知されると嬉しいですね。直近の6章だと、でんらくさんとギャルさんとまごまごさんですかね。印象が更新される、人がブレイクするのが、自分たちの大会だと嬉しいですね」

また、これまでMCとして大会を見届けてきた羊狩りは、EOTの今後について、このように語ってくれた。

「大会って、天下一とか鴨川杯もそうだし、お祭りだと思うんで、EOTがそういう風な感じになってくれたら嬉しいなと思いますね」

罠箱の意志を継いで

「来る7月15日に、宮城県仙台市日立システムズホールエッグホールにて、東北のオオギリスト最強を決めるトーナメント大会を開催します」

2017年6月10日、羊狩りのTwitterアカウントから、とある大喜利大会のエントリー開始の案内が出された。行われる場所は、羊狩りの地元である宮城。開催しようと思った理由は何か。

「仙台で罠箱さんが『東北大喜利会』ってやられてて、地元に帰る時に参加させてもらってて。それで段々東北の大喜利人口が増えてきたんですけど、罠箱さんがお忙しくなっちゃって、大喜利会の主催が出来なくなって」

このまま東北の大喜利の火を絶やすのはもったいないと感じた羊狩り。当時東北には、自ら大きな大会を立ち上げるような人間はほとんどいなかったため、自分から舵を切ることにした。

現在T-OSTのスタッフを務めるとれいん、カツノリ、そして間雲亭吠駆といった面々に協力を仰ぎ、大会は始動した。大会としてぶっつけ本番だった1枚目。それでもハイレベルな戦いが繰り広げられて、成功に終わった。現時点で5回行われており、東北のプレイヤーはもちろん、関東や関西のプレイヤーも巻き込んで成長し、大きな地方大会の一つとなっている。

印象的な回を聞いてみると、T-OST史上最大規模の戦いとなった3枚目と、直近で行われた5枚目を挙げてくれた。ちなみに両方とも優勝者はばらけつ。特に記憶に残っている試合を聞くと、3枚目は本戦Bブロックだという。このブロックの出場者は、いちごサンド、虎猫、ATP、ないとくん、ネイノー(六角電波)。東北の新人であるいちごサンドと、タイトルを数多く持つ4人(ATPに関しては、T-OSTの初代王者)による本気のぶつかり合いが観れた試合だ。

「いちごサンドさんがあの場でちゃんとウケてるのも凄かったですけど、ベテランの4人が目の色変わったんで。なかなか無いじゃないですか、デカい大会で結果残すクラスの4人が一堂に会して、しかも決勝とかじゃなくてやるっていう。」

筆者もその場に居合わせたが、ブロック分けの抽選時にすでに会場がざわついていたことを覚えている。

5枚目で印象的なブロックを聞いてみると、予選のCブロックとGブロックのレベルが高かったとのこと。今でも動画で見返すそうだ。

「大会でこういうのが見れるの良いなって。自分のお題の意図を汲んでくれたうえにそれを超えてくれたんで。主催冥利に尽きるなと思いました」

2020年3月28日に開催を予定していた6枚目。残念ながら延期となってしまったが、今後行われた際には、大成功で終わって欲しいと勝手に思っている。その気持ちは、おそらく羊狩りも変わらないだろう。

MCとしての自分

自ら大会を主催し、場を回し続けてきた羊狩り。どのような心構えで挑んでいるのか。「叩き上げだから偉そうなことは言えない」と前置きしたうえで、こう語ってくれた。

「参加者へのリスペクトと、回答へのリスペクト。面白い回答にはめちゃくちゃ面白いっていうリアクションをするのが僕は礼儀だと思うし、そこまで会場が湧いてなくても、MCのイジリ一つでウケることがあって、ポイントとかにはならなくても、それは全体の盛り上がりには繋がると思うんで、それはMCが出来ることなのかなと思います」

羊狩りは、理想のMCに「大喜利天下一武道会」や「戦-大喜利団体対抗戦-」で司会を務める橋本の名前を挙げる。

「天下一を初めて観た時に、橋本さんも初めて見たわけで。何がすごいってネイノーとか俺ランさんの大喜利とかもそうなんですけど、橋本さんのMCが凄いなって」

「天下一」や「戦」にて、橋本の仕切りの元で大喜利をしたことは何度かあるが、回答者の意図を汲み取り、ツッコむ速度が尋常ではない。瞬時に適切なワードを出し、淀みなく捕捉し、場を盛り上げる橋本は、まさに羊狩りにとって理想のMCだ。

