高円寺で亡骸を拾う

「一緒に東京行こうよ」

高校2年生の球技大会だった。グラウンドの隅に生えた雑草を触りながら、17歳の彼女は事もなげに言った。その勢いに気圧され、気づけば私は頷いていた。

その1年後、私は彼女の背中を追うように同じ大学へ進み、東京へ移った。彼女はアナウンサーになりたいと言ったり、演劇サークルに入ったり、専門学校に通ったり、個展を開いたりと忙しくしていた。自由奔放で寂しがりやな彼女は、高円寺の器の広さとだらしなさが性に合ったようで、長くそこに住んでいた。大学を卒業した後は、高円寺にある古着屋で働いた。その間、お互い恋人ができたり、別れたり、仕事を変えたり、(私は)引っ越したり、(彼女は)うさぎを飼ったりした。彼女の暮らす高円寺のアパートで、私達は笑ったり泣いたりしていくつもの夜を越えた。

上京して9年が経った頃、彼女は地元に帰ることを決めた。

「家族が近くにいるのが私の幸せなの」

10年という月日は、彼女を怖いもの知らずの17歳から、泣きそうな顔で笑う27歳にしていた。

「私、いろんなことに気づくのが人より遅いみたい」

ぽつりと言った。それは私も同じだと思った。

「私の魂は高円寺に置いていくから」

行かないで、と、私には言う資格がない気がした。私も彼女も、もう一緒に未来を決められた17歳ではないのだ。

東京の9年は長いのか短いのかわからない。けれどこのままじゃ、東京の人にも田舎の人にもなれないと気づいていた。
いい決断だと思った。なのに、私は泣きそうだった。

東京からまた一人、何者にもなれず戦友が消えてゆく。魂はそこに置いたまま、亡骸になった彼女に手を振った。


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