「醜い永遠」常松結 2021/11/30



・今、漫画喫茶で更新しています。


・ようやく落ち着くことができたので、ささっと書いてしまおうと思います。

・これを書くことで、私は色々と立場がヤバくなると思う。会社の人が読んでいたらの話だけど。いや、どちらにせよデータにして残してしまったら、発見されるのは時間の問題だろう。

・でもここまで読んでくれた人が少しでもいるなら、礼儀として、書こうと思う。

・最初に言いましたものね。”本当のことしか書かない”って。




・リケちゃんと一緒に非可住立方体へ踏み込むと、前のように晃が立っていた。全裸に風がびゅうびゅうと吹き付けていて寒そうだった。

・リケちゃんはカッと顔を赤くして、怒りを露わにした。「またですか……」そして前回と同様に、地面を蹴り上げ、たちまち晃へ飛びついた。

・晃はぐるりとこちらを向くと、彼女のメリケンサックを受け止めた。学習──してきたのかもしれない。2人は互いの両腕を掴み合い、膠着状態へと陥る。鬼滅の煉獄さんと猗窩座みたいだった。

・「常松さん!!!」とリケちゃんが叫んだ。「私が抑えている内に! ロケランで! この人、を……!」


・ハッと我に返り、私はロケランを掴んだ。バディのピンチなのだ。ぼやぼやしていられない。

・2人の元へ駆け寄って行き、ロケランを担ぎ、そのまま大きく振りかぶって────。


夏のあの日が脳裏によぎった。


・気がつくと、私はリケちゃんへロケランを叩きつけていた。血を吐いて、身体を折り曲げて、彼女が地面を転がっていく。

・仰向けに倒れた彼女は、信じられないような目でこちらを見ていた。「は……? どう、して……」

・私が何かを言いかけるより早く、晃がリケちゃんの胸の上へ飛び乗った。

・首を締め上げる。親指を急所へ沈み込ませて、気管をポキリと折ろうとしているみたいだった。

・リケちゃんは激しく抵抗した。晃の両腕に爪を立てて、肌を裏返していく。血の筋が幾つも出来て、たらたらと垂れていく。裸体の護衛者は痛みなぞ感じていないかのように、ギリギリと締め上げていく。リケちゃんは仰け反って目を大きく開いていた。

「助け、て……先輩…..。助けて…..! やだよぅ、やだぁ……! 死にたくない!」

・私は彼女の元へ歩み寄り、地面に膝をついた。そして耳元で囁いてあげた。

「私もリケちゃんが好きだよ」

・その言葉を聞いて、彼女はふっつりと抵抗を止めた。私は晃を止めて、首を解放するよう促す。晃は大人しく引き下がった。

・「……優しくして下さいね」と、リケちゃんは絶え絶えな声で言った。私はうんと頷いて、その魔法少女服をゆっくり脱がしていった。リボンを、スカートを、ソックスを──。やがてリケちゃんは一糸纏わぬ姿となり、ぼんやり私を見上げていた。

綺麗だよ、と言ってあげた。

彼女は微笑んで消えていった。




・取り残された魔法少女服を晃に着せて、私達は立方体を出た。

・晃の眼に色が戻っていく。寝起きのような顔で周囲を見渡すと、「どこだ、ここ」と呟いた。懐かしい、ぶっきらぼうな口調だった。

・晃が振り返り、白く光る立方体を見上げる。そして「死んだのか。私…….」と言った。「なぁ、そうだろ? 私は死んだんじゃないのか?」

・「ただここにいるだけ」、と答えた。

・晃はそれきり黙ってしまった。夜の街を、サイズの合わない魔法少女服を着た女と、ロケランを引きずったボロボロの女が歩いていく。決して綺麗な結末だとは言えなかったが、それでいい。

・終わらせないために、私はリケちゃんを殺したのだから。





・この世からもう「いなかったこと」になっている晃に、帰る居場所はない。なので、私たちは漫画喫茶へ直行した。これからのことをそこで話し合った。

・私の貯金の許す限り、晃はビジネスホテルや漫画喫茶を点々とすることになった。だけどそれは解決の先送りに過ぎない。何より、魔法少女服を着続けなくてはいけないのが大変だった。これではろくにバイトもできない。──魔法少女以外は。

・私は何着か会社から盗んできて、それを替えの服にした。


・一度「いなかった」ことになった存在を「いた」ことに戻す魔法──。それがどこにあるのか、そもそも存在しているのか、分からない。

・より現実的な解決案は、すなわち世界の崩壊である。この世の全てが非可住立方体に呑み込まれてしまえば、晃はもっと自由に生きられるだろう。今度は私が魔法少女服を着込む番だ。

・終わりの後には永遠がある。それを私は知っている。だから躊躇いはない。きっとどこかに、味方してくれる子もいるだろうし。


・つまり今日の日記で伝えたかったことは──ご褒美だ。この日記をここまで読んでくれた数少ない人達への、ご褒美。やがて世界が私に滅ぼされると分かっていたら、もっと素晴らしい人生に送れますよね。



・では、日記はここまで。読んでくれてありがとう。


・それじゃあね。











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