わたしとゆり(小説)

高校の時にわたしとゆりは同じクラスだった。5年前である。


とはいっても別に仲は良くはなく、わたしはゆりの事をクラスのみんなと同じように呼び捨てで呼ばないし、ゆりはわたしの事を苗字とさんのセットで呼ぶ。
ゆりは顔も可愛い上になんでも容量良くこなしていて、地元のテレビ局に美人だという噂で取材が来たくらいだ。学校中の男子は、みんな可愛いゆりのことが好き。そんな女の子は、周りの女子から反感を買うのはドラマでは定番だったけど、彼女は頭がいいのでそこら辺の立ち回りもよく、「可愛いのに媚びない」と女子にも人気だった。
だからいつも、教室の中で休み時間にみんなが一番集まっている場所に居た。その上勉強の成績も良く、現役で東京にある頭がいい学校に進学した。
どこにも進学して居ないのに、ただただ東京に向かったわたしとは違って。

東京に進学して2ヶ月くらい経った頃に上京した人たちで集まろうとなった。地元志向が強い地域だったので、上京したのはゆりと仲がいいグループとわたしだけだった。仲良い友達もいないし、なんとなく行くのは億劫だったけど、私だけ行かないのはバツが悪いから一応行くことにした。

飲み会の雰囲気には当然馴染めなかった。「進学しないのに東京にきたんだ」という男子の心ない一言を、聞き馴染みのある地元の方言で言われると余計に嫌な気持ちを加速させる。歯を食いしばりながら、ふっと横を見ると話題の中心にいたゆりが居た。彼女は、自分が一番可愛く見える角度で取った写真にInstagramでタグ付けをしたいと言い、大学で新しく作ったアカウントを交換しようとせびっていた。そしてわたしにもその矛先はむく。苗字+さん付けで。一応という程を装って。「田中さん」って。

あー、やっぱり、ゆりのことが嫌いだ。

今までそう思わないでおこうという気持ちが頭から注ぎすぎたコップのように溢れ出してきた。

「今すぐに帰りたい」

最悪な気持ちだったけど交換してあげた。ゆりが持っているのはお酒。警察に通報してやろうかと思った。

「カラオケに行こうよー!」と言ってゆりはみんなを誘っていた。わたしは二次会に行く気分には当然ならなかった。断りを入れることもできたが、なるべく迷惑をかけて帰りたかったので、向かう途中に地図アプリとお店の看板に見惚れているみんなの目を盗んで「みんなわたしのことを心配すればいいのに」と思いながら反対方向に走った。

ネオン街のキラキラした一本道をヒラヒラしたスカートを振りながら走って行く人は珍しいのだろう。野次馬に「おい、失恋か?」叫んだようにからかわれたけど、仕方ないから無視してあげた。

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