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「ラッピング現象」常松結 2021/11/16



・日記を書いたな、常松。俺に、日記を…。



・疲れた。疲れた疲れた疲れた疲れた。会社と会社の往復。パソコンと睨めっこした後に異形の護衛者と睨めっこ。家帰って何もできないまま眠りこけて、すぐに朝の5時半。追われるように支度してたらハイ7時。通勤。出社。ダ・カーポ。


・出勤時に電車を乗り換えようとしたら、外国人に呼び止められた。「×××〜で合ってますか?」「はい?」「ありがとうございます」噛み合わないまま会話が終了した。

・まぁいいか、と思ってホームへ降りた。しかしモヤモヤしたので振り返った。同じホームへ彼らが降りてくる様子が見えた。

・待ち構えて、話しかけると、「新宿へ行くにはこの電車を乗ればいいのか?」と訊いてきた。なるほど全然違う。だが私も電車に疎いので、正解の路線が分からない。「ちょっと待って下さい」と止めて、スマホのアプリで調べた。出てきた番線に彼らを先導し、お礼を背に立ち去った。

・そのせいで会社を遅刻したとかはない。ただ緊張した。



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・友達と飲んだ。私はめちゃめちゃお酒に弱い。写真のいちごミルクも最後まで飲めなかった。



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・メガネ。落とし物を誰かがフェンスにかけてあげて、そのままなんだろうな。朽ちた優しさ。



・後から聞いたのだけど、『波』が来てたらしい。波ってのは、なんかまぁ沢山敵が来るみたいなのです。

・あの首長竜はさしずめ”ラスボス”だったのかな。せっかくリケちゃんとのデビュー戦だったのに、彼女の出番を奪ってしまった。でもリケちゃんは「それでこそ!」となんだか嬉しそうにしていた。


終わりなき恐怖

・リケちゃんはソシャゲができないらしい。”終わり”が保証されていないものが苦手なんだと話していた。だからジャンプの新連載とか、人気の洋ドラとか、明確な”結末”がこの世にまだ無いコンテンツは見ないようにしているのだそう。

・それ故、もっぱらエンタメ趣味は映画とか小説とか。ハリポタは死の秘宝まで公開されてから一気見したらしい。今はマーベル作品が見れないと呻いていた。

・リケちゃんは、祖母からとある”お願い”をされている。延命処置はしない、というものだ。もし病気や怪我で自分が死にかけたら、だらだら生かさずに死なせて欲しい。最後には「お疲れさんでございました」と言って欲しい。そんな約束を交わしているのだそうだ。

・リケちゃんは小学生の頃からそれを言われ続けている。しかし嫌だとか悲しいだとかはあまり思わず、むしろ”親類の死”というどうしようもない絶望に直面したとき、他の子供ほどショックでは無かったそうだ。つまり受け容れる準備ができていた。


・話を戻すが、私は終わらない話が好きだ。好きなアニメやドラマを見ている時、できるだけ終わらないでいて欲しいと思う。

・大学一年の頃からジャンプの定期購読を始めた。晃に布教されて、アクタージュや鬼滅やチェンソーマンにハマったからである。

・定期購読を始めてから、晃が毎週私の自宅へ来るようになった。自分で買えばいいのに、私のスマホを奪って読む。アンケも勝手に出してしまう。彼女は呪術廻戦が特に好きだった。

・終わらない繰り返しのような日々。それは毎週月曜のジャンプと共に刻まれる。ジャンプが0時に更新されると、今週はいつ晃が来るのか、と考える。未だにそうしてしまう。

・扇風機の回る夏の部屋。カーテンを閉じた薄暗さ。スマホを奪われてやることがなく、晃の横顔を見ていた日常。


・まだ頭の中で続いている。


・……こう書くとあたかも美しい光景のようだが、実際のところはもっと汗臭い。晃の態度に結構本気でイラついていたり、司書科目の課題に追われていたり、噛み砕いたアイスの棒が口内に刺さっていたりする。

・では”終わり”とは、ある種のラッピング現象(造語)なのか。晃が死んだおかげで、あの光景は美しく昇華されたのか。

・ずっと大学生のままではいられない。もう22なのだから、いい加減大人びないと。

・せめてリケちゃんよりは。


・大人なので日記をちゃんと書きました。大人なので明日の仕事のために寝ます。読んでくれてありがとう。

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