「やるたびに差を感じているんですけど、最近は俺は俺のやり方で良いかなって思うようになりました。橋本さんにはなれないけど、ずっと憧れです」

また「参加した人にはとにかく楽しんで欲しい」とも語る。

「一人一人のプレイヤーの、良かった所に『良かったです』の一言が伝わるような行動を取っていけたらなと思いますね」

好きなプレイヤー

ベテランから若手まで、多くのプレイヤーの大喜利を見てきた羊狩りに、好きな大喜利をするプレイヤーを何人か挙げてもらった。

「一番最初は天下一で見た俺ランさんです。こういうこと人前で言って良いんだっていうのを思って、勝手に弟子を名乗ってるんですけど。大喜利に取り組む姿勢だとか、メンタルの保ち方とか、お題の要素の拾い方みたいなのは、一番観てきて勉強になったなと思うんで。」

虎猫同様、一番に俺のランボルギーニの名前を挙げた。その影響力、恐るべし。羊狩りも俺のランボルギーニの背中を見て、大喜利を楽しむその姿を学ぼうとした。

「あとは…ずっと本当に好きなのは、罠箱さんと赤黄色さんとノディさん」

かつて東北大喜利会を主催していた罠箱、関東の実力者である赤黄色、関西で活動し、直近の天下一の運営に携わったノディと、3人のプレイヤーを挙げてくれた。

「ド正統だし、外すことも出来るし、めちゃめちゃ器用で、自分そういうこと全然出来ないんで。こうなりたいっていうか、自分のたどり着けない所への憧れというか。よくそういう発想とか着眼点が出るなって」

上記の三人は、いずれもベテランのプレイヤー。最近始めた人だと誰か聞いてみる。

「電子レンジは集中力が保たれていれば誰にも負けないと思ってるんで。答龍門の時以外あいつなんかポヤンとしてるんで(笑)でも最大到達点だったら電子レンジはピカイチだと思うんで。」

生大喜利デビュー3年以内のプレイヤーによる大会である答龍門で、準優勝経験もある電子レンジ。第16回大喜利天下一武道会でも、本戦進出を決めている。

「あとは、OGAKUZUZ。ずっとセンスがすげえって本人にも言ってきたので。あいつも結構集中力にムラがあって、ふざけるのに楽しみを見出してしまったのでふざけがちなんですけど、ちゃんとやったらめちゃくちゃ面白いので。あとは、EOTの運営陣で、おせわがかりさんすげえよなって話をしてて。最近始めたとは思えないくらいアジャストが上手いし、苦手なお題無いんじゃないかって思ってて、見てて本当にわくわくする」

優勝経験こそ少ないものの、毎大会結果を残す若手のホープ二人の名前が挙がった。

「あともう一人、アオリーカ」

EOTで2回本戦進出し、T-OSTでも決勝進出経験のあるアオリーカ。また、以前羊狩りとコンビを組み、漫才を披露したこともある。演技を交えた回答に定評があるため、生大喜利に特化したプレイヤーかと思いきや、文章のみの勝負であるネット大喜利でも、高い評価を得ている。

「ネットも生も見るたびに強くなってくし、ネタも書けるし、会にいると色々助けてくれるんで本当に頼りになるんですよ。また一緒に漫才もしたいですね」

「あとは…やっぱりばらけつですかね」

EOTなど、数多くの大会の運営であり、羊狩りの友人でもあるばらけつ。「最初はプレイヤーとしての印象はそこまで無かった」と羊狩りは語る。

「後期の喜利の箱は、ほとんどあいつが店長みたいなことやってたんで。そこで面白いプレイヤーをかなり見てきた影響なのか、急にめちゃくちゃ面白くなって。プレイヤーとして最近あまり出たがらないんですけど、集中した時の大喜利の切り口は誰にも負けないと思ってるんで」

実力者に関する話は尽きない。

プレイヤー目線

ここまでMC、大会運営陣ならではの目線で、主に他のプレイヤーについて語ってもらってきた。しかし、別に羊狩りはMCに専念しているわけではない。プレイヤーとしても、多くの大会に出場してきた。出場者として印象に残った大会を聞いてみると、2017年6月に行われた、カブト主催の「大喜利うどん杯」を挙げてくれた。優勝するとうどんがもらえる本大会で、羊狩りは優勝や準優勝こそしてないものの、MVPに選ばれた。

「初めてじゃないと思うんですけど、デカく個人でウケて、自分でも納得がいく出来だったのはあそこが最初くらいじゃないかなと。こんなにリアクションがあるんだってなりました」

出した回答は覚えているが、そこにたどり着くまでの過程は記憶にないと語る羊狩り。ゾーンに入り、これまで出したことの無い実力以上の回答を出すことは、大喜利においては少なくないが、羊狩りにとってはなかなか無い経験だった。

「でも、次に参加した大会でボコボコにすべって。ムラが強いんでしょうね。最近では、そこは自分の個性だからって思って楽しむことにしてます」

また、羊狩りの回答を語るうえで、忘れてはならないのがダジャレ回答。それについて、こんな貴重な証言が本人の口から出た。

「2016年あたりかな。その頃は変な拗らせ方をして、変なダジャレしか言ってなかった時期なんで。その時期に知り合った人が多いから未だに言われますけど、最近そんなに言ってないはずです(笑)」

鴨川杯等の大きな大会でウケたため、ダジャレに味を占めていた羊狩り。確かに封印とまではいかないが、近年ではあまり見ることは出来ない。「羊狩りといえば無理やりなダジャレ」のような文章から本記事が始まったことを、ここで謝罪したい。

メンタルとモチベーション

長年ウケない日々を過ごし、悔しい思いをしてきた羊狩り。何度も立ちはだかる壁に挑戦する中で、大喜利へのモチベーションは、果たして変わっているのか。

「めちゃくちゃメンタル弱かったんで。大してウケないくせに、自分の中では『こんなもんじゃないだろ』みたいなのをずっとグルグル繰り返した時期があったんで」

それでも、暗黒に近い時期を経て、最近は楽になったと語る。

「MCやるようになって、安定したかなと思うんですけど、大喜利の回答じゃなくても、回答者の邪魔にならないことを前提としたうえで、ガヤだったりコメントだったり、そういう所で自分を出せれば良いのかなって」

プレイヤーとして回答するよりも、人の回答を拾うことの方が性に合っていると語る羊狩り。また、メンタル面については、現在はこのように思っている。

「参加した会自体が面白ければ良いんじゃないかなって思う方が、かえってメンタルが安定しますね。人の回答が羨ましい、面白い、こういうのやりたいなって思うことはあるけど、僕の回答はこうだし難しいことは出来ないけどっていう開き直りが出来るようになったかなと思います。負けると悔しいですけどね」

理想の存在

「憧れてる人はいますけど、そういう人たちのルートに行けるかってなると多分無理だと思うので」

筆者の「どのような存在でありたいか」という質問に対し、謙遜を交えて答えた羊狩り。「適度にナメて欲しいですね」とも語る。

「(僕に対して)緊張しないで欲しいですし、『バッカだな~』って思ってもらえるくらいが丁度いいなと思うので、気軽に声かけて欲しいし、僕を見て、大喜利へのハードルを下げて欲しい」

ここまで謙虚に語ってきたが、「なんだ羊狩りさんじゃんってなってる所に、めちゃくちゃウケて驚かせたい」という野望もちらつかせる。「たまにド正統な回答やってウケたりすると、反応が面白いので。ネット大喜利とかでも」

ちなみに、第一回目の記事に登場したゴハは、スズケンが理想だと語ってくれたことを伝えると「わかる!スズケンさん理想だな~」とこぼす羊狩り。「関西のええおっちゃん」スズケンの人柄の良さは、東西の壁を越える。

おわりに

今回の取材で、羊狩りのMCとしての思いを、多少なりとも知ることが出来た。数多くの舞台を見届けてきた”道化師”の”素顔”は、情熱に溢れていた。

大規模な大会は、一回行うだけでもかなりの労力を要する。何年も続けていくことは、非常に難しい。今回の記事で、EOTやT-OSTの知名度が少しでも上がって欲しいというのが、筆者の望みである。

羊狩りはその場を、”簡単そうにまわ”しているわけではない。”冗談みたいな”ガヤも飛ばすが、本人なりに悩み、そして成長している。

「羊狩りさんのMCなら、ウケ”なくても不安じゃない”」そう言われる日が、すぐそこまで来ているかもしれない。

記事を読んでいただき、誠にありがとうございます。良かったらサポート、よろしくお願いいたします